すくがらすとは
沖縄の方言でアイゴの稚魚(写真1)のことを「スク」、塩漬けを「カラス」といい、すくがらすはアイゴ稚魚の塩蔵品(写真2)である。旧暦の5月頃(新暦では5月下旬~7月上旬頃)にイノー(珊瑚礁内側の遠浅の海)で生まれた稚魚は、外洋域で 3~4週間程度の浮遊期を過ごしたのち、旧暦の6月1日、7月1日、8月1日前後の新月大潮の時、満ち潮に乗ってイノーに大群を成して寄ってくる。 特に6月1日のスクは、夏の到来を告げる風物詩であり漁師の臨時ボーナスと言われている。海岸に寄ってくる体長3cmほどのスクは、卵から孵って1ヶ月の稚魚である。獲れたてのスクは3杯酢、わさび醤油、酢味噌を用い刺身で食されるが、多くは塩蔵品のすくがらすとして加工される。
(本文末尾のコラム「清の使節が記した琉球の味覚」についてもご参照ください。)
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左:新鮮な魚体、 右:塩漬け後の魚体(豊川哲也撮影)
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主な生産地
沖縄県内全域
生産の動向・消費の動向
すくがらす生産に関する統計資料はないが、生産大手企業の生産量から年間数トン程度であると推定される。2021年と2022年は、温暖化の影響などが原因と考えられるが、県産スクの水揚げが皆無であった。さらに2022年と2023年はコロナ禍によるフィリピンでの出荷規制、ロシアのウクライナ侵攻による物流混乱などから海外からの原料輸入も途絶えてしまい、すくがらすの生産が不可能であった。
原料選択のポイント
スクは太平洋中西部からインド洋にかけての熱帯・亜熱帯の海の珊瑚礁域に生息し、月の周期に従い行動する魚である。スクは沖では動物性プランクトンを食べているので臭みはないが、岸近くで海藻を食べるとすぐ特有の臭いを持つようになる。そのため、スクが海藻を食べる前に漁獲する必要があり、加工用原料もこれを用いる。また、塩蔵加工は稚魚をそのまま用いるため、体長4cm以上のスクは骨が硬く塩蔵後も食用に適さない。原料の鮮度低下には最も注意を払う必要がある。漁獲時から魚体温の上昇が始まるため、当日の朝に漁獲されたスクが原料として適している。原料のスクは沖縄県沿岸で漁獲されるが、時期が限定されることから、近年、加工用原料は漁獲期間の長いフィリピン等の海外からの冷凍品の輸入に頼り、その割合は加工原料の約90%を占めている。
使用する副原料
瓶詰の際に、泡盛に漬け込んだ唐辛子が添加される場合がある。塩辛の副原料として風味に大きな影響を与える塩は、イオン交換膜法で製造される精製塩ではなく、太陽と風のエネルギーで製造された天日塩を使用している製造者が多い。
加工技術
塩により水分活性を0.75程度まで低下させ、病原性微生物、耐塩性酵母、カビなどの増殖を防止しつつ熟成させ、独特の風味を醸成する。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 沖縄沿岸産の生鮮原料およびフィリピン産の輸入冷凍原料(写真3)が用いられている。
- 洗浄 24%の塩水で、粘液、夾雑物などを除去する。この洗浄工程は3回行われる(写真4)。
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- 水切り 洗浄工程を終了した原料はザルなどを用いて十分に水切りを行う(写真5)。
- 選別 完全な形をとどめていない不良原料や4センチ以上の大きな原料を除去する(写真6)。
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- 塩混ぜ 原料1kgに対して塩を500gの割合で添加し混合して、原料に塩をすり込む(写真7, 8)。
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- 熟成 熟成は常温で約3ヶ月行う(写真9)。貯蔵熟成期間が短いと臭みが発生し、びん詰め後に白濁を起こす。熟成を開始して1ヶ月を経ると生臭い魚そのものの匂いから塩辛の匂いに変わり始めるが、まだスクは銀色を呈し生魚の面影を残している。3ヶ月を経るとすくがらすの風味が出てくる。
- 貯蔵 過熟成を防ぐため5~8℃の貯蔵庫で保管する。
- びん詰め 出荷に合わせて貯蔵庫からスクを取り出し、びん詰めしキャッピングを行う。製品は、熟成中に染み出した浸出液(写真10)を添加したものと、浸出液を20%塩水に置換した2種類がある。浸出液添加製品はすくがらす本来の風味が生きているが、茶色の液が見栄えの面から敬遠される場合がある。
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品質管理のポイント
他の塩蔵品と同様、微生物制御のための塩分の管理が重要である。製品の水分活性は0.75程度であり、病原性微生物、耐塩性酵母、カビなどの増殖ができない塩濃度である。熟成が過度に進むと製品に白いカビ様の斑点が生じることがあるが、これは析出したチロシン(アミノ酸の一種)の結晶(写真11)である。
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健康機能性成分
成分の同定までは至っていないが、沖縄県工業技術センターの測定において、血圧調整に重要な役割を果たすとされるアンジオテンシン変換酵素阻害活性が認められている。
製品の形態・保管方法
一般的に製品形態は150~300gを充填したびん詰(写真12)が主流であり、常温保管される。
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調理方法および食べ方
一般的に広く用いられている食べ方はすくがらす豆腐(写真13)であり、沖縄豆腐の上へ載せるだけの簡単料理である。塩辛さと旨味が豆腐の味を引き立てる絶妙の組合せで、酒の肴として好まれている。またすくがらすを軽く水洗い後、レモンをかけてもおいしく食べられる。浸出液はチャンプルー料理や煮物などの隠し味として用いる。
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海外製品
フィリピンではBAGGONG PADAS(Salted Ziganid Fish) という名前で同様な製品(写真14)が製造されている。タガログ語でBAGGONGは発酵した魚、PADASはスクである。柑橘類であるカラマンシーのしぼり汁を加え、フィッシュソースとして野菜や果物、米飯につけて食べられる。
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コラム
「清の使節が記した琉球の味覚」
1719年に中国(清王朝、康熙帝)から琉球国へ冊封副使として赴き、尚敬王を冊封した徐葆光は、約8ヶ月間の琉球滞在記録を『中山伝信録』として記している。そのなかにスクにふれた部分は3カ所あり、7月1日と8月1日にスクが群れをなして押し寄せてくるということや、外見は腐ったようであるが噛みしめると味は良く、福建省の人々が珍品として重用していることを記録している。
冊封:中国皇帝が周辺諸国の長を王侯に封じる行為。周辺諸国の君主の使者が貢物を持って来訪する返礼として、まず君主に「王」などの称号を与えて支配権を認め、更に貢物を上回る下賜品を与えて物質的にも中国の優越性を示した。
(著者:沖縄県工業技術センター 比嘉 賢一・豊川 哲也)
