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第1章 乾製品 乾製品 総論

第1章 乾製品総論

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はじめに

 水産物の乾製品とは、魚介藻類を原料とし、製造工程で乾燥を行うものの総称である。漁獲された魚介藻類は水分を多く含むため、常温で貯蔵すると、細菌の増殖による腐敗や自己消化酵素による品質劣化が起こり、食用に適さなくなる。このため、水産物を利用するうえで、その保存方法の確立は大きな課題であり、魚介藻類から水を除去する乾燥は、塩蔵とともに古くから行われてきた貯蔵・加工法のひとつである。冷凍・冷蔵技術の発達や低温流通の普及によって、今日では保存性を重視する低水分の製品よりも、嗜好性やソフトな食感を重視した高水分の製品が多く製造されるようになっている。
 乾製品の原料となる水産物には、日本沿岸の広範な海域で漁獲されるものと漁獲地が限定されるものがある。また、水産物の種類や性状は、漁獲地や季節によっても異なる。このため、乾製品には全国各地で生産されている製品と、限られた地域の特産品として生産されている製品もあり、その種類は多岐に渡る。また、原料の多様性に加えて、製造法でも乾燥工程に煮熟しゃじゅくや塩水に浸漬するなどの工程が加えられ、保存性および風味に特色ある乾燥品が作り出されている。
 藻類の乾燥品については、第12章で扱われるので、本章では魚介類の乾燥品について述べる。

加工技術の原理

 乾燥は、魚介類の水分を減少させることを通じて水分活性を低下させて、細菌の増殖による腐敗や自己消化酵素による品質劣化を抑制し、貯蔵性を向上させることを目的としている。乾燥は被乾燥物の表面からの水の蒸発(表面蒸発)と内部の水の表面への拡散(内部拡散)によって進行する。表面蒸発が内部拡散よりも強く起こると、原料の内部に水が残留することがある。この現象は上乾うわがわきと呼ばれるもので、上乾きが起こると貯蔵性が損なわれる。乾燥の進行には、温度、湿度、風速および時間などが影響を及ぼす。

乾製品の種類

 乾製品は製造方法によって、素干し品、塩干品、煮干し品、焼き干し品、調味乾製品に分けられる。本章に掲載している主な製品の分類を表1に示した。また、代表的な製品の食品成分を表2に示した。

① 素干し品 
 素干し品は、原料の魚介類をそのままもしくは簡単な調理および洗浄した後に乾燥した加工品である。生産量が多いのはするめであり、多くの地域で生産されている。この他、各地域に水揚げされる漁獲物を原料とした素干し品が生産されており、身欠きにしん、田作り、ふかひれ、たたみいわしなどがある。田作りやたたみいわしは、漁獲後鮮度低下の速い小型のカタクチイワシを原料とするため、原料の鮮度が製品の品質に大きく影響する。このため、原料の水揚げ地に近い地域で主に製造されている。素干し品は水分が20%前後の乾燥度の高い製品が多い。


② 塩干品 
 塩干品は、原料をラウンドのままや身開きなどに調理し、塩を添加したのち乾燥した加工品である。塩の添加方法には、原料を塩水に浸漬する立て塩漬け法と塩を振りかける振り塩漬け法などがある。干物として人気のある乾製品には塩干品が多く、多獲性魚のアジ、サバ、ホッケ、サンマなどを原料とした開き干しは生産量も多い。丸干しでは、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなどのイワシ類を原料としたものが多いが、シシャモ、サンマ、アジ、メヒカリ、ホタルイカなどを原料としたものも多く生産されている。丸干しは、焙焼などによって内臓まで食べられる比較的小型の魚介類を原料として製造される。
 塩干品では、水分が60~70%の製品が多く、中には干しかれいのように75%程度のものもあり、乾燥度の低いものが多くなっている。


