細寒天とは
紅藻類の天草(テングサ)を主原料とし、その煮熟抽出液を凝固させ、心太状に細く突き出し、寒冷な気候を利用して干し上げたもので、糸寒天とも呼ばれる。1647(正保4)年京都伏見で大名宿を営む美濃屋太郎左衛門が薩摩藩主島津公に提供した心太科理の残りを冬季の屋外へ捨てたところ、数日後には自然乾燥し、再び煮溶かすと白く透き通り、海藻臭のない心太になることを発見したのが始まりとされる。当初は「心太の乾物」と称されたが、万治年間 (1658 ~1661年)隠元禅師によって「寒天」と命名された。
製造には、一定気温への低下(-5℃以下)、晴朗にして風雪が少なく、しかも乾燥する気候が求められ、現在では岐阜県恵那市(山岡町,岩村町)から長野県諏訪・伊那地方が主産地となっている。主な用途は和菓子(餡、羊羹等の原料)であり、製品のほとんどは乾物問屋等を通じて全国の菓子製造業者により消費されており、一般市場にはわずかしか流通されていない。
(本文末尾のコラム「創業100年を迎えた岐阜県の細寒天製造業」もご参照ください。)
主な生産地
岐阜県(恵那市)、長野県(諏訪市、伊那市)
生産・消費の動向
全国の統計では、天然寒天(細・角寒天)の生産は1953(昭和28)年の1,968t(内訳は不明)が最高であり、岐阜県の細寒天も昭和49年まで 500t前後を維持していたが、その後輸出が滞り、逆に安価な輸入品(工業的に生産された粉末寒天)が国内でも消費され始め、生産は減少した。2024(令和6)年の生産量は90t(岐阜県70t, 長野県20t)である。
原料選択のポイント
潮流の速い場所で採取される原藻ほど品質は良く、国内各地で産地が形成されている。また、土砂や貝殻等の付着が少なく、精選されたものほど歩留りも良くなる。特に初めて使用する原藻に関しては、事前に抽出試験を行い、製品の歩留りや物性(ゼリー強度,粘度など)を調べて用いられる。
加工技術
テングサに含まれる寒天成分(アガロース、アガロペクチン)が熱水に溶解し、冷水に溶けない性質を利用して製造される。つまり水浸・洗浄したテングサを煮熟し、熱時濾過・搾汁することにより、熱水溶性の寒天成分と熱水不溶性のテングサ残渣(セルロース等)に分ける。搾汁した煮汁は冷めると凝固し、生天となるが、テングサ由来の色素・臭気成分を含むため、これを単に乾燥しただけでは製品とすることはできない。このため、生天を細く突き出し、凍結することで寒天ゲルの保水力を低下させ、続いて融解させることで凍て水(寒天から滴り落ちる融解水)とともに水溶性の色素·臭気成分を流出させる。この凍結と融解を繰り返すことで不要成分を除去し、最終的に乾物とすることで、常温流通・長期保存が可能な製品となっている。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 国産(伊豆、徳島、三重、富山、大分、等)、韓国産(済州島)、ヨーロッパ産(ポルトガル、モロッコ等)の真草(マクサ)が使用される(写真1)。稀に銅鑼草(ドラクサ)、鬼草(オニクサ)、鳥足(トリアシ)が配合される。
- 水浸・洗浄 テングサに含まれる塩分、土砂を取るための水浸であり、数回の換水を要する。また、揉捻機やドラム型の洗浄機(写真2)により付着した貝殻等を落とす。
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(取材協力:山一寒天産業株式会社)
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(取材協力:山一寒天産業株式会社)
- 煮熟 鋳鉄製(もしくはステンレス製)釜に檜製の胴をはめた釜が使用される(写真3)。熱源は重油バーナーかボイラーである。また、煮汁のpHを6.5付近に調整するための加工助剤として硫酸が用いられる。
- 濾過・圧搾 専用の濾過槽が用いられる。濾布を布いた濾過枠に煮熟液を汲み出して注ぎ入れ(写真4)、重石で加重して濾過する。搾汁した濾液は濾過槽の下に位置する大船に一旦貯留し、清澄化させる。
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- 替い越し 清澄化させた濾液をポンプで汲み上げ、小舟或いは凝固船と称される専用のプラスチック製コンテナに注ぐ(写真5)。この工程は、ポンプのない時代に使用した「替い越し」と称される木製容器で濾液を汲み出したことに所以する。なお、濾過残渣は“寒天粕”と称され肥料等として使われる。
- 凝固 室温で約20時間を要する。
