灰干しわかめとは
鳴門わかめとして有名な“灰干しわかめ”は、養殖もしくは天然の新鮮なワカメに、シダやススキ、稲藁などの草木灰をまぶしたのち天日干しし、灰がついたまま製品とする海藻干製品である。
生のワカメに灰をまぶして乾燥する方法は、180年ほど前、鳴門市里浦町の前川文太郎によって考案されたといわれている。
“素干しわかめ”や“湯通し塩蔵わかめ”に比べ、鮮やかな緑色、歯ごたえの良さ、ワカメ特有の香りを、常温で1年以上保つことができるのが特徴である。
ここでは、兵庫県南あわじ市で生産されている“灰わかめ”の事例を紹介する。
主な生産地
兵庫県南あわじ市、富山県朝日町
生産の動向・消費の動向
“灰干しわかめ”は徳島県、兵庫県、富山県で100年以上前から生産され続けてきており、品質の良さと常温で長期間保存できる利便性から、地元の民宿やホテルの料理、土産物やふるさと便など、昔からの固定客や観光客などに根強い人気がある。近年では生産者の減少が続いているが、各地で“灰干しわかめ”のブランドを守り伝統を絶やさないよう懸命の努力も続けられている。
(詳細は末尾の「コラム(灰干しわかめの歴史と伝承の取り組み)」をご覧ください)
原料選択のポイント
兵庫県では、養殖ワカメは2月上旬~中旬、天然ワカメは3月下旬の漁期はじめの先枯れや色落ちのないものを用いる。天然ワカメは養殖ワカメに比べ、葉が厚く歯ごたえが強い傾向がある。富山県では5月中旬~下旬に採取される天然わかめだけを用いている。
使用する副原料
草木灰、活性炭
従来はシダやススキ、稲藁などの草木灰(写真1)をまぶしていたが、これらの減少に伴い、最近では活性炭等の活用も試みられている。
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加工技術
ワカメに灰をまぶして乾燥させることにより、次のような効果がある。
① ワカメに付着した灰自体が水分を吸水するとともに、灰の粒子によりワカメ葉体の表面積が大きくなり水分の蒸発効率が高まる。
② 灰が付着することで葉体同士が付着しにくくなり風通しが良くなるため、水分の蒸発効率がさらに高まる。
③ 灰が付着することで太陽光線を遮断し、紫外線によるクロロフィルの分解を抑え緑色が長期間保持される。
④ ワカメをアルカリ性にすることで、葉体の生理活性(酵素作用)を停止させ、軟化およびクロロフィルの分解を抑えることで歯ごたえがよく緑色が長期間保持される。
⑤ 灰に含まれるカルシウムの働きで、ワカメに含まれるアルギン酸が水に溶けにくいアルギン酸カルシウムになり、葉体の軟化を防ぎ歯ごたえが良くなる。
⑥ 加工工程中に熱水による加熱処理がないことから、ワカメ特有の香りが良く保持されている。
⑦ 乾燥することで水分活性を低下させるとともにアルカリ性にすることで、微生物の繁殖やカビの発生を常温で長期間防ぐことができる。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 2~3月に刈り取った養殖ワカメと3~4月に刈り取った天然ワカメを使用する。(写真2)
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- 水切り 午後から刈り取ったときや採取量が多い時は、かごに入れたまま一晩放置して水切り脱水を行う(写真3, 4)。以前は、早朝に刈り取った時や量が少ない時に脱水機を使うこともあったが、最近はかごで行うことがほとんどである。
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(提供:南あわじ漁業協同組合)
- 灰まぶし ワカメ20kgに対して灰約4kgを灰まぶし機(もぶり機)に入れて10分程度攪拌して、ワカメ全体に灰をまぶす(写真5, 6)。
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- 乾燥 棒やひもにかけ、晴れた日の日中に天日干しを行う(写真7, 8)。
- あんじょう 天日干しの後夕方から一晩外気に当て夜露であんじょうする。乾燥とあんじょうを2~3日程度繰り返し、茎が緑色になり乾燥して硬くなるまで繰り返し行う(写真9)。
- 一時保管 吸湿しないように樹脂製の袋に10kg程度入れ密封し、光に当たらないように段ボール箱に入れ、小分けするまでの間倉庫で常温保管する。
- 計量・袋詰め 50~100gをポリ袋に入れ密封する(写真10)。
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加工に用いる機器等
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品質管理のポイント
