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第9章 魚醤油・エキス 魚醤油・エキス 総論

第9章 魚醤油・エキス総論

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はじめに

 石毛 (1987) の定義によれば、魚醤とは、魚介類、小エビを原料として、塩を加えることによって腐敗を防止しながら発酵、保存し、主として原料に含まれる酵素の作用によって筋肉の一部、あるいは大部分が溶けて構成要素のアミノ酸に分解した一群の食品であり、塩辛、塩辛ペースト、魚醤油、小エビペースト、小エビ醤油などが含まれる。これらのうち塩辛は魚介類に塩を混ぜて発酵・熟成させたもので、最終製品に魚介類の形状がいくぶんなりとも残っているものである。一方、魚醤油は、塩辛を長期間発酵させて、原料のほとんどの部分をどろどろに(ほとんどの部分の形状がなくなるまで)分解させてしまい、その液体部分だけをとりだして調味料としたものである。なお、小エビ醤油も小エビを原料にして作った魚醤油である。

 魚醤油の起源は2つあり、1つ目は古代ローマにおいてリクアメン1iquamenあるいはガルムgarumとよばれる魚醤油で、料理の調味料として使用されていたことがアピキュウスの料理書等から知られている。2つ目は今から3000 年前の周王朝初期のことを記録した「周礼」で、「醬用120 かめ」の備えがあったとの記述がある。日本では魚醤うおびしおの記録が、奈良の平城京ができる前の首都である藤原京(694~710年)から出土した当時の公文書「木簡もっかん」に記載されており、これが現在の魚醤油の原型である。

加工技術の原理

伝統的製法 

 伝統的な製法では一般的に新鮮な魚介類に塩を加えて約20~30%の食塩濃度に調整し、常温で腐敗を抑制しながら約数か月から2年の時間をかけ熟成し製造する。熟成中に魚介類の持つ自己消化酵素によりタンパク質がペプチドやアミノ酸に分解され、濃厚で複雑な呈味を有する発酵調味料となる。

速醸技術

 伝統的な製法では熟成期間が長いため、食塩無添加で魚の内臓を破砕し、高温で雑菌を抑えながら自己消化酵素によりタンパク質分解を速める速醸技術が開発された。55℃の温度下で発酵させると自己消化酵素は安定的に作用し最も効率的にグルタミン酸が生成され、発酵1日で従来の方法 (食塩20%、室温、1ヶ月) で得られるグルタミン酸濃度に達している。発酵終了後は120℃で20分間の加熱を行い、冷却後に遠心分離により油分と未分解沈殿物を除去した液に食塩を10~15%添加し、保存中のおりを除くと不快な臭いを抑制された香ばしい香りの速醸魚醤が得られる。
(第1節 魚醤油 「ぶり醤」、「蛍烏賊ほたるいか醤油」 参照)

麹を用いた製造技術

 近年、熟成期間の短縮と歩留まりを上げるため仕込み時に麹を用いる製造技術が取り入れられた。事例研究では魚介類のミンチ肉に麹、食塩、水を加えて発酵させると麹菌によるタンパク質分解が行われ、発酵初期の塩溶解性窒素が増加し、耐塩性の微生物が増殖し、乳酸発酵による乳酸の生成でpHの低下がみられる。また、麹の糖質がもろみ中の耐塩性微生物に利用され、香気成分の生成などによる風味の向上にも役立っている。しかし、仕込み時に海洋由来のヒスタミン生成菌や耐塩性のヒスタミン生成菌の混入がある場合、発酵中のもろみで高濃度のヒスタミン蓄積がみられることがある。

仕込み時の留意点

 前者の場合は原料魚の鮮度や温度管理および仕込み時のもろみの塩分濃度の均一化が必要である。また、後者の場合は仕込み時の発酵スターター (水産発酵食品から選抜されたヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を保有せず、かつ、その受け取りを拒絶する好塩性乳酸菌: Tetragenococcus halophilus 14-1株、8-25株) の添加により発酵初期にもろみ中で速やかなpH低下が起こり、発酵終了までpH 5.0以下に保持できるためヒスタミン生成菌の増殖が抑制され、高濃度のヒスタミン蓄積が認められないと報じられている。ただし、発酵スターターとヒスタミン生成菌の存在比率は1,000 倍以上が望ましいとされていることから、仕込み前のタンクの洗浄も重要である。

原料と一般的な製法

原料

 原料としては、国内で市販されている魚醤油製品ではハタハタ、サバ、ニギス、ブリの内臓、イカの内臓、サケ、ホッケ、サンマ、イカ、ミズダコ、ホタテガイ、ウバガイ、ホッコクアカエビ、バフンウニなどが使用されている。