- 截ち 専用の「天切り包丁」と「マンガ」を使用し、羊羹状に切り分ける(写真6)。
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- 天突き 小舟のまま屋外の棚場(水田等の圃場に設営)に運び出し、羊羹状に切り出した生天を天筒(専用の木製筒)に投げ入れて棒で突き出し、ところてん状にする。この一連の操作は“筒引き”と称される(写真7)。
- 凍て取り 外気温が氷点下に達する頃、脇に抱えた板氷を鎌で削り、突き出した生天の表面に振りかける“凍て取り”を行う(写真8)。振りかけた氷から氷結させ、同時に風乾を防ぐことで透明感のある上質な細寒天に仕上がる。
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- 乾燥 凍結と融解を繰り返し、約2週間かけて乾燥させる(写真9)。降雨時には葦簀を積み重ねてビニールシートで被う。また、風が強いと風乾し、色択や形状が悪くなる。
- 精選 干し上がった寒天は倉庫に貯蔵され、出荷前に付着した葦簀の切れ端等を取り除く精選を行う。
- 出荷 精選を終えた寒天は20㎏がドラム状に結束・袋詰めされ、乾物問屋・和菓子メーカーに出荷される(写真10)。賞味期限は2年間である。
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加工に用いる機器等
洗浄機もしくは洗浄槽(原藻洗浄用)、煮熟釜(和釜もしくはボイラー釜)、冷凍設備(冬季以外の製造で使用)
品質管理のポイント
ゼリー強度430~530g/cm²(日寒水式ゼリー強度試験、写真11)、60℃での粘度7.0 c.p以上(B型粘度計)が一般的に優良品とされている。また、用途により物性の強弱が求められる場合は、原藻の配合割合を変えて製造される。なお、細寒天の地域ブランドとして知られる“山岡細寒天” (写真12)は、岐阜県寒天研究室(現 岐阜県食品科学研究所寒天研究室)による品質検査と品質向上を目的とした岐阜県寒天品評会(現 岐阜県寒天水産工業組合主催)を1937(昭和12)年から実施してきたことが認められ、2006(平成18)年に特許庁の地域団体商標に登録された(商標登録5008729号)。
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(提供:岐阜県食品科学研究所)
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(提供:岐阜県寒天水産工業組合提供)
製品の形態
細寒天の形状はそのままで、業務用は20kgがPPバンドで結束され、小売用は50~500gが束ねられ、販売される。稀ではあるが、要望に応じて粉末やグラニュール(粗挽き)状の製品も製造される。
包装および保管方法
業務用20kgはポリプロピレン系包材の袋で包装され、倉庫など常温下、暗所で保管される。小売用50g、100g、500g等もポリプロピレン系包材の袋に包装され、常温で保管される。
調理方法および食べ方
ゼリーや蜜豆の寒天にする場合は、寒天の濃度を約0.8%になるように煮溶かし、冷やして固める。また、細寒天の形状をそのまま活かして海藻サラダや寒天ラーメンとしても食べられており、その場合は水に 30分程浸し、良く絞ってから用いる。成分にも特徴があり、74.1%(八訂日本食品標準成分表)が食物繊維で構成され、デンプン等の糖質をほとんど含まない低カロリー食品である。また、熱水に可溶な食物繊維であることから調理(温度、濃度)次第で嚥下・そしゃく困難者にも摂取しやすいといった特長もある。
参考文献
・岐阜県寒天協会.岐阜寒天の五十年史.1975.
コラム
「創業100年を迎えた岐阜県の細寒天製造業」
冬季農閑期の水田と労力を利用した天然寒天の製造は、農山村民の季節的副業として、また外貨獲得のための重要な輸出産業として関西・信州を中心に広く普及したが、岐阜県には公共事業によりもたらされている。農村不況に苦慮した岐阜県は寒天製造業に着目し、1921(大正10)年 菖蒲治太郎(農商務省)と大口鉄九郎(岐阜県農務課)による寒天製造適地実地踏査を行い、1925(大正14)年恵那郡岩村町の吉成重治、河合繁次郎、柴田啓一の三名共同による農林省指定「三ッ岩寒天製造所」が発足した。これが創始となり、2025(令和7)年には創業から100年を迎えた岐阜県の伝統食品となっている。
(著者:岐阜県食品科学研究所 加島 隆洋)
(協力:山一寒天産業 株式会社、岐阜県寒天水産工業組合)
