湖魚なれずしとは
湖魚なれずしとは、フナ、ウグイ、ハス、オイカワ、アユなど琵琶湖で獲れる魚を塩漬け後、御飯を用いて発酵させ、なれずしとしたものである(なれずしの定義については、第7章 水産漬け物総論を参照)。ふなずし以外で代表的ななれずしとして、うぐいずし、はすずし、おいかわずし、あゆずし、もろこずし、こいずしなどが挙げられる(写真1~6)。
地域によって、珍しいびわますずし(びわ町こけらずし)や、どじょうずし(栗東市)、ナマズも漬けられている。滋賀県では祭礼の神饌(神社や神棚に供える供物)として登場する小魚のなれずし(雑魚ずし)もある。昔はボテジャコも漬けられた。
「なれずし」の定義はデンプン質のものを使って発酵させた魚の漬物のことをいうが、滋賀県では一般に期間の短いものをなれずしと呼ぶことが多い。
発酵の進行役は御飯の好きな乳酸菌である。塩漬け中にも乳酸菌はいるが増えない。飯を加えてから勢いよく増殖して発酵が進行する。日本のように温帯では亜熱帯より気温が低いので、御飯の量を多くして漬ける必要がある。琵琶湖周辺では魚の量と御飯の量は重量ベースでほぼ同量で、大量のお米を使って漬ける。それが日本のなれずしの大きな特徴となっている。このことが今日の寿司のように御飯が主役となる江戸前寿司へと繋がって発展していく基盤となった。
滋賀で漬けられるなれずしの中でも今風の寿司に近いものがある。背開きのおいかわずしがそれで、発酵期間は2週間弱の生なれずしであり、御飯を腹に抱かせて一緒に食べるので、ふなずしより、今風の寿司に近い形になっている。またびわますずし(地元ではこけらずしと呼ばれる)はおいかわずしと同様に発酵飯と一緒に食べる。
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(提供:堀越昌子)
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主な生産地
滋賀県の琵琶湖
生産と消費の動向
漁獲量は年によって変動が大きく、湖魚なれずし生産量も毎年変動が認められる。昭和40年頃までは、ふなずし、はすずし、わたかずし、おいかわずし、うぐいずし、あゆずしが多く漬けられていたが、近年はふなずし、うぐいずし、はすずし、あゆずし、こいずし以外は生産量が減少傾向にある。
うぐいずし、はすずしは、原料が安価なので、祭事食としてだけでなく、日常食としても利用されてきた。特に最近はフナの価格が高騰しているために、フナの代わりにウグイやハスを漬ける人が増加している。
ウグイやハスは共に体長15cm前後の子魚および体長30cm前後の成魚の両方が漬けられる。子魚の場合は、発酵期間が10日から14日、成魚で数ヶ月間漬けられる。雄の成魚は骨が硬いので、雌が好まれている。
原料選択のポイント
おいしいなれずしをつくる一番のポイントは、新鮮な魚を使うことにある。生きた状態でウロコを取り、すばやく塩漬けにすることが重要である。ウグイはうろこが細かいので丁寧に取り除き、卵を残して、内臓を取り去る。成魚の雄雌は、骨の硬さが違うので、分けて漬けた方がよい。子魚は鱗を取らずに腹を割いて、内臓を取り除くだけで漬ける場合が多い。
使用する副原料
なれずしの副原料は、塩と米である。ほかに魚種によって臭みの強いものは、山椒の葉、タデの葉、土生姜などと一緒に漬けられる。焼酎、味醂、酢、砂糖なども好みで使われる。東アジアや東南アジアのなれずしでは、香草、ニンニク、ネギ、香辛料などが多く使われているが、日本は温帯なので、加えられる香草、香辛料の量は少な目である。御飯の量が多いのが日本の大きな特徴である。
ビワマスのなれずしには、千切り生姜を入れて、飯の一割を米麹に代える。どじょうずしには、タデの葉を乾燥したものを砕き御飯に混ぜる。はすずしなどには山椒の葉が加えられる。米麹は甘味を持たせるために使われる。こいずしの場合、御飯の2割量の米麹を加える地域もある。
加工技術
魚を塩漬け後、御飯に漬けて、乳酸菌を増殖させ、産生した有機酸の作用や微生物のプロテアーゼの作用で風味が醸成し、魚は徐々に馴れていく。子魚の場合は1週間強から2週間弱が多い。成魚は数ヶ月間漬けて食べられるようになる。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 フナ(写真7)、ウグイ(写真8)、ハス(写真9)、オイカワ、アユ等が琵琶湖の淡水魚ナレズシの材料として使用されている。
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(提供:堀越昌子)
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(提供:堀越昌子)
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- 魚体処理 魚を獲った後、できるだけ早く鱗と鰓、内臓を取り除く。子魚の場合は、腹をカットして内臓を出すだけで、鱗と鯉を取らない。成魚はふなずしと同じく、卵膜を破らないように、また胆嚢を残さないように注意しながら、鱗、鯉、浮袋、内臓を取り除く。ウグイは鱗が細かいので丁寧に取る。オイカワは背開きにして漬ける場合もある。大きいコイやビワマスは三枚におろし骨をはずしてから塩漬けにする。