製造方法

 製造方法については、消費者の嗜好性の変化や地球温暖化に伴う水産資源の変動、醤油醸造技術の普及により、魚醤油製造を取り巻く状況も大きく変化している。近年では、魚醤油は伝統的な製法だけでなく、近海の低利用水産資源の活用、発酵期間の短縮、品質改良を目的として開発された新たな方法によっても製造されている。ここでは非麹添加型魚醤油 (①しょっつる、②速醸魚醬) と麹添加型魚醤油 (③甘えび醤油) の製造例を解説する。

非麹添加型魚醤油(①しょっつる)

製造工程が仕込み工程 (一重線)、熟成工程 (破線)、精製工程 (二重線) の3つに大別される図1①。仕込み工程ではハタハタなどの魚を丸ごと使用し、約30%の塩を振りかけ、樽に漬け込む。熟成工程では常温で1~2年熟成させる。精製工程では90℃まで加熱後、骨や脂質、未分解物の除去・ろ過後にびん詰を行う。伝統的な製法では発酵熟成が約1~2年かかるため、近年、市販酵素剤を仕込み工程で使用して発酵熟成期間を約半年に短縮した製品も開発されている。

非麹添加型魚醤油②速醸魚醬)

 へしこ製造時のサバの副産物やブリの内臓を原料に用いて無塩発酵を55℃で24または72時間行い、加熱後、遠心分離により油分離を行い、15%になるように食塩を添加し、おり引き後にびん詰めを行う。伝統的な製法では食塩20%、発酵期間;室温1ヶ月かかるところを、食塩濃度を低減し、発酵期間を1日に大幅短縮を図る製法である(図1②)。

麹添加型魚醤油 ③甘えび醤油)

 まず塩の浸透を早め、鮮度低下を防ぐため水揚げされた甘えびのうち、特にサイズが小さいものを選び、ミンチにする。次に米麹と塩を加えてよく混合する。食塩と麹の添加タイミングや量に関しては原料の水分を考慮して決定する。これを35℃で約3ヶ月間加温熟成する。産膜酵母の増殖を抑えるため、熟成中はもろみの表面にシートをかぶせる点に留意する。続いて加圧圧搾後、焦げ臭が付かないように湯煎で火入れを行い、オリ下げ処理を行う。オリ下げ剤の種類や量は魚種あるいはそのときの発酵状況によって調整する。オリの分離と、オリからの魚醤油の回収が終了した後、珪藻土ろ過を行い、製品(びん詰・業務用)とする図1③

図1 魚醤油の製造例

製品の種類

 市販されている主な国産および外国産魚醤油製品は表1のとおりである。

生産の現況と課題

魚醤油の年間生産量

 2021年時点で日本の醤油年間生産量が約70万klであるのに対して魚醤油 (公的機関による聞き取り調査) は約950klである。この内北海道地域は600klの生産量である。この理由は4種類 (食塩のみ、酵素利用、麹利用、麹とスターター利用) の製法があり、製造現場の状況に応じて選択し、手短な機材を用いて製造することで初期投資額を減らし、普及が進んだことなどが一因である。

エスニックブームによる新たな展開

 江戸時代の末に穀醤が大量に作られ、全国的に流通するようになると、魚醤油の製造量が減少し、秋田のしょっつる、能登のいしる、香川のイカナゴ醤油などが限られた地域で製造される状態が続いた。しかし、1990年代にエスニック料理ブームで東南アジアの料理が人気となると、料理に多く使用される魚醤油の輸入量が増え、それに伴い国内生産量も増加した。また、同時期に酵素分解で製造する魚醤油も登場し、魚醤油の需要の増加につながった。さらに、魚醤油が干物などの水産加工品の調味液への利用、カレーの隠し味や卵掛けご飯醤油、餃子の隠し味やお菓子の調味用いられるなど、その用途は広がりをみせている。

資源の有効利用

 近年、規格外の魚介類や水産加工残滓の有効活用法の一つとして魚醤油の製造が注目され、全国的な広がりを見せているため、今後も魚醤油の生産は増加すると予想される。一方、地球温暖化に伴い、これまでに魚醤油の生産地で漁獲されていたサケやイカなどの魚醤油原料魚種の漁獲量が減少し、オオズワイガニなどの新たな魚種の出現がみられているが、これらを新たな加工原料として用いるための研究開発が不可欠である。また、国内で地震などの天災が相次ぎ、技術継承が困難となっている生産地もある。このような現状から、今後の魚醤油の生産や普及拡大には、生産者と公的機関の協力も必要となると思われる。

