目次
第5章 燻製品 第2節 その他燻製品

いらぶー

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主生産地

保存方法

常温保存

キーワード

燻製/宮廷料理/滋養強壮食

備考

Irabu/伝統的加工品

いらぶーとは

 いらぶー(写真とは、エラブウミヘビ属のウミヘビ類を燻製にしたもので沖縄が琉球国であった時代から宮廷料理として用いられていた食材であり、滋養強壮食としてスープにして食される。エラブウミヘビ(写真 2)は全長120cmほどになる半陸棲のウミヘビの仲間で、南西諸島、台湾、中国、フィリピン、インドネシア東部の沿岸域に生息する。本製品に使用される種は、ほとんどがエラブウミヘビであるが、同属のヒロオウミヘビやアオマダラウミヘビ(写真3)も利用される。捕獲したウミヘビは、生け簀で燻製時まで保管したのち、ボイル、うろこ剥ぎ、成形を経て燻製にされる。
(本文末尾のコラム「琉球国の祭祀とイラブー漁」もご覧ください)

主な生産地

  沖縄県久高島

生産の動向・消費の動向

 製造はシーズン中に5~7回行う。現在、いらぶーを製造しているのは久高島のみであり製造・消費ともに年間300㎏程度である。製造は有志で行われており、販売を久高島振興会が担っている。

原料選択のポイント

 生体で胴の直径が3㎝以下の個体は使用しない。また、保管時に弱った個体は燻製にせずに海に放流する。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 漁期はエラブウミヘビの産卵期である旧暦の8月から12月で、夜間に産卵のため上陸するエラブウミヘビを捕獲する。新月あけの若潮のときが漁の好機であり、伝統的には日が暮れてから明かりを消してガマとよばれる岩場の割れ目でエラブウミヘビを手づかみで(写真4)捕獲していた。漁は夜明けまで続き、多いときで十数本捕獲できる。現在は潜水して捕獲しており、岩場で捕獲するより数倍効率が良い。

写真4 ガマでエラブウミヘビを捕獲する(豊川哲也撮影)

  • 保管 捕獲したエラブウミヘビは180~190匹程度になるまで陸上のケージで生きたまま保管する(写真。餌、水は一切与えないが数か月は元気に生きている。

写真5 ケージ中のエラブウミヘビ(豊川哲也撮影)

  • スタニング ケージからエラブウミヘビをとり出し、首をたたき仮死状態にする。咬まれることはないが、毒腺があり毒が傷口などから体内に入るとしびれた様な状態になるので注意する。

  • 煮熟 ここからの作業はバイカンヤー(焙乾屋)(写真とよばれる2間四方(1間は約1.8m)の燻製小屋とその前庭で行う。仮死状態のエラブウミヘビを小屋の中にしつらえたかまどにかけた大鍋で4分茹でて(写真取り出す。

写真6 バイカンヤー(豊川哲也撮影)
写真7 煮熟用なべ(豊川哲也撮影)

  • 前処理 茹でたエラブウミヘビ(写真8)は小屋の外で鱗を剥ぐとともに、腸管の排泄物をしごいて取り除く。 ボイリングと成形後に、再度大鍋で6分茹でたのち、外で放冷し棒状とらせん状に成型する(写真。熱いうちに成形すると焙乾時に皮がくっついて破れてしまい商品価値を失う。

写真8 煮熟後のエラブウミヘビ(豊川哲也撮影)
写真9 成形作業(豊川哲也撮影)

  • 焙乾 成型したエラブウミヘビを、バイカンヤーに運び込み火床のうえにしつらえた簀の子に並べる(写真10)。火床にはモンパノキ葉、アダンの実、モクマオウ、テリハボクの幹を用いる。焙乾工程は6日間行い、2日毎に火床を作りなおす。小屋の温度が冷めて落ち着いたら取り出す。

写真10 焙乾初期の様子(豊川哲也撮影)

  • 保管 いらぶーは冷房をかけた部屋で常温保管する(写真11)

写真11 保管中のいらぶー(豊川哲也撮影)

  • 出荷 新聞紙などで包む。棒状のいらぶーは4~5本まとめてコメ袋にいれて出荷する。らせん状のいらぶーは箱にいれて出荷する。

品質管理のポイント

 腸管の内容物はしっかり取り除く。煮熟が不十分だと、微生物生残や酵素活性残存が起こり品質が低下する。燻製前の成形は身が接触しないように丁寧に成形する。身が接触すると皮が破れて商品価値を失う。

健康機能性成分

 エラブウミヘビの脂質を投与した加齢マウスの水泳時持久力が向上し、疲労時に蓄積される筋肉中の乳酸も減少したとの報告があり、滋養強壮食品としての価値が注目されている。

製品の形態

 店頭では包装などは行われず、逆にいらぶーの姿を強調するように展示販売される(写真12)

写真12 販売形態(豊川哲也撮影)

調理方法および食べ方 

 いらぶーの皮を火であぶり、酢で溶いた米ぬかや小麦粉をつけたタワシですす臭さがなくなるまで擦り洗いをする。5~6cmに切り分ける。いらぶーと戻した昆布を結び、分量の水と一緒に深鍋に入れて5~6時間かけて汁が1/3量になるまで灰汁あくをとりながら煮詰める。いらぶーが軟らかくなったら、いらぶーと昆布を取り出し、汁を布巾で濾す。煮汁をイラブーシンジといい、滋養強壮が目的の場合はこのまま飲用する。食事の汁物としてのイラブー汁(写真13)は、イラブーシンジと鰹だしを用い、イラブーの身と豆腐、豚足、大根などを一緒に煮込んで提供される。

写真13 いらぶー汁(豊川哲也撮影)

コラム

「琉球国の祭祀とイラブー漁」 

 いらぶーは、琉球王朝の祭祀と密接に関連した製品である。イザイホーという祭礼は、久高島で行われる重要な儀式で、神女たちが神々に祈りを捧げる祭りであり、いらぶーはその祭礼の一部として重要な役割を果たしている。琉球国王や最高神女・聞得大君(きこえおおきみ)が渡島しお祈りをする、ハンザナシーの日(旧暦9月)に礼拝をして漁獲が始まり、12月30日に製造を終了する。いらぶーの漁と製造は、神事の世話役だけが行うことができる習わしであったが、後継者不在などの問題から1990年代に製造を中止し10年ほど生産が途絶えていた。2005年に有志数名により漁といらぶー製造が復活した。

参考文献 

・沖縄久高島のイラブー 文化財映像研究会/東京シネマ新社
・沖縄県工業技術センター、平成22年度技術支援事例集、イラブウミヘビ燻製の復活

(著者:沖縄県工業技術センター 豊川 哲也)