いかなご釜揚げとは
いかなご釜揚げは、全長3~ 4 cmのイカナゴの稚魚(シンコ)や10cm程度のイカナゴの成魚(フルセ)をそのまま塩茹でし、水切り乾燥した茹で加工品である。ここでは、兵庫県で生産されている”いかなごの釜揚げ“の事例を紹介する。
(本文末尾のコラム「春の味覚イカナゴの釜揚げ」もご参照ください)
主な生産地
兵庫県、香川県、北海道、大阪府、岡山県、宮城県、など
生産の動向・消費の動向
イカナゴの漁獲量は全国的に減少傾向で、兵庫県でも2017年頃からイカナゴの漁獲量が急速に減少している。
兵庫県では、主に船びき網漁業によりイカナゴが漁獲されているが、資源管理として1987年から海域ごとに統一解禁日を設定する取り組みを開始し、内容を強化しつつ現在も実施している。2017年からは兵庫県の水産技術センターが行っている調査データ等をもとに、漁業者が漁獲終了日を自主的に決め稚魚(シンコ)の漁獲量を制限する等、自ら厳しい条件を設定し、状況に応じた資源管理に取り組んでいる。2019年からは成魚(フルセ)の漁獲を自粛し、2024年には大阪湾でシンコ漁の操業自粛等、さらなるイカナゴの資源管理の段階に進んでいる。
このように、イカナゴの漁獲量が減少しているのは資源量の減少だけでなく資源管理のため漁業者が漁獲量を抑えていることも影響しており、いかなご釜揚げの生産量の減少にもつながっている。今後、資源管理の成果が出てイカナゴの漁獲量が増え、以前のように釜揚げ製品が多く出回るようになってほしいものである。
原料選択のポイント
イカナゴの稚魚(シンコ)は魚体が小さく柔らかいため極めて鮮度低下が速い魚種である。このため、漁獲されるとすぐに運搬船で港に運ばれ水揚げされる。
原料は身に透明感があり、腹部が餌のプランクトン由来の薄いオレンジ色のものが好まれる。これは茹でた時に身崩れせず、白い魚体の腹部がオレンジ色になり、外観がきれいな製品に仕上がるためである。資源保護のため、イカナゴの成魚(フルセ、カマスゴ)を用いた釜揚げは現在ほとんど生産されておらず、市場に流通している製品はほとんどがシンコの釜揚げである。
使用する副原料
並塩
加工技術
魚体が柔らかく鮮度低下が速いイカナゴを塩水で煮熟することで、加熱殺菌し保存性を高めるとともに、タンパク質を熱変性させ食感を良くし、塩味でおいしく食べやすくする。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 シンコの釜揚げはイカナゴの稚魚を、フルセの釜揚げはイカナゴの成魚を用いる(写真1,2)。
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(提供:兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター)
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(提供:兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター)
- 洗浄 原料を水道水中で水洗いして体表のぬめりと細かなごみを除去する。洗浄時にナノバブル水やマイクロバブル水を使用し洗浄効率を高めているところもある。
- 簾立て 目の細かい網せいろにのせる。
- 煮熟 シンコの釜揚げは、原料魚を洗浄した後網せいろに入れ、直ちに塩分3~ 5 %、水温95~100℃で3~4分間、角釜で煮熟する。漁獲量が多かった時期には、網目のベルトコンベヤーに乗せ自動釜を使って煮熟することもあった。
フルセの釜揚げは、自動釜を使うと魚体を傷めやすいため、従来の四角いせいろに並べ、角釜で煮熟する(写真3)。
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- 水切り 煮熟後のいかなごは、せいろのまま風を当てて素早く水切りをし余分な水分を除去するとともに、粗熱を取り温度を低下させる(写真4)。
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- 冷蔵 せいろのまま、冷蔵庫内で10℃以下まで急速に冷却する。
- 計量 冷却した製品を計量し、プラスチック容器(通称4つ割り)に入れる。
- 異物検査 金属探知機を使用して検査をする。
- 製品 梱包して出荷する。
加工に用いる機器等
魚体洗浄機、煮釜(角釜(写真5)もしくは自動釜)、せいろ(写真6)、送風機、冷蔵庫、計量器、金属探知機 等
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品質管理のポイント
煮熟直後の魚体は柔らかく型崩れしやすいため、特に丁寧な取り扱いが必要である。
安全衛生管理のポイント
製品は、水分が多く、水分活性が高いため(表2、表4)、10℃以下の低温流通が必要である。
特徴的な成分
いかなご釜揚げ(シンコ)の栄養成分を表1に、保存性関連成分を表2に示した。また、いかなご釜揚げ(フルセ)の栄養成分を表3に、保存性関連成分を表4に示した。
いかなご釜揚げは、シンコ、フルセともにタンパク質が豊富な食品である。水分が多いため柔らかい食感であるが、水分活性が高く、pHが中性に近い値で保存性が低い食品であるため、冷蔵や冷凍など低温での流通が必要である。
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健康機能性成分
イカナゴ(生)のカルシウム、リン、鉄等の成分値を表5に示した。いかなご釜揚げは、魚体を丸ごと食することができるため、骨に多く含まれるカルシウム(500mg/100g)や内臓に含まれるリン(530mg/100g)、鉄(2.5mg/100g)も摂取することが可能である。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
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製品の形態
しんこ釜揚げ、ふるせ釜揚げとも首折れや腹切れがなく、魚体の原形を保ったままのものが品質の良いものとされている。しんこ釜揚げの腹部のオレンジ色は餌生物由来のものである(写真7,8)。
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包装および保管方法
一般的に製品はプラスチック製の容器(4つ割り)に入れ、外装梱包の後出荷される。販売時にラップ包装される(写真9,10,11)。
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調理方法および食べ方
シンコの釜揚げは、塩味がついているのでそのまま食べても特有の風味を味わえるほか、ポン酢を少しつけて食べることが多い(写真12)。
フルセの釜揚げは、ポン酢をつけて食べたり、少し焼いて醤油をつけて食べる。シンコの釜揚げと違って、骨や頭の舌触りが気になる場合は取り除いて食べる。
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参考文献
· 2023(R5)年漁業養殖業生産量・生産額(県別統計・兵庫県)
コラム
「春の味覚イカナゴの釜揚げ」
兵庫県の瀬戸内海沿岸は日本有数のイカナゴの水揚げ地で、春の訪れを告げる魚として親しまれている。早朝、カモメの鳴き声とともに一斉に出漁する漁船のエンジンやウインチの音は、神戸市垂水漁港のイカナゴ漁として、環境省が選定した「残したい日本の音風景100選」にも選ばれている。
(著者:元兵庫県立農林水産技術総合センター 森 俊郎)
(取材協力:カネキ水産株式会社(兵庫県)元社長 岸本和義・中原水産有限会社(兵庫県)
兵庫県漁業協同組合連合会・明石浦漁業協同組合・洲本農林水産振興事務所
兵庫県立農林水産技術総合センター水産技術センター)
