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第10章 缶詰・レトルト 缶詰・レトルト 総論

第10章 缶詰・レトルト総論

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はじめに

 缶詰は原材料を前処理することで非可食部を除去後、耐熱性容器に詰め、密封し、加圧加熱殺菌した食品である。脱気した後に容器を密封することで微生物の汚染を防止し、加熱加圧殺菌することで食品中の微生物を滅菌できるため、常温で長期間の保存が可能である。保存期間中は食品の品質劣化や栄養価の損失は、ほとんど起こらない。また、容器に密封されているので運搬に便利であるうえ、開封して簡単に利用することができる。

 レトルト食品は、プラスチックフィルムまたは金属箔、あるいはこれらを多層に合わせた容器(袋状、パウチ)に調理した食品を詰め、密封し加圧加熱滅菌をした食品をいう。缶詰と同様に保存性が高く、容器を温めるだけで食することが可能である。

 缶詰製造の原理は1804年にフランス人の二コラ・アペールによって発見された。アペールは広口びんに食品を詰め、加熱処理した後に密封を施すことで食品の長期保存を可能とする技術を開発した。ナポレオン帝政期における新しい食品貯蔵法についての懸賞募集にこの方法は当選し、1万2,000フランの賞金を得ている。続いて1810年にイギリス人のピーター・デュランがブリキ缶を開発し、金属容器による貯蔵が可能となった。当時の缶詰は、蓋をはんだで溶封したものであり、今日の二重巻締構造は1897年にアメリカで開発され、二重巻締構造を初めて採用した缶詰は衛生的であることからサニタリー缶と命名された。

 わが国では1871年に長崎の松田雅典がフランス人のレオン・デュリーの指導の下で作成したイワシ油漬缶詰が最初とされる。1877年10月10日には北海道石狩にあった開拓使の缶詰工場(北海道開拓使石狩缶詰工場)でサケ缶詰が製造された。わが国で初めて缶詰が商業生産された10月10日は「缶詰の日」に制定されている。1879年5月には、勧農局の銚子に設置されていた缶詰工場にて、イワシ油漬缶詰が製造された。

 レトルト食品は1950年代にアメリカで軍用携帯食として開発されたのが始まりである。1959年にアメリカ陸軍研究所がレトルトパウチ開発に着手し、1969年には月面調査のためにアポロ11号にレトルトパウチ食品が宇宙食として採用された。

 わが国では、1969年に大塚食品工業からレトルトカレーが、レトルト食品として世界で初めて本格的な生産が開始された。

 水産缶詰の調味形態別では、水煮、油漬、味付、野菜煮、蒲焼、トマトソース煮等がある。水煮が最も多く、魚体を生の状態で肉詰めするものと、冷凍 原料を使用したものがある。原料魚種別にみると、サケ、マグロ類、イワシ、サンマ、サバ等の魚種、カニ、イカ、貝類等の甲殻軟体類など多彩な製品が存在する。

加工技術の原理

 缶詰・レトルト食品は常温下で長期間の保存性を確保する必要があることから、缶詰内における微生物の発育の抑制と、化学的要因による食品の品質劣化の抑制をしなければならない。そのため、缶詰・レトルト食品では、脱気・密封と加熱加圧殺菌の工程が必須である。

 脱気・密封は、缶詰内から空気を除去し、外部の空気と微生物を遮断することができる。特に酸素を取り除くことで、脂質の酸化等の食品成分の変化を抑制することが可能である。

 次に加熱加圧殺菌は、缶詰内の微生物を殺菌し、食品中の酵素を失活させることによって、微生物による食品の腐敗と、酵素による保存中の味や見た目の変化を抑制する。加熱処理前の缶詰内には、カビ、酵母、細菌等の微生物が存在し、これらが増殖することで食品を腐敗させる。特に、缶詰で腐敗の要因となる細菌の中には、耐熱性を持つ種類が存在し、通常の加熱では生存することができる。水産缶詰等の低酸性食品の場合は、常圧を超える圧力をかけながら加熱を行い、120℃で4分間の加熱と同等以上の処理を行う必要がある。

 一方、食品の色彩、栄養価、テクスチャー等は加熱処理の温度が高いほど劣化する傾向にある。そのため、製品の流通や貯蔵の環境条件において、発育しうるすべての微生物を死滅させる最低限度の加熱処理である商業的殺菌が行われることが多い。

原料と一般的な製造方法

 缶詰・レトルト食品は前処理した原材料を加工した状態で使用、もしくは調味液や他食品と組み合わせて容器に詰め、加圧加熱殺菌した食品である。使用容器や製品の種類によって製造工程が多少異なるが、一般的には次のような工程で製造される。

原料受入

 鮮度が良好なものをできるだけ早く加工する必要がある。

解凍・調理

 冷凍原料は流水解凍や急速解凍等によって適切に解凍する。内臓、頭、尾、鱗等の非可食部を除去した後、適切なサイズに切断する。容器に食品を詰める前に目視や、金属探知機、X線検査機等で異物の混入を確認する。

肉詰・注液

 食品を規定量となるように秤量し容器に詰め、次いで水や塩水、食用油、調味液などを注液する。

脱気

 容器内から空気を除去する。加熱中の容器の膨張や内面腐食の防止、食品の品質劣化の抑制が目的である。脱気方法は、蒸気で予備加熱する、真空状態で密封する、二酸化炭素ガスで置換する等が使用される。