栄養成分と健康機能性成分

 いしるの栄養成分をみるとアラニン、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸、リジンなどの遊離アミノ酸、乳酸、ピログルタミン酸、酢酸、ギ酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸、カリウム、カルシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレンなどのミネラル、ビタミンB2、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ビオチンなどのビタミンが含まれている。また、アンギオテンシンⅠ変換酵素 (ACE) 阻害ぺプチドLeu-Ala-Arg (LAR) が含まれており、高血圧自然発症ラットに経口摂取した結果、血圧上昇抑制作用が認められている。他の魚醤油では、しろさばふぐ醤の酸素ラジカル吸収能 (ORAC) とヒドロキシラジカル消去活性 (IC 50) が市販魚醤油製品30検体中で最も高い結果も得られている。

参考文献

・Harada, K. et al. Antioxidant activity of fish sauces including puffer (Lagocephalus wheeleri) fish sauce measured by the oxygen radical absorbance capacity method. Molecular Medicine REPORTS, 2010; 3: 663-668.
・石毛直道. 魚醬起源と伝播 -魚の発酵製品の研究(8)- 国立民族学博物館報告1987; 14: 199-250.
・道畑俊英ら. イシル(魚醤油)の遊離アミノ酸、オリゴペプチド、有機酸、核酸関連化合物. 日本食品科学工学会誌 2000; 47 (3): 241-248.
・文部科学省. 食品成分表データベース. 2023;https://fooddb.mext.go.jp/ (2026年1月9日参照).
・太田静行. 「魚醤油の知識」幸書房. 1996.
・Sasaki, T. et al. Purification and antihypertensive activity of a novel angiotensin-1 converting enzyme inhibitory peptide from fish sauce, ISHRU. IJCAM., Mar. 2013; 10 (1), 45-49.
・Satomi, M. Effect of histamine-producing bacteria on fermented fishery products. Food Sci. Technol. Res., 2016; 22; 1–21.
・菅原久春. 魚醬の歴史 日本海水学会誌 2016; 70: 283-288.
・Takada, K. et al. Effects of different fermentation starter cultures on the quality of fish sauce prepared from deep-sea smelt. Food Sci. Technol. Res., 2023; 29 (4): 289-300.
・宇田川隆他. 地域資源の有効活用による魚醤類の開発と商品化 古典発酵に学び新商品を創る:「温故創新」. 化学と生物 2018; 56 (12): 826-832.
・山木将悟ら. 水産物におけるヒスタミン食中毒とヒスタミン生成菌. 日本食品微生物学会雑誌 2019; 36 (2): 75-83.
・吉川修司. 北海道の魚醬油とその将来展望. 日本醸造協会誌 2013; 108 (3): 164-171.

はじめに

 細かく砕いた食品に水、熱水、あるいはアルコールを加えて、よくかき混ぜると種々の成分が溶出してくる。溶出した成分をまとめてエキスという。エキスからタンパク質や脂質、色素などの高分子の物質を除いた比較的低分子の物質はエキス分とよばれており、エキス分には遊離アミノ酸、低分子の窒素化合物、有機酸、低分子の糖が含まれる。また、日本エキス調味料協会の自主基準によれば、「エキスとは、食品として用いられる農・水・畜産物・酵母などを原料として、衛生的管理の下に抽出または搾汁、自己消化、酵素処理、精製、濃縮等により製造され、原料由来の成分を含有するもの、またはこれに副原料、呈味成分を加えたもので、食品に風味を付与するもの」と定義されている。

 海外では、1865年に化学者リービッヒが肉エキスを開発し、ロンドンに「リービッヒ肉エキス会社」が設立された。当初、牛肉の煮汁を煮詰め、保存性を高めた栄養補助食品として開発されたが、徐々に調味料としての用途が拡大し、洋風料理に用いるブイヨンとして利用された。日本では海外より歴史が古く、「堅魚煎汁かたうおいろり」は奈良時代の『古事記』に記されたもので、これが現在でいうカツオエキスに該当する。その後、大正8(1919)年、焼津の村松善八商店により鰹節製造で生成する煮汁を濃縮した「鰹の素」が開発され、いわゆる「だし」として使用された。
(第2節 カツオエキス「カツオエキスの歴史」参照)

