目次
第3章 調味加工品 第1節 佃煮

くぎ煮

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主原料

主生産地

保存方法

冷蔵保存

キーワード

イカナゴ稚魚/しんこ/瀬戸内海/大阪湾/春告魚/玉筋魚

備考

Kugini/伝統的加工品

くぎ煮とは

 くぎ煮とは、生のイカナゴ稚魚(しんこ)を原料とした佃煮であり、見た目が折れ曲がった錆び釘(さびくぎ)に似ていることから名付けられたとされる(写真1
 その発祥年代は、一説には1935年頃、あるいは第二次大戦後に神戸市垂水区から広まったとされる。その普及には、漁協婦人部等が積極的に行ってきた料理講習会の活動が大きく貢献しており、兵庫県のみならず近隣府県でも認知されている。
 しんこ漁期の2~5月には、兵庫県、大阪府の鮮魚店に生のしんこが並ぶ様子や、家々から香る醤油の甘辛い匂いはまさに春の風物詩であり、イカナゴは瀬戸内に春を告げる魚といえる。大鍋で大量に作られたくぎ煮は、家庭で消費するほか遠方に住む家族や友人等への季節の贈り物としても利用されているため、配送業者は「くぎ煮便」と称したサービスを展開することもある。

写真1 イカナゴのくぎ煮(提供:大阪府水産課)

主な生産地

 兵庫県と大阪府が主産地であり、特に兵庫県はくぎ煮発祥の地であるため産業規模が大きい。このほか、香川県や北海道等のしんこが漁獲される地域でも加工業者が存在する。

生産の動向

 近年、瀬戸内海東部海域ではイカナゴ資源が危機的状況に陥っている。特に全国有数のイカナゴ漁場である兵庫県では、1990年頃に3万tを誇ったイカナゴ漁獲量が2022年には2千tを下回っている。このため、かつては1kgあたり数百円であったしんこの販売価格が10倍近くにまで高騰し、地元で水揚げがない時には阪神圏の加工業者が香川県等でしんこの仕入れを行う等、原料確保に苦戦する事態となっている。こうした状況により、一般家庭でくぎ煮を作る文化が失われることが懸念される。

原料選択のポイント

 鮮度が落ちたしんこは調理中に煮くずれするため、くぎ煮に用いられるしんこには鮮度が高いものを使用する必要がある(写真2)。通常は水揚げから数時間以内に加工されるため、水揚げ場の近傍に加工場があることが多い。製品にした時の食味や舌触りの良さから、全長4~5cm程度のしんこは最も評価が高い。

写真2 水揚げ直後のしんこ(提供:木村祐貴)

加工技術

 調味液を強火で煮立たせた鍋にしんこを投入して炊き上げる。焦がさないことと身崩れさせないことを両立させるため、手早くかつ優しく調味液に絡ませることが肝要である。調理後は速やかに冷却することで、適度に硬さのあるくぎ煮に仕上げることができる。

製造工程の概略

加工の実際

 しんこのレシピ例として、1kgに対し、濃口醤油200ml、砂糖(黄ザラ)230g、酒50ml、本みりん150ml、土しょうが50gを用いる。加工業者や家庭によって味付けが異なり、土しょうがの代わりに実山椒を使用したり、水飴を追加することもある。

  • 原料 しんこは当日の朝に水揚げされた鮮度の良いものを厳選する。漁獲から加工までの時間を短くすることが重要である(写真2)

  • 原料洗浄 しんこをザルに入れ、水洗いをし、手早く水を切る。

  • 調理 鍋に醤油、砂糖、みりんを入れ、強火で沸騰させる。沸騰したら、しんこを2、3回に分けて鍋に入れる。ふたたび沸騰してきたら、アク取りをする。しょうがの千切りを入れて、そのまま強火で炊く。煮汁が少量になれば、中火にして鍋を時々打ち返しながら煮汁がほぼなくなるまで煮詰める。

  • 冷却 ザルなどの容器に移し、扇風機やうちわ等で素早く冷却する。

  • 製品 梱包して出荷する。

加工に用いる機器等

 煮釜(大型の鍋)

品質管理のポイント

 しんこにカニの幼生(アレルギー物質)や他の魚が含まれていることがあるので、極力取り除く。調味液が焦げると苦みが強くなるので、煮汁の様子を見極める必要がある。

特徴的な成分

 くぎ煮には骨や内臓がそのまま含まれるため、カルシウムなどのミネラルやビタミン類が豊富である。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)

製品の形態

 小売では100g程度のくぎ煮をトレーやパックに詰めて販売している。贈答用の商品は箱型のパッケージで包装されることがある(写真3)

写真3 くぎ煮製品のパッケージ(提供:大阪府漁業協同連合会)

包装および保管方法 

 小売する場合は、トレーやパックに詰めた後、常温で店頭に並べている。また、家庭では冷蔵庫で保存しているが、長期保存する場合は密閉容器に小分けして冷凍庫で保存している。

調理方法および食べ方 

 温かいご飯のお供のほか、おにぎりの具材としても用いられる(写真4)

写真4 ご飯に乗せたくぎ煮(提供:木村祐貴)

参考文献

・反田 實.「わが国の水産業「いかなご」」 日本水産資源保護協会.2006.

(著者:大阪府立環境農林水産総合研究所 木村 祐貴)