密封

 缶詰は、真空巻締まきしめ機による二重巻締で密封する。二重巻締の断面図をに示す。蓋と缶の接続部を折り曲げて密着させた後、接続部を合成ゴムの密封剤で埋めることによって容器内への微生物、外気の侵入を防止する。
 レトルトパウチは、フィルムを熱で溶解させることによって密封する。この方法はヒートシーラーと呼ばれる加熱機を使用して行われる。

図1 缶詰の二重巻締
(資料: 日本缶詰びん詰レトルト食品協会)

殺菌・冷却

 容器を加熱加圧殺菌機に入れて加熱を行う。加熱温度と時間は容器や製品の種類によって異なるが、水産缶詰は110~120℃で30~90分の間で行われることが多い。加熱加圧工程によって、殺菌と同時に魚の骨の軟化等の調理も並行して行うことができる。加熱が終わると、品質変化を防ぐためにすぐに水で冷却する。
 レトルト食品は使用する容器によって殺菌方法が異なるが、一般に高圧殺菌釜(レトルト)を用いて行い、加熱には熱水や蒸気が用いられる。

検査

 缶詰内の真空度、重量過多もしくは不足、巻締不具合等の不良容器を除去する。除去方法は検査員による打検、機械による電子的な検査が用いられる。
レトルト食品は金属探査機やX線検査機を通過させて検査する。

荷造り

 洗浄して汚れを除去した製品は、段ボールに詰め保管後、適時出荷する。

生産の現況と課題

水産缶詰の生産の動向

 我が国における水産缶詰とレトルト食品の生産量の推移を図2、品目別生産量の推移を図3に示した。

 わが国では、1970年代までは、世界中の海で漁獲される水産資源を使用して、国内販売用と輸出用の水産缶詰を大量に生産してきた。しかし、1970年代後半に200海里漁業専管水域が設定されたことで遠洋漁業が衰退し、さらに燃料や労務コスト等が上昇したことで生産量が急速に減少した。2024年の水産缶詰の生産量は6万6,000トンであり、生産量の減少傾向が続いている。

 2024年の水産缶詰の年間生産量のうち、サバ缶詰は約32%を占める。マグロ類にはマグロ類とカツオが含まれており、総じてツナ缶詰といわれる。ツナ缶詰も同様に全体の約44%を占めており、サバ缶詰とツナ缶詰で全体の約80%を占めている。その他にはサケ、イワシ、サンマ、イカ、クジラ、貝類等の缶詰が生産されている。

図2 水産缶詰の生産量の推移
(資料: 日本缶詰びん詰レトルト食品協会. 「缶詰時報」. 1975-2025.)
図3 水産缶詰の品目別生産量の推移
(資料: 日本缶詰びん詰レトルト食品協会. 「缶詰時報」. 1975-2025.)

水産物のレトルト製品

 近年、水産物のレトルト製品については、主に業務用のツナ油漬が生産されており、その他にカニ、サケ、イワシ、サバ等のレトルト食品がある。業務用レトルト食品の生産量が多いが、家庭用レトルト食品も存在し、成型容器詰のレトルト惣菜や、ツナ水煮・油漬が生産されている。

 レトルト食品は1960年代にレトルトカレーが登場し、その簡便さによって生産量を急速に拡大した。1980年代になると製品品目の拡大や中食市場の発展によって生産量が増加した。2022年には生産量は37万tを超えており、生産量は増加傾向にある。レトルト食品のうち、生産量が最も多い品目はカレーであり、その生産量は約16万tと全体の約40%を占める。全食品を併せた缶詰全体とレトルト製品全体の生産量の推移をみると、缶詰製品生産量は1980年をピークに現在では五分の一以下に低下しているのに対し、レトルト製品生産量は大きく増加し、缶詰生産量を大きく上回るようになった。これは簡便化を求める消費者ニーズを反映しているものと思われる。水産物のレトルト食品は約4,000tで推移しており、缶詰製品よりも生産量は低いが、今後増加していくものと考えられる。

今後の展望

 水産缶詰の原材料となる多くの魚介類は、資源量が減少傾向にある。そのため漁獲量が減少し、それに伴い原材料価格の高騰や品質のばらつきによって、原材料の安定確保が困難になっている。また、原材料や容器等の資材の価格上昇や光熱費、人件費も上昇し、缶詰の製造費用が上昇するため、販売価格も上昇することとなり、消費の減退が懸念される。

 一方、近年では、東日本大震災やコロナ禍等を契機として、缶詰やレトルト製品の簡便性や保存性の高さなどから、非常食・備蓄食として見直されている。また、低塩・低添加物・オーガニックなど、健康を意識した缶詰食品の開発も進み、健康志向の高い消費者からも注目を集め、原料や調味料の質にこだわった小ロット生産・高付加価値型の高級缶詰など、幅広い消費者ニーズに対応した付加価値向上、新たな切り口による商品開発も進められている。

参考文献

・海老原清他. 「食べ物と健康,食品と衛生 食品加工・保蔵学」. 講談社. 2024
・小川正他.「新しい食品加工学(改訂第2版)-食品の保存・加工・流通と栄養」 南江堂.2017.
・久保田紀久枝他. 「食品学-食品成分と機能性-」. 東京化学同人. 2016.
・小泉千秋他. 「水産食品の加工と貯蔵」. 恒星社厚生閣. 2005.
・野中順三九他. 「食品保蔵学(改訂版)」. 恒星社厚生閣. 2003.
・福田裕他. 「全国水産加工品総覧」. 光琳. 2005.
・日本缶詰びん詰レトルト食品協会. 「缶詰入門(改訂4版)」. 日本食糧新聞社. 2018
・日本缶詰びん詰レトルト食品協会. 「缶詰時報」. 1975-2025.

(著者:水産研究・教育機構水産技術研究所 三浦 太暉)