加工技術の原理

 エキスの製造方法は抽出型分解型に分類される。

 抽出型は熱水抽出法で行われ、「だし」で水溶性のうま味成分を抽出する方法であり、上品な味と風味が得られる。また、水産加工品のボイル処理時に出る煮汁を濃縮する方法もあり、高濃縮品は呈味性が強い特徴がある。

 分解型酵素分解法によって行われ、酵素添加自己消化の2種類がある。酵素添加は、工業的にタンパク質分解酵素を添加してタンパク質を分解する方法であり、原料特有の味や風味を残したエキスを製造することができる。また、酵素の種類を選択することで、特徴の違うエキスの製造が可能である。次に自己消化は原料自体のタンパク質分解酵素を利用する方法で、原料特有の味や風味を残したエキスの製造が可能である。自己消化の場合、多くの酵素が作用するため、様々なペプチドが生成され、味の深みや厚みに特徴のある製品が得られる。

原料と一般的な製法

 エキスの主原料はかつお節やサバ節工場からの煮汁または缶詰工場からの蒸煮液(せんじ)、かつお節(荒節・枯節)(かつお節エキス)、近海産えそ・ぐちまたはそれらをすり身に加工したもの(えそ・ぐちエキス)などがある。①せんじ、②かつお節エキス、③えそ・ぐちエキスの製造法はのとおりである。

 ①は加熱・ろ過が繰り返される際に夾雑物や不純物を除去と濃縮が行われる。②と③の製品の製造では共通して濃縮という操作が行われるが、濃縮前の処理がやや異なる。②は削りや粉末化したかつお節を水やエタノールで抽出後、精密ろ過により清澄化し、濃縮する。③は肉質分離を行い、肉を粉砕後に分解液を遠心分離で油を除き濃縮する。さらに、製品製造上の留意点は①は煮汁(蒸煮液)を高温に保つことで変敗を防止でき、②と③は原材料の選定、製造直後や保管時の温度管理により沈殿が発生しないようにすることで、清澄な濃縮エキスとなる。

図2 エキスの製造例

製品の種類

 エキスは畜産エキス、水産エキス、農産エキスおよび酵母エキスの4種類に大別される。ここではエキス表示における水産エキスの分類例を抜粋してに示す。また、水産エキスは魚介エキス、海藻エキスおよび魚醤に分類される2

生産の現況と課題

 水産エキスの市場動向をみると、2024年の生産量は約5.2万トン、市場規模は約480億円と推定されている。コロナ禍の外食不振の影響で落ち込んだ需要も2022年頃から回復してきたが、水産エキスの5割強を占めるかつお節・カツオエキスの価格が、原料魚であるカツオの漁獲の不振により約2倍に上昇した。現在も価格は戻らずカツオエキスの価格は高値で推移している。カツオに次いで需要量の多い昆布も価格が上昇して高値で推移している。カタクチイワシ、カニ、イカなどの不漁もあり、水産資源の安定的な確保が難しくなっている現状である。そのため、これまで未利用であった水産資源を酵素分解などで有効活用し、味とコストバランスの取れた製品開発が製造業者に求められている。

栄養成分と健康機能性成分

 ツナ缶詰や鰹節の製造時に副生する煮汁からアンセリンを量的に分離精製する技術開発が行われ、カツオ煮汁を限外ろ過膜で除タンパクした後に逆浸透膜を利用することでアンセリンの純度が高められた。この液を電気透析により脱塩し、イオン交換カラムを用いてアンセリンを精製した。アンセリンに相当する画分を回収し、結晶化すると、純度98%のアンセリンが得られている。1%アンセリン水溶液は100℃、pH2~8の加熱条件で分解をほとんど受けないため食品加工での使用に問題がなく、生理機能として抗疲労効果や尿酸値降下作用が認められている。

参考文献

・エキス調味料協会. エキスの表示に関するガイドライン. 2023;
http://www.ekisu.jp/_p/acre/18903/documents/エキスの表示に関するガイドライン_2023年7月20日_初版_.pdf  (2025年10月19日参照).
・編集部. 天然調味料の市場動向 美味しさプラスαの付加価値競争の時代に.食品と開発. 2024; 59 (12): 24-34.
・又平芳春. アンチエイジングを目指した水産物の利用 Ⅲ-1. 機能性食品素材の開発と応用. -アンセリンの特性と機能-. 日水誌, 2011; 77(2): 264.
・仙味エキス株式会社. エキスについて. 2024;https://www.senmiekisu.co.jp/business/ekisu/ (2025年10月19日参照).

(著者:酪農学園大学 食と健康学類 舩津 保浩)