角寒天とは
寒天には冬季の寒冷な気象条件を活用して生産される天然寒天と機械設備により通年生産される工業寒天がある。天然寒天は紅藻類のテングサ(マクサやオバクサ等テングサ科の寒天原藻の総称)やオゴノリなどの海藻(写真1)を煮溶かした液をろ過・凝固させた生天を、凍結・融解により乾燥させたものである。天然寒天は形状により、棒状の角寒天と糸状の細寒天に区別される。凝固の際、約4×5×30㎝に切り分けた生天をそのまま乾燥させ、棒状になった寒天を角寒天といい、切り分けた生天をさらに心太状に細断し乾燥させ、糸状になった寒天を細寒天という。ここでは、長野県における天然角寒天の製造について述べる。
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主な生産地
経済産業省による経済構造実態調査によると、2022(令和4)年の寒天の生産量は長野県が一位で614t、東京都が二位で202t、静岡県が三位で161tである。しかし、この生産量には天然寒天と工業寒天の両方が含まれている。角寒天だけの全国の生産量は公表されていないが、長野県寒天水産加工業協同組合によると、2022(令和4)年の長野県内の角寒天生産量は29tであった。
天然寒天の製造は長野県には1840年ころ、現在の茅野市出身の小林灸左衛門により伝えられた。長野県内でも茅野市を中心とする諏訪地域は冬場の夜間の気温が-5℃以下になり、日中はプラスになる日が多く、さらに降水量も少ない。寒天製造の際の凍結・融解による乾燥を行う場所として最適であることから、この地域での生産が盛んになった。なお、天然寒天の製造工場は原藻の洗浄に大量の水が必要なことから、豊富な地下水が得られる川沿いなどに建てられていることが多い。
原料選択のポイント
角寒天の主な原料(原藻)は紅藻類のテングサ、オゴノリである。原料は日本産のほかに海外からの輸入品も使用される。主な輸入先は、アジアではインドネシア、韓国、スリランカ、アフリカではモロッコ、南アフリカ、南米ではチリなどである。単一原藻で角寒天を作ることはなく、数種類から10種類程度の原藻を組み合わせて製造する。この組合せを「草割り」と呼ぶが、これが製品の品質や歩留まりを左右する重要な要素となっている。原藻は種類、産地や品質によって寒天質に差があるため、業者は長年の経験と実績により消費者のニーズに沿った製品を作るための草割りを決定する。
加工技術
角寒天は、洗浄した原藻を煮熟し、得られた抽出液をろ過、放冷、凝固させ生天を作成する。煮熟の際は酸性にすることが重要で、その際に使われるのは主に硫酸や酢酸である。得られた生天を棒状に切断し、冬期の外気温に晒して凍結・融解を繰り返し脱水したものが角寒天となる。
製造工程の概略

加工の実際
- 水浸し・洗浄 原藻は乾燥状態で届くため、水に浸けて水分を含ませる。その後、砂等を除去するために洗浄する。コンクリートミキサーの中で原藻を回転させながら洗浄するなど、業者独自の方法で効率的に洗浄を行う。(写真2、3)
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- 煮熟・抽出 洗浄した原藻を釜の中で煮て寒天質を抽出するが、釜を火にかけるのは1~2時間程度で、その後蓋をして数時間かけて蒸らす。効率よく寒天質を抽出するには煮熟液を酸性にする必要がある。酸性にするために硫酸や酢酸が使用されるが、原藻の品質や草割りの違いが酸性度に影響されるので、業者はこれまでの経験から適切な酸の投入量を決定している。「六尺釜」と呼ばれる釜の大きさは直径約2m、深さ約3mで、一回に最大400㎏の原藻を煮ることができる。煮熟の作業は釜長と呼ばれる責任者が取り仕切っているが、角寒天製造において製品の品質を左右する極めて重要な工程である。(写真4,5)
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- ろ過・糊つぎ 煮熟液をバケットなどで敷布を張った槽に流し込み、寒天質をろ過する。原藻の残渣は、肥料として畑に埋設される。ろ過された寒天質を内寸30×85×4㎝のモロブタと呼ばれる容器に流し込む作業を「糊つぎ」という。その後数時間かけて寒天質を凝固させたものが生天となる。(写真6,7)
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- 切断・天出し 凝固した生天を天切包丁で5~6㎝幅に切断する。切断した生天を庭と呼ばれる干場へ運搬車で運び、乾燥台の上に広げる。広げた後、乾燥したときに角寒天の形状が保たれるようにするため、ザクと呼ばれる剣山状の道具で生天の表面に釘刺しを行う。(写真8~13)
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(提供:川之辺素一)
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- 凍結・融解 乾燥台に広げられた生天は、夜間に凍結、昼間は融解を繰り返すことで、水分が抜けて角寒天となる。庭での作業は、長年の経験を積んだ庭長と呼ばれる責任者に委ねられている。凍結・融解の進み具合によって、乾燥台を北向きから南向きにする「南返し」を行ったり、乾燥台の上下を入れ替える「振替え」という作業を行ったりと、庭での乾燥作業においても手間暇をかけている。(写真14~16)
- 仕上げ乾燥 乾燥の進んだ角寒天を乾燥台から、目の粗い簀に移して仕上げの乾燥を行う。(写真17)
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- 選別・仮結束 折れてしまったものや乾燥が十分でないものを取り除いた後、600~700本をまとめて仮結束する。商品を傷つけることなく、かつ崩れないようにする縛り加減が必要であり熟練の技が求められる。(写真18)
- 包装 和菓子屋などへは100本や50本単位で包装され販売される。また、一般消費者向けには一袋2本入りの包装が行われ、スーパーなどで販売されている。(写真19)
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加工に用いる機器等
洗浄機、六尺釜、モロブタ、天切包丁、ザク、乾燥台、簀
品質管理のポイント
「食品、添加物等の規格基準」で、寒天1㎏中のホウ素化合物含有量はホウ酸として1g以下と定められている。原藻は産地によってホウ酸含有量の高いものがあり、そのまま使用すると基準値を超える可能性があるため、水浸しの際に酸性の水を使用することがある。
健康機能性成分
角寒天には100g中74g以上の食物繊維が含まれており、さらにカロリーが低いことから健康食品として注目されている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
製品の形態・包装
和菓子等の製造業者へは100本又は50本単位で包装・販売されている。一般向け販売では、一袋2本入り包装が多い。
調理方法および食べ方
羊羹(写真20)など和菓子の原料として活用する。一般家庭では、寒天寄せや牛乳寒などで食べる。また、数時間ほど水に浸した角寒天を水気を切って、手でちぎりサラダにのせて食べる。
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(著者:長野県水産試験場諏訪支場 川之辺 素一)
(協力:有限会社 イチカネト 五味嘉江社長及び従業員の皆様)