灰まぶしの時にムラができないようにする。乾燥は天日乾燥で行うため、3日間は晴天になるタイミングで行う。製品は吸湿させなければ常温で1年以上保存が可能である。
特徴的な成分
乾燥物は保存性を高めるため、水分を15%以下、塩分を15%以上、強いアルカリ性にしているが、水戻し後は生鮮ワカメと同様の水分、塩分、pHに戻っている。

健康機能性成分
ワカメには腸内環境を整える働きがある食物繊維(3.6g/100g)、脂肪の吸収を少なくしたり、コレステロール値を下げる働きがあるアルギン酸、骨の構成成分で脳神経細胞の安定を図る作用があるカルシウム((100mg/100g)、体の抵抗力を高め新陳代謝を活発にする働きがあるヨウ素(1600mg/100g)が豊富に含まれている。(食品成分データベース:文部科学省より)
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
包装および保管方法
50~100gを湿気を通しにくいポリプロピレン系包材の袋に入れ密封し、段ボール箱に入れて遮光し、風通しの良い常温で保存する。
調理方法および食べ方
① 水洗いして灰をよく落とす。
② ふきんかキッチンペーパーで水気をとる。
③ 適当な大きさに切って、刺身のつま、酢の物、みそ汁の具として利用する
④ 湯通しをせずに使った方が、灰干しわかめの特徴である歯ごたえ、香りがよく味わえる。
同類製品例
徳島県では、灰の代わりに活性炭を使ってつくる”炭干しわかめ“がある。
青森県東津軽郡今別町に、生わかめの葉の部分を燃えている藁に直接投入し、灰をもみ込んだ後、天日干しして乾燥させた“焼干灰わかめ”がある。
参考文献
・鈴木平光他.魚の種別栄養価.「栄養士さんのための魚の栄養辞典」(大日本水産会編)1996.;36
コラム
「灰干しわかめの歴史と伝承の取り組み」
“灰干しわかめ”は徳島県の鳴門市や里浦町、兵庫県の南あわじ市など鳴門海峡に面した地域では180年以上前から、富山県朝日町や東北地方でも100年以上前から生産され続けてきた。しかし、最近は草木灰の減少、後継者不足、環境問題などで生産量が年々減少傾向であったことに加え、2000年(平成12年)1月に施行されたダイオキシン対策法で、“灰干しわかめ”に使用する灰をつくる小型焼却炉が規制の対象になったため、良質の灰の確保が困難になり、“灰干しわかめ”の生産がほとんどできない状況になっている。
徳島県では1983年(昭和58年)には450、1998年(平成10年)には200ほどあった経営体が年間約 300tの生産を行っていたが、2000年(平成12)年2月、県の指導により“灰干しわかめ”から“湯通し塩蔵わかめ”や活性炭を用いた“炭干しわかめ”への転換が図られた。
兵庫県では昭和50年代には100以上あった経営体が、2000年(平成12)では16経営体に、2003年(平成15年)には淡路島の8経営体年間7.5tの生産量に減少し、さらに2023年(令和5年)には2経営体に700kg程度の生産量まで減少している。
富山県でも100年以上前から“灰付きわかめ”が生産されており、最盛期は200経営体以上が村の一大行事として生産していたが、2003年(平成15年)には朝日町の10経営体程度年間約 450kgの生産量まで減少し、2023年(令和5年)は1経営体に減少した。さらに、2024年(令和6年)は、ムラサキウニの食害によって天然ワカメがほとんど取れなくなり、ワカメ資源保護の観点からワカメの採取を取りやめ、初めて“灰付きわかめ”の生産も中止することになった。
岩手県や宮城県などでも50年ほど前までは生産されていたが、現在ではすべて湯通し塩蔵わかめや素干しわかめに代わっている。
一方、兵庫県では地元漁業者や南あわじ市(旧西淡町)が県の試験研究機関と共同で、従来品と同じ品質の灰干しわかめを製産するため“灰干しわかめ用の新しい灰”の開発試験を行った。さらに、“灰干しわかめ”の伝統を守るため、南あわじ漁業協同組合と地元の吉備国際大学が加工技術の伝承に取り組んでいる。
また、富山県朝日町では、県とともにムラサキウニの食害対策を行いながらワカメの資源保護に取り組むとともに、地元農家と協力して米のわら灰を確保し、“灰付きわかめ”の生産を続けられるよう体制を整えている。
青森県では青森地方水産改良普及所と地元企業が約65年ぶりに燃やした藁に直接ワカメを投入してつくる“焼干灰わかめ”の生産を復活させた。
以上のように、生産者の減少が続く中、各地で“灰干しわかめ”のブランドを守り伝統を絶やさないよう、懸命の努力が続けられている。
著者:元兵庫県立農林水産技術総合センター 森 俊郎)
(取材協力:南あわじ漁業協同組合、兵庫県洲本農林水産振興事務所)
(取材協力:富山県朝日町役場、朝日町漁業協同組合、青森県観光交流推進部観光政策課)
