目次
第1章 乾製品 第2節 塩干品

からすみ

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主原料

保存方法

冷蔵保存/常温保存

キーワード

ボラ卵巣/ワックスエステル/長崎俵物/地理的表示保護制度

備考

Karasumi/伝統的加工品

からすみとは

 からすみとは魚類の卵巣を塩漬け、乾燥させた塩干品である(写真1)。古くはギリシャ、トルコ、エジプトなど地中海沿岸で製造され、世界各地に製法が伝播した。長崎県内ではボラの卵巣と塩のみを原料として製造されているが、地中海沿岸ではマグロやタラ、台湾ではアブラソコムツなども原料とされ、国内外で多様な魚種のからすみが製造されている。それぞれに食感や味わい、利用法が異なり、塩以外の副原料が用いられることもある。「からすみ」の名称は、一説には形が唐(中国)の墨(写真2)に似ていることから付けられたとされている。
(本文末尾のコラム「からすみの歴史」もご参照ください)

写真1 からすみ(提供:長崎県水産部)
写真2 からすみの名前の由来とされるからすみ(正倉院所蔵品レプリカ)(提供:㈲高野屋))

主な生産地

  長崎県、熊本県、宮崎県、兵庫県

生産の動向・消費の動向

 からすみの生産量は統計資料がなく、正確に把握することはできないが、原料の入荷状況から概ね10~20トン程度で安定しているものと推測される。贈答品、土産物として重宝され、近年はスライスタイプが販売されるようになったことで、手ごろな価格で購入できるようになり、消費の幅は広がりを見せている。また飲食店などの業務筋への出荷も多い。

原料選択のポイント

 からすみ製品の品質は、原料の良否に大きく左右される。長崎の場合、10月下旬~11月中旬に沿岸域に来遊するボラを刺し網や定置網などで漁獲し、鮮度保持並びに脱血処理のため、首を折り即殺する。鮮度が落ちた卵巣は血液が鬱血し、良い製品にはならない。また、完熟卵や未熟卵は原料に適さず、適度な成熟状態の卵巣が良好とされ、これらの判別や、季節を追って産地が変わる加工に適した原料の手配も業者の技術の内である。体長60~70 cmの3~4年魚で、産卵の1カ月位前の250~350gの卵巣が適しているとされる。

使用する副原料

 からすみ製造において塩は、味と保存性向上のため大変重要であり、使用される塩は各社こだわりの使い慣れたものを使用している。

加工技術

 原料のボラ卵巣を塩漬け・塩抜きすることにより、魚卵中の臭み、雑味を取り除くとともに、塩漬・乾燥中に熟成が進み、うま味成分である遊離アミノ酸が増加するとともに、水分活性が低下し、保存性が高まる。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 鮮度良好なボラから得られた卵巣を原料とする(写真3)。成熟度が製品の品質に大きく影響し、未熟すぎるものや、産卵間際のものは原料には適さない。近年は国産原料のみならず、オーストラリアなど海外から買い付けたボラ卵巣の使用も増えている。

写真3 原料に適した成熟度のボラの卵巣(提供:長崎県水産部)

  • 卵巣採取 卵巣の取り出しには、卵巣を傷付けないように、刃の先端が丸くなった特殊なからすみ包丁が使用される(後述・写真11。生殖孔部の腹肉を少し付けて切り取る。

  • 洗浄・血抜き 卵巣を水道水で洗浄しながら、血管内に残った血液があれば指先で押しながら血抜きする。血抜きが不十分なものは良好な製品とならない。

  • 塩漬け 原料卵に対して、同量以上の塩を用い、プラスチック製の漬け樽で卵巣を塩に埋めるように漬け込む(写真4)。塩蔵期間は概ね10日から 1カ月間であるが、長期にわたる場合は新しい塩で漬け直す。塩漬けの終了は、卵巣から脱水された水分が塩水となって漬け塩の上に溜まり、卵巣が固く引き締まるのを目安に判断される(写真5)

写真4 塩漬け直後の様子(提供:長崎県水産部)
写真5 塩漬け終了時の様子(提供:長崎県水産部)
  • 塩抜き 塩漬けされた原料は、サイズや硬さ、塩の浸透度などが個体ごとに異なるため、一定品質の製品を得るためには塩抜きは最も重要であり、また、生産者の経験と勘が求められる工程である。固く引き締まった塩漬け直後の原料を、真水の中で全体が柔らかくなるまで揉みながら塩を抜く(写真6、7)。この際、血管内に残る血液や組織片などが付着していたら丁寧に取り除く。製品の品質は塩抜きの加減に大きく左右される。

写真6 塩抜き作業の様子(提供:長崎県水産部)
写真7 塩抜きが完了した卵巣(提供:長崎県水産部)
  • 整形・乾燥 塩抜き後は、水気を切り、圧をかけながら平らに整形し(写真8)、晩秋から冬にかけての寒風中で乾燥する(写真9)。乾燥機を用いて乾燥する場合もある。乾燥中にじみ出る油分は、良く拭き取る。急激に乾燥させるとひび割れが生じるなど、品質を低下させるため、小型のもので7~10日、大きいものでは10日~2週間かけてゆっくり乾燥させる。生卵巣からの歩留まりは約50%である。

写真8 重石と杉板で圧をかけて整形する様子
(提供:㈲高野屋)
写真9 伝統的な天日乾燥の様子(提供:長崎県水産部)
  • 包装 真空包装し、桐箱等で包装する(写真10)

写真10 木箱入りのからすみ(提供:長崎県水産部)

