西京漬けとは
西京漬けとは、魚の味噌漬けの一種で、米麹を多く使った甘みのある白味噌(西京味噌)を、みりんや酒でのばした漬け床に、軽く塩をした魚の切身を漬け込んだものである。これを焼き上げた料理が「西京焼き」であり、和食の定番として広く親しまれている。
「西京」とは「西の都」すなわち京都を指す。明治維新の東京遷都以降、東の都「東京」に対して京都を「西京」と呼んだことに由来する。従来は京都で造られる甘味の強い白味噌の呼称であったが、今日では京都系の甘口白味噌の総称として広く用いられる。西京味噌は精米歩合の高い米と多めの米麹を用いるため、一般的な米味噌(塩分10%超)に比べ塩分が約5%と低く、麹の糖化による自然な甘みとなめらかな口あたりをもつ点に特徴がある。この低塩・甘口の漬け床が、魚のもつ特徴的な風味を損なわずに引き立てる。
魚を味噌に漬け込むと、漬け込み・熟成の過程で魚肉のタンパク質が分解され、グルタミン酸やアスパラギン酸をはじめとする遊離アミノ酸やうま味に関わるペプチドが増加して、うま味が増すことが知られている。魚を日持ちさせながらおいしく食べるための保存・調理の知恵として発達し、京料理・懐石料理に欠かせない一品として各地に受け継がれてきた伝統的な水産加工品である。
(本文末尾のコラム「味噌の糖分(糖質量)と“焦げ”、そして焼成済み西京焼きの広がり」もご参照ください。)
主な生産地
京都を中心とした関西圏のほか、全国各地で製造される。魚の味噌漬けは各地の水産加工業者が広く生産する一般的な製品である。
生産の動向・消費の動向
近年、消費の現場では、共働き世帯の増加や中食需要の拡大を背景に、骨取り処理済みの切身や、あらかじめ焼き上げて温めるだけで食べられる「焼成済み」タイプ(電子レンジ対応の真空パック等)の需要が伸びている。西京漬けは本来、生の状態で漬け込んだ「生漬け」を家庭で焼いて食べるものであるが、家庭では焼成時に味噌の糖分(糖質量)により身を焦がしやすいことから、近年は焼成済み製品の比重が高まっている。贈答用ギフトや通信販売の伸長も、こうした調理済み需要を後押ししている。
原料選択のポイント
西京漬けの仕上がりは、原料の鮮度と脂の乗り(脂質量)に大きく左右される。脂質の多い魚種ほど西京味噌のまろやかな甘みと調和するため、古くからサワラ(鰆)、サケ・マス類(サケ(通称シロザケ)・ギンザケ・ベニザケ等)、ギンダラ、サバ、マダイ、ブリ、アマダイ、メダイなど、脂ののった魚が用いられてきた。特に京都では、春を告げる魚であるサワラの西京漬けが代表的である。
近年は、白身で脂の乗ったカレイ類の利用も広がっており、とりわけ脂の乗ったアブラガレイ(カラスガレイの近縁種で、北太平洋産の冷凍フィレが流通する)が西京漬けの素材として広く使われるようになっている。輸入冷凍原料を用いる場合は、脂質の酸化(油焼け)や身割れのないものを選別し、新鮮な原料を製品ごとの規格グラムにカットして切身の形・厚みを揃える。これが「漬かりムラ」・「焼きムラ」の防止につながっている。
使用する副原料
漬け床の主体は西京味噌(甘口白味噌)である。製造者によっては、魚種ごとの風味に合わせて複数の白味噌をブレンドして用いることもある。味噌のほか、発酵調味料(みりん・酒精等)、食塩、砂糖などを使用する。用いる白味噌は米麹の配合割合が高く(米が大豆の約2倍)、塩分約5%の甘口で、麹と大豆の粒が残った半ペースト状のものが、作業性から鮮魚の味噌漬けに適している。
加工技術
味噌床に漬け込むと、浸透圧の作用で魚肉から余分な水分が抜けて身がしまり、味噌の塩分・糖分と上品な風味が魚肉に浸透する。同時に、麹菌由来の酵素や味噌中のタンパク質分解酵素の働きで魚肉のタンパク質が分解され、遊離アミノ酸やペプチドが増加してうま味が増す。漬け込みは低温で数日間かけて行い、最もおいしく漬け上がった頃合いを見極めることが、経験に基づく重要な技術である。
また、味噌の糖分は焼成時に焦げやすく、これが西京漬け特有の難しさである。家庭では、表面の味噌を軽くぬぐってから弱めの火でじっくり焼くことで焦げを防ぐことができる。製造現場で焼成まで行う「焼成済み(西京焼き)」製品では、漬け上がった切身の味噌を水で洗い流してから焼く方法も採られる。数日間の漬け込みで中心部まで味が浸透しているため、切身の味噌を洗い流しても風味は保たれ、焦がさずきれいに焼き上げることが可能である。
製造工程の概略
【西京漬け(生漬け)】

【西京焼き(焼成済み)】

加工の実際
- カット 新鮮な原料を製品ごとの規格サイズにカットする。切身の厚み・形を揃えることで、漬かり(成分の浸透)と焼き上がりが均一になる。(写真1)
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- 漬け込み 切身に軽く塩を振りかけて、味噌床に漬け込む。漬け込みは10℃以下で5日間かけて行う。魚種や切身の形態(皮の有無・脂ののり)に応じて、味噌の当て方や並べ方を変えることで、漬かりを均一にする。(写真2)
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- 味噌返し 漬け込み途中で味噌の当たりを均一にするため味噌返しを行い、漬かりムラを防ぐ。
