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第12章 藻類加工品 藻類加工品 総論

第12章 藻類加工品総論

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はじめに

 本図鑑における「第12章 藻類加工品」という分類は、他の章と異なり、加工技術ではなく原料の種類に基づいたものである。そのため、本総論では主として原料となる海藻類の特徴について概説し、具体的な加工技術については他章の総説に譲ることとする。

藻類の分類と生産量

 現在、藻類は「陸上植物を除く光合成生物の総称」と定義されており、ラン藻のような原核生物から、褐藻・紅藻・緑藻といった大型藻類(海藻類)、さらにはクロレラやユーグレナ等の微細藻類まで、包含する範囲は極めて広い。本総説では、藻類加工品の主要な原料である真核生物の大型海藻類に焦点を当てる。

 大型海藻類は、世界で約8,000種、日本近海では約1,500種存在すると推定されている。これらは大きく褐藻(ワカメ、コンブ、ヒジキ等)、紅藻(ノリ、フノリ、テングサ等)、緑藻(アオノリ、ヒトエグサ、アオサ等)に大別される。我が国における生産量は、ノリ(アマノリ類)19.4万t、コンブ類5.3万t、ワカメ4.0万t、モズク類1.5万t(令和6年度、海面漁業・養殖業合計)が上位を占める。一方で、農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」3)によれば、これら以外にもヒジキやテングサ、アオサなど約50種類が食用とされているが、その多くは統計上「その他」に分類される。このことから、藻類加工品は多種多様でありながら、個々の消費量は限定的で地域性が高いことが伺える。

藻場と藻類加工品

 環境省の藻場調査による地域別の藻場面積4)では、能登半島が最大であり、次いで佐渡、秋田、島根、新潟など日本海側の地域が上位を占めている。これに呼応するように、石川県をはじめとする日本海側地域では多様な藻類加工品が伝統的に生産・消費されてきた。例えば、近年全国的に普及している「アカモク」は、秋田県で「ギバサ」、新潟県で「ナガモ」と呼ばれ古くから親しまれてきた。これが全国に広まった契機は、水産研究・教育機構が主催する水産物利用加工関係研究推進会議において、秋田等での利用状況を知った福岡県水産海洋研究センターの研究員が、地元産アカモクの有効活用を試みたことにある。

複雑な藻類の地方名

 このように、地域に根ざしたローカルな消費が多い藻類加工品を整理する際には、名称の混乱という課題がある。藻類は、魚介類と異なり、形態の類似した種が多く、一般人が見分けるのが困難な場合が多いことも相まって、地域によって似通った種が同じ名前で呼ばれたり、2種の海藻の間で標準和名と地方名が入れ替わっているなどの混乱がみられる。筆者のわかる範囲で収集した食用海藻の地方名を表1にまとめた。

成分の特徴

 健康機能性の注目される食物繊維 海藻類は、魚介類とは成分組成が著しく異なる。まずは水分が非常に多く、90%を超えることが多い。また、アマノリ類など一部の例外を除きタンパク質が少ない。成分の多くは炭水化物であるが、その大部分は難消化性の食物繊維である。海藻に含まれる食物繊維は、褐藻類にフコイダン、ラミナラン、紅藻であるアマノリ類にポルフィラン、フノリにフノランなど特徴的な多糖類が含まれ、その健康機能性が注目されている。また、一般に脂質はごく少ない。

ミネラル成分 
 藻類加工品成分の特徴としてミネラルが多いといわれることが多い。海藻類に含まれるミネラル類の中では、鉄とヨウ素が特徴的である。鉄は藻類には多く含まれるが、ヒジキの場合のように加工法(ステンレス釜と鉄釜の違い)による含有量の差がみられるなど注意が必要な部分もある。表2に、主な海藻の栄養成分含有量を示した。

製品の種類

 海藻は、前項に記載した通り、魚介類とは成分組成・原料特性が異なり、水分が非常に多い(90%以上)、タンパク質・脂質が少ない、成分の大半が難消化性の多糖類であるという特徴がある。そのため、加工手段として、水分を低下させる素干し、煮干しといった手法による加工品が本図鑑に掲載した30品目中12品目と多くなっている。

 乾し海苔は紙すきの技術を応用して板状に加工する手法が確立されたという説があるが、乾し海苔以外にもワカメやウップルイノリ、スイゼンジノリなどでも板状に加工する製品が存在する。ワカメ等一部の海藻では貯蔵中に酵素等による組織の軟化や色調の劣化が起こるため、あらかじめブランチング(湯通し)処理や灰をまぶすなどの処理を行った後に干したり、塩蔵したりする加工品も存在する。また、寒天等、藻体の成分の一部を抽出した製品、主成分である多糖の物性を利用したゲル状の加工品(えごねり、あかはたもち)も存在する。

生産の現況と課題

環境変動等と生産量の減少

 ノリ、ワカメ、コンブ等の主要海藻は日本周辺海域の温暖化による環境変動により生産量は低下傾向にある。主要海藻以外の藻類加工品については環境変動のほかに後継者の不在による生産量の減少が起こっている。また、多様な藻類加工品が生産されてきた能登地方においては、2024年1月1日に発生した能登半島地震の影響が懸念される。

海藻の有効利用への期待

 一方で、海藻及びその加工品は、低カロリーであることや水溶性食物繊維が豊富であること、また近年のブルーカーボン(海藻などにより固定されたCO2のうち、海底や深海に蓄積されるもの)としての海藻の重要性が認知されるなどにより、世界的に食品としての海藻に注目が集まっている。今後、我が国で培われた海藻に関する知識と経験が生かされて、藻類の有効利用が進むことが期待される。

参考文献

・山田信夫,海藻利用の科学,成山堂書店,東京,2001.
・農林水産省,海面漁業生産統計調査.
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/
・農林水産省,にっぽん伝統食品図鑑.
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/index.html
・環境省,生物多様性センター,藻場分布調査.
https://www.biodic.go.jp/moba/index.html

(著者:水産研究・教育機構水産技術研究所 石原 賢司)