- 塩水で洗浄 飽和食塩水に1時間ほど浸けた後、水でさっと洗ってから水切りする。
- 塩漬け 内臓部に塩を当て、体表にも塩をしっかりまぶして桶に漬けていく。塩を惜しまないでしつかり当てることが、美味しくて安全ななれずしをつくるコツである。小魚で1ヶ月、成魚で2ヶ月以上は塩漬けする。
- 塩切り・洗浄・水切り 塩切り後、丁寧に洗ってから1時間以上干して水切りをする。
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- 本漬け 御飯とその他の副材料(麹、生姜など)を用意して、本漬けする。米は硬めに炊いて冷まして使う。炊き上り重量で魚量の等倍から2倍量を使う。桶に御飯を敷いてから魚を重ならないように平らに敷き詰めていく。背開きの魚の場合は、御飯をお腹に抱かせ、魚と魚の間にも御飯を隙間なく詰めていく。その上に御飯の層、魚の層と重層していく。上まできたら塩を振り込んで竹皮か、ナイロン袋で覆い、三つ縄を回してから蓋をして重石を置く。はすずしの場合、塩切魚5kgに対して米2升(3kg)、塩100g、焼酎(酒) 2合(360ml)を用いる。もろこずしの場合、塩切魚1kgに対して米2升(3kg)、みりん1合(180ml)、酢l合(180ml)を用いる。
ビワマスのこけらずしの場合は、塩切りマスを洗った後、5㎜ほどの厚さにスライスして漬け込む。土生姜と魚卵を一緒に漬ける。漬ける御飯は麹を1割ほど混ぜる。御飯の上にマスの切身を敷き詰めていき、千切り生姜、魚卵を振り、また御飯をのせて熟成させることで40日で漬け上がる。
加工に用いる機器
桶、重石
品質管理のポイント
発酵期間の短い生なれずしは、酸っばくなりやすいので桶を開け始めたら出きるだけ早く食べ切る必要がある。そのために食べる日程に合わせて飯漬けにする時期を選ぶ。温度管理が大事で、気温を見ながら発酵具合を調節する。暑すぎる時は涼しい場所に移動させ、冷夏の時や寒い時期には温かい所に置いて発酵を促す。
安全衛生管理のポイント
発酵期間の長い本なれずしでは、有機酸や抗酸化物質が産生されるので、食中毒は起こりにくい。しかし、発酵期間の短い生なれずしは十分注意して漬ける必要がある。1975年頃にハスの生なれずしでボッリヌス食中毒が起こったことがある。塩切りが甘いと食中毒が起こりやすいので十分量の塩を使い、小魚でも1ヶ月以上、大きめの魚では3ヶ月以上の塩切り期間が必要である。
特徴的な成分
生なれずしは、御飯も一緒に食べられることが特徴となる。背開きで漬けたおいかわずし、はすずしなどは、腹に飯を抱かせて漬けるので、適度に御飯に酸味と旨味がついて味わいがある。酸味は主に乳酸によるもので、ほかに酢酸などの有機酸を含む。熟れ過ぎると有機酸とアルコールからエステルが形成されて、酢酸エチルなど独特のエステル臭がすることがある。
健康機能性成分
栗東市のどじょうずし、うぐいずし、雑魚ずしは、農繁期の田植え時期前の春祭に食べられることが多い。昔は厳しい労働に備えて、タンパク質栄養を補給する意味合いがあった。また生菌食物(腸に届く生きた乳酸菌を含む食品)でもあり、整腸作用、免疫力を刺激する作用がある。
ビワマスのなれずしが抗菌力を持つことをバレイショ菌ゲル拡散法で確認されている。
製品の形態・包装
魚のなれずしは、漬け床の発酵飯で覆って脱気パックされて販売されている。どじょうずし、びわますずしなど珍しいすしは店頭に並ぶことは少ない。
調理方法および食べ方
東南アジアでは、生なれずしを生のまま食べることはなく、煮たり,焼いたり、揚げたりしてから食べるが、日本においては、なれずしは基本的に生食で、火を通すことはない。本なれずしは、ふなずしと同じく、酒の肴や御飯とともに、そのまま食べられる。生なれずしも祭時や祝事に皿に盛られて、そのまま食べられている。
湖西の知内川(滋賀県高島市)地区では、唐崎神社の7月の夏祭りに家々で、はすずしを出してもてなす。ハスは6月頃に塩漬けして、夏祭りの10日前辺りから、1週間前辺り(中7日)に飯と合わせて本漬けにする。栗東市のどじょうずしは9月20日前後に漬けられる。生のドジョウを塩切りナマズと一緒にたで飯(蓼を使ったご飯)で漬け込む珍しいなれずしである。8ヶ月後の5月の春祭りに口開けして、神社に供えた後に直会のご馳走としてふるまわれる。
参考文献
・『ふなずしの謎』 滋賀の食事文化研究会編 淡海文庫5、サンライズ出版(1995)
・『湖魚と近江の暮らし』 滋賀の食事文化研究会編 淡海文庫5、サンライズ出版(2003)
・『つくってみよう滋賀の味』 滋賀の食事文化研究会編 サンライズ出版(2009)
・『食べ伝えよう滋賀の食材』 滋賀の食事文化研究会編 サンライズ出版(2012)
(著者:滋賀大学 堀越昌子)
