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第5章 燻製品 燻製品 総論

第5章 燻製品総論

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はじめに

 燻製は、古来より水産物の畜産物の保存技術として利用され、現代ではその独特な風味を楽しむ嗜好品へと進化を遂げてきた。水産物の燻製(くん製品)においては、魚介類を塩漬けし、木材を燃やして発生する煙(燻煙)に曝すことにより、燻煙の風味付けと保存性の向上を目指した加工品である。
 なお、農林水産省の「水産加工統計調査」では、燻製品は調味加工品、塩干品、乾製品のいずれかの区分に含まれる。これは分類が「保存形態・加工形態」に基づいており、燻製は横断的技術であるからである。本図鑑では読者に馴染み深い「燻製」を独立した章とした。

燻製の種類

 燻製の製造法は、燻煙温度により冷燻法温燻法熱燻法に大別され、製品特性や用途も多様化しており、製造時の「燻煙温度」と「期間」によって、主に以下の3つの種類に大別される表1

 冷燻法は、原料タンパク質の熱変性を抑えるため、燻煙温度を15~30℃前後に制御しながら長期間処理する方法であり、低水分・低水分活性による保存性の付与が特徴である。近年は温湿度制御技術および装置の進展により、品質のばらつきが少ない冷燻製品の製造が可能となっている。

 温燻法は、30~80℃程度で比較的短時間の燻煙処理による方法で、燻煙香の付与と食感の柔らかさを重視した製品に用いられる。水分が多いため、冷蔵流通が前提となり、製品製造時における温度管理が不可欠である。近年のスモークサーモンは、消費者の嗜好に合わせ、軽い燻煙香と生食感を特徴とする低温短時間処理品が主流となっている。

 このほか、120℃前後で短時間処理する熱燻法は、加熱調理を兼ねた即食型製品として位置づけられている。さらに、燻煙を行わず燻液を利用する液燻法もある。その製造方法は、製造環境の清潔性確保や作業効率の観点から普及している。

 燻煙風味の嗜好には依然として地域性がみられるが、近年は全国的に「マイルドな燻煙香」を志向する傾向が強まり、製品設計の均質化が進んでいる。

加工技術の原理

1.燻煙成分による化学的効果
 木材を熱分解して発生する煙には、多種多様な化学成分が含まれており、これらが製品の保存性の向上と風味を決定づける。

①抗菌・防腐作用:
燻煙中に含まれるフェノール類やホルムアルデヒド、アルデヒド類が微生物に対して強力な殺菌力を発揮する。

②樹脂膜による保護:
燻煙中の成分が食品表面のタンパク質と反応することで樹脂膜を形成し、これが保護膜となり、外部からの雑菌の二次汚染を防ぐ役割を果たす。

③抗酸化作用:
フェノール系化合物には脂質の酸化を抑える性質があり、水産物に含まれる脂質の酸化を防止する。

④香気成分の付与:
燻製品の香気は、主に木材成分(リグニン、セルロース)の熱分解によって生じるフェノール類、カルボニル化合物、有機酸などの複合的な化合物で構成されている。燻製は工程中の乾燥により表面に薄い樹脂膜が形成され、この膜がフェノール類やカルボニル化合物の吸着効率を高め、独特のコクや味の深みを生み出す。燻材として用いる木材の種類によって煙の風合いが異なるため、適した燻材を選ぶ必要がある。

2.水分活性の低下による微生物抑制
 微生物が増殖に利用できる「自由水」を減少させることで、製品の保存性を高める物理的な制御方法である。
(水分活性については、第2章塩蔵品総論のコラム「水分活性とは」をご参照ください)

①脱水プロセス:
燻煙処理前の「塩漬け」と、燻煙中および前後の「風乾(乾燥)とあん蒸」によって食品内の水分量が減少する。

②水分活性の制御:
水分活性が低下することで、多くの細菌やカビは繁殖困難となる。特に冷燻製品では長期間の燻煙・乾燥により、極めて低い水分活性を実現する。

3.加熱による熱的殺菌と組織変化
 温燻や熱燻における重要な工程である。

①熱的殺菌:
60℃以上の温度帯を用いる温燻・熱燻では、加熱そのものによる細菌の死滅が期待できる。

②組織の安定化:
加熱により魚肉のタンパク質が凝固し、身が締まるとともに、うま味成分の流出を防ぐ効果を示す。

原料と一般的な製造方法

1.水産燻製の原料

 水産燻製の原料には、ニシン、サケ・マス類、タラ類、サバ、サンマなどの魚類に加え、ホタテガイ、カキなどの貝類、イカ・タコ類が用いられている。近年は、安定供給と品質均一性の観点から、ギンザケ、ニジマスなどの養殖魚の利用比率が高まっている。

 原料形態はフィレーが主流であり、冷凍原料の計画的利用が一般化している。原料の脂質含量は製品仕上がりの品質に大きく影響し、冷燻品では脂質が過多の場合に乾燥不良、過少の場合に過乾燥による硬化が生じやすい。このため、近年は脂質含量や季節変動を考慮した原料規格化が行われている。また、血合肉処理や脱血工程の高度化により、酸化臭や変色の抑制が図られている。