加工に用いる機器等

  • からすみ包丁 原魚から卵巣を採取する際に使用する。卵巣を傷つけないよう、特殊な形状をしている(写真11)
写真11 からすみ包丁(提供:㈲高野屋)
  • 乾燥機 従来、からすみは屋外で天日乾燥されていたが、近年は異物混入を避けるため、屋内乾燥が増加している。乾燥機を使用する場合は、急激に乾燥させるとひび割れや乾燥ムラなど品質に悪影響を及ぼすため、温風乾燥は行わず、冷風乾燥などにより、ゆっくり乾燥させる。

品質管理のポイント

 製造中に表面に白い粉(主成分はチロシンなどのアミノ酸)や油分が生じることがあるため、都度軽く拭き取る。

安全衛生管理のポイント

 製造工程中に加熱等の殺菌工程が含まれず、また、生食される製品であることから、使用する器具の殺菌や、手指の洗浄など、しっかりと行う。

特徴的な成分

 栄養成分を1。また、特徴的な成分として、ワックスエステルが脂質の約70%を占める。

表1 からすみの栄養成分(第8訂日本食品標準成分表より抜粋)

製品の形態

 高級品は卵巣1対(一腹)分を真空包装し、桐箱などに入れて販売する。高価な製品であることから、近年は卵巣1本の商品や、スライスし1枚1枚真空包装したものなど、手に取りやすい価格帯の商品も増えている(写真12)

写真12 スライスからすみ(提供:長崎県水産部)

包装および保管方法

 真空包装し、木箱もしくは紙箱に入れる。従来常温流通され、長崎から江戸まで運搬し幕府へ献上されるほどの保存性を有しているが、現在は万全を期して要冷蔵で販売されることも多い。

調理方法および食べ方

 表面の薄皮を取り除き、2~3㎜程度に薄切りし、そのままで食する。また、軽く火であぶって香ばしさを引き出して食することもある。開封後は乾燥を防ぐため、ラップなどに包み冷蔵庫で保管する。「からすみは酒の味を一段と芳醇ならしめ、大酔の後も悪息を発することなく酒毒を去る(林 源吉)とされ、日本酒との相性の良さから、酒肴として好まれる。また、スライスしたり、すりおろしてお茶漬けやパスタ、サラダなどにも用いられ、芳醇な風味、濃厚なうま味が料理に花を添える。

同類製品例

 生からすみ(写真13)、からすみパウダー(写真14)、からすみドレッシング、からすみパスタソースなどの派生商品も生産されている。

写真13 生からすみ(提供:長崎県水産部)
写真14 からすみパウダー(提供:長崎県水産部)

海外製品

 台湾(烏魚子:ウーユーズ)、オーストラリア(ボッタルガ、カラスミ)、イタリア(ボッタルガ)、フランス(プータルグ)、ギリシャ(アヴゴタラホ)など

参考文献 

・伊藤克磨他.長崎産ボラ卵巣およびからすみの成分評価.日水誌2006; 72,70-75.
・農林水産省.輸出・国際.地理的表示保護制度(GI).登録産品一覧.登録産品一覧.登録の公示(第132号).登録簿・明細書
 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/0132/.(2024年11月21日参照)

コラム

「からすみの歴史」 

 長崎近海では、気温が低下し乾燥した北西の季節風が吹く秋から冬にかけて、ボラの魚群が産卵回遊のため来遊し、古くから漁獲されてきた。『増補改正幕府時代の長崎』(1913)及び『長崎談叢』(1928)によると、延宝年間(1673年~1681年)に、現在の長崎市で魚屋を営んでいた高野勇助氏が、長崎半島の南端に位置する野母崎で漁獲されたボラの卵巣を用いて「からすみ」を製造する手法を発明したとされている。高鮮度の原料を高い技術で生産した高野屋の「からすみ」が、当時の長崎奉行の目に留まり、正徳2年(1712年)に徳川将軍家に献上された。以来、十五代将軍徳川慶喜公に至るまでの約150年間献上が続けられた。高野屋は現在まで三百数十年に亘り伝統的製法を守りながらからすみを生産しており、現在の代表である高野正安氏は勇助氏から数えて第十四代目である。
 長崎における長いからすみ製造の歴史は、品質を維持するための原料の目利きや加工技術を磨くこととなり、高品質なからすみの生産に必要な匠の技が先祖代々受け継がれてきた。また、鎖国下に交流のあった中国やオランダの影響を受けて育まれた、長崎発祥の食文化「和・華・蘭(わからん)料理」の一つである「卓袱しっぽく料理」には欠かせない食材となっており、長崎の食文化とのつながりも深い。
 「長崎からすみ」は「三河のこのわた」、「越前のうに」とともに日本の3大珍味とされ、江戸時代から「肥前野母の唐墨からすみ」と呼ばれていたが、少なくとも昭和初期には「長崎からすみ」の名称が使われ始め、現在は長崎の伝統的な水産加工食品として広く認知されている。平成30年に「長崎からすみ」の生産の歴史やブランドを守るため、生産者の組織「長崎からすみの会」が結成され、令和5年(2023年)7月には、国内外における模倣品等から名称、ブランドを保護することを目的とした「地理的表示保護制度(GI)」の登録産品に認定された。
写真15 昭和初期の長崎からすみの絵葉書(提供:㈲高野屋)

(著者:長崎県総合水産試験場 山道 敦、元長崎県総合水産試験場 野中 健)
(執筆協力者:有限会社 高野屋 代表取締役 高野 正安、有限会社 藤井からすみ店 代表取締役 福島 正実)