- 味噌洗い(焼成済み品) 最もおいしく漬け上がった頃合いを見て、切身の味噌を取り除く。家庭では軽く拭き取る程度が一般的だが、焼成まで行う製造現場では水でしっかり洗い流す方法も用いられる。身の中心部まで味が浸透しているため、味噌を落としても風味は損なわれず、焦がさずきれいに焼き上げる事が可能である。
- 焼成・冷却 焼き網やロースター(連続焼成機)で焼き上げる。火加減と焼成時間を管理し、味噌の糖分による焦げを防ぎながら香ばしく焼き上げる(写真3)。焼成後は速やかに冷却する。
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- 包装・凍結 1切ずつ真空包装し、金属検出機を通したうえで冷凍する。焼成済み品は電子レンジ対応の真空袋を用い、焼きたての風味を閉じ込めるものが多い。
加工に用いる機器等
連続焼成機(自動魚焼機)、真空包装機、金属検出機、冷凍庫 等
焼成機は焼網を含めた毎日の清掃の徹底が、品質管理と衛生管理の維持に欠かせない。
品質管理のポイント
原料の搬入から製造・保管・出荷まで全工程の記録を取り、製造工程図をもとに危害(リスク)の管理を行う。包装後は金属検出機による異物検査を実施するほか、一定ロットごとに一般生菌数・大腸菌群等の微生物検査を行う。従業員の健康・衛生状態を毎日確認・記録し、始業開始前・作業終業後の清掃を徹底して異物混入を防止する。製品は-18℃以下で冷凍保管する。
安全衛生管理のポイント
生漬け(未加熱)製品は加熱調理用である旨を表示する。アレルギー表示として、味噌由来の大豆のほか、魚種に応じてさけ・さば等を表記する。同一製造ラインでさば・さけ等を扱う場合は、その旨もラベルに注記する。
特徴的な成分
西京漬けの漬け床である白味噌は塩分が約5%と一般の味噌より低いため、焼き上がりの食塩相当量も比較的低く、甘く濃厚な見た目の印象よりも塩分は抑えられている。原料の成分は魚種により異なり、たとえば脂質はギンダラで高く(焼き)、サケ類は中程度である。
製品の形態
切身1切ずつの真空包装し、冷凍保管が基本形態である。贈答用には4切~12切程度を化粧箱に詰め合わせたギフトセットとし、生漬け(西京漬け)と焼成済み(西京焼き)の両タイプが製造されている。焼成済み品は電子レンジ対応の真空袋入りで、温めるだけで食べられる。このほか業務用(料亭・量販店向け)の納品形態がある。(写真4~6)
写真④-1024x649.jpg)
(提供:株式会社サン食品)
写真⑤-1024x684.jpg)
(提供:株式会社サン食品)
写真⑥-1024x683.jpg)
(株式会社サン食品提供)
包装および保管方法
ポリエチレン系包材の袋を用いて真空包装後、要冷凍(-18℃以下)で保管する。賞味期限は製品により設定され、生漬けのセット品では-18℃以下で180日程度とすることが多い。
調理方法および食べ方
- 生漬け 表面の味噌を軽くぬぐい取り、焦げやすいので中弱火でじっくりと焼く。グリルなら片面4~5分ずつが目安で、様子を見ながら焼き上げる。フライパンにクッキングシートを敷いて焼く方法も失敗が少ない。
- 焼成済み品 冷凍のまま真空袋ごと電子レンジで温める(500Wで1袋約2分が目安)。袋がふくらみ蒸気が抜けたら出来上がり。焼き上げた状態で真空包装されているため、家庭で焦がす失敗なく手軽に味わえる。
同類製品例
粕漬け、味醂漬け、柚庵漬け(幽庵漬け)など、調味床に魚の切身を漬け込む複数の製品がある。白味噌を使って魚介や野菜を仕立てた煮物は「西京煮」と呼ばれる。
コラム
「味噌の糖分(糖質量)と『焦げ』、そして焼成済み西京焼きの広がり」
西京漬けの特徴であり、調理上の難しさでもあるのが、漬け床の白味噌に含まれる糖分である。米麹由来の糖類(グルコースやマルトースなど)は、数日間の漬け込みで旨味と甘い香りを生む一方、焼くと焦げつきやすい。そのため家庭では、表面の味噌を軽くぬぐい、弱めの火でじっくり焼く必要がある。
この手間を省くため、製造現場で味噌を洗い落とし、火加減を管理して焼き上げた状態で真空包装する「焼成済み(西京焼き)」が広がった。温めるだけで食べられ、共働き世帯の増加・中食需要の拡大・贈答需要に支えられて、近年は焼成済みタイプの比重が高まっている。このように西京漬けは、生漬けを家庭で焼くものに加え、焼成済みで届ける形へと製品の幅を広げている。
参考文献
・文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 編『日本食品標準成分表2020年版(八訂)』.
・下村道子.魚の調理に関する研究.日本家政学会誌 1997; 48(9): 753–762.
・関洋子,井上なつみ,濱田(佐藤)奈保子.にがりを利用した魚肉のうま味成分の保持.美味技術学会誌 2018; 16(2): 30–36.
・山崎歌織,外西壽鶴子,御木英昌.味噌漬けによるカツオ肉の保存期間の延長と品質改善に関する研究.日本調理科学会平成14年度大会研究発表要旨集 2002, 148.
・阿部宏喜,福家眞也 編『魚の科学』(シリーズ《食品の科学》)朝倉書店 1994.
・中坊徹次 編『日本産魚類検索 全種の同定 第3版』東海大学出版会 2013.
・京都府味噌工業組合HP https://www.kyomiso.com/
(著者:株式会社サン食品 横山 愼二、京都府水産事務所 山本 圭吾)