2.燻材

 燻材には従来から堅木の落葉広葉樹が用いられ、サクラ、ナラ、ブナ、リンゴなどが代表的である。針葉樹は樹脂成分による不快臭やすす発生の観点から一般には使用されない。近年は、燻煙成分の安定化を目的として、粒度や含水率を管理したチップ・オガクズ製品が広く利用されている。

 燻材は十分に乾燥したものを用いることが重要であり、燻材の水分含量・燃焼条件が燻製品の品質(特に多環芳香族炭化水素の量)に影響する。化学処理木材の使用禁止は厳格に管理されており、食品安全の観点から原料履歴の明確な燻材が求められている。近年では、再成型燻材や燻液原料として用途別に設計された製品も普及している。

3.一般的な製造方法

 製造工程は、単に煙をかけるだけでなく、物理・化学的な変化を段階的に引き出す工程である。水産物の燻製は冷凍原料を使用する例が多く、解凍、整形、調味、予備乾燥、燻煙、冷却、包装の工程を経て製造される。調味は食塩のみを用いる方法に加え、砂糖、香辛料、ハーブを用いた付加価値型製品が増加している。

 近年は、工程全体を通じた衛生管理と温度管理が重視され、特にリステリア属菌対策として、環境モニタリングや加熱工程の妥当性確認が行われている。これにより、安全性と品質を両立した燻製品製造が可能となる。

①前処理(塩漬・乾燥)と水分活性の制御
工程: 魚体を塩漬けし、表面を乾燥(風乾)させる。
塩分による浸透圧と乾燥により、微生物が利用できる自由水を減らし、水分活性を低下させる。水分活性が0.70以下になると、腐敗に関与する微生物の増殖が停止する。

②燻煙による化学的保護(樹脂膜と防腐成分)
工程: 木材を不完全燃焼させ、発生した煙を魚体に付着させる。
煙に含まれるフェノール類やアルデヒド、カルボニル化合物が微生物の増殖を抑制し、防腐効果を発揮する。また、これらの成分が魚体表面で「樹脂膜」を形成し、外部からの雑菌侵入を物理的に防ぐ。さらに、メイラード反応により、燻製特有の色調が形成される。

製品の種類

 掲載したスモークサーモン、ブリ燻製、いらぶーのほか、サバ燻製、にしん甘露煮燻製仕上げ、かつお燻製(生利節タイプ)、まぐろ燻製ブロック、ししゃも燻製、あじ燻製スティック、いかくん(イカ燻製珍味)、たこ燻製スライス、ほたて燻製(半生タイプ)、甘えびスモーク(高級珍味系)、かき燻製(オイル漬け)など、種々の製品が製造されている。

生産の現況と課題

1.燻製品の保存性
 燻煙中に含まれるフェノール類や有機酸には抗菌作用があるが、製品中ではその効果は限定的であると考えられている。燻製品の保存性は、主として水分低下、水分活性の制御、塩分や糖類の添加、低温流通によって確保される。
 近年は、保存性評価に水分活性や微生物リスク評価の概念が導入され、科学的根拠に基づく賞味期限設定が行われている。また、真空包装やガス置換包装との併用により、品質保持期間の延長が図られている。

2.燻製装置
 安定した製品品質の燻製品を製造するためには、温度・湿度・燻煙濃度を自動制御できる業務用燻煙装置の導入が一般的となっている。近年はデータ記録機能を備えた装置が普及し、HACCPやトレーサビリティ対応が容易になっている。
 大型装置では排煙処理や臭気対策が重要であり、環境規制への対応も求められる。一方、小規模製造では簡易スモーカーも利用されるが、再現性確保と火災防止の観点から、工程管理の徹底が不可欠である。

3.安全性と品質の両立
 近年では、木材の燃焼時に発生する多環芳香族炭化水素(PAH)などの発がん性物質のリスクも研究対象となっており、これらを低減しつつ風味を維持する技術開発が進められている。

参考文献

・Trond Løvdal. The microbiology of cold smoked salmon. Food Control,2015: 54: 360-373.
・Aulia Andhikawati et al. Methods of Smoking for the Quality of Smoked Fish. Asian Journal of Fisheries and Aquatic Research, 2021: 13: 37-43.
・Md Abdul Baten et al. Effect of hot smoking treatment in improving Sensory and Physico-chemical Properties of processed Japanese Spanish Mackerel Scomberomorus niphonius. Food Sci Nutr. 2020: 8(7): 3957-3968.
・Frieda Jorgensen et al. An investigation of the microbiological quality of smoked fish in England and detection of Listeria monocytogenes strains associated with listeriosis. Journal of Applied Microbiology. 2025: 136(8): 1-9.
・山下由美子.燻製に使用する木材の水分含量等が 食品中の多環芳香族炭化水素類濃度に及ぼす影響の検証. 安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業 研究成果報告書.2020年.

(著者:北海道立総合研究機構中央水産試験場 武田 浩郁)