③ 煮干し品 
 煮干し品は、原料を煮熟した後、乾燥して仕上げた加工品で、だし取り用素材として生産されているものが多い。煮干しの原料には多くの魚種が用いられるが、生産量の多いのはカタクチイワシとマイワシである。煮干しのうま味成分として重要なイノシン酸は、漁獲後、体内の酵素で分解されやすいので、高鮮度のうちに煮熟し、酵素を失活させる必要がある。だし取り用の煮干し品以外には、水戻しして調理用素材としての用途の多いホタテ貝柱がある。煮干し品の水分は10%台であり、乾燥度が高い。


④ 焼き干し品
 焼き干し品は、魚介類を焼いた後に乾燥した製品である。焼くことによって乾燥が容易になるとともに、香気が付与される。また、加熱により魚体内の酵素が失活し、うま味成分であるイノシン酸の分解が阻止される。主に、煮物や椀物のだしとして利用される。


⑤ 調味乾製品 
 調味乾製品は、魚介類を調味液に漬け込んだ後に乾燥した製品である。調味乾燥品の水分は30%前後である。調味液に含まれる糖分に由来する炭水化物が多いことが特徴である。

各種の乾燥法

 各種の乾製品の製造工程で行われる乾燥は、従来は天日による自然乾燥が主なものであったが、近年は温風乾燥機や冷風乾燥機などで製造した製品が多くなっている。


① 天日乾燥法 
 天日乾燥法(天日干しとも呼ばれる)は、太陽の輻射熱と風などを利用して戸外で行う自然乾燥法である。天日乾燥は、乾燥のためのエネルギーコストが低いこと、特別な機器を必要とないこと、比較的大量の乾燥を一度に行えることなどの利点がある。しかし、乾燥は天候や季節などの自然環境の影響を受ける。また、直射日光を受けるため、魚類などでは脂質の酸化が起こりやすく、夏季などの高温時にはタンパク質の変性も進行する。このため、太陽の光を利用しない自然乾燥法として、一夜干しや陰干しなども魚介類の干物の製造に用いられている。


② 機械乾燥法 
 機械乾燥でよく用いられる方法には、温風乾燥法冷風乾燥法がある。温風乾燥法は、機器によって加熱した気流を作り、この気流で原料を加熱して水を蒸発させ、蒸発した水を気流によって取り除く乾燥法である。冷風乾燥法は、密閉された乾燥器内で冷却機によって除湿、冷却した乾燥度の大きい気流によって原料から水を蒸発させ、取り除く乾燥法である。このとき、原料からの水を含んだ気流は冷却機で除湿、冷却され乾燥器内を循環する。温風乾燥法と冷風乾燥法を比較すると、温風乾燥法は乾燥中に加熱されても品質変化の少ないするめなどの乾燥に用いられる場合が多い。これに対し、冷風乾燥法は乾燥中に脂質やカロテノイドが酸化して品質低下を起こしやすい魚類の乾燥に用いられることが多い。
 機械乾燥法は、自然乾燥法に比べ、機器設備に費用かかり、乾燥にエネルギーコストを要するが、計画的な生産が可能であり、品質の安定した製品が生産できる。


③凍乾法
 凍乾法は、原料内の水を凍結と融解を繰り返して除去する乾燥法で、寒天(第12章参照)や棒だらの製造に用いられる。寒冷地の気候を利用し、戸外で夜間の低温で凍結させ、昼間の気温および太陽の輻射熱で氷結部の氷を溶かし、この水を除去することを繰り返して乾燥する。近年では、工業的な凍乾法も行われている。
 なお、凍乾法は、真空低温環境下で原料内の水を凍結させて昇華させる凍結乾燥法(フリーズドライ)とは異なる乾燥法である。


④ 灰干し法・脱水シート法
 灰干し法は、原料を水の透過性のあるセロファンで包み、水を吸収する効果のある火山灰に埋めることで脱水する方法で、アジやサンマなどの干物の製造に用いられる。この方法では乾燥に大きな設備を必要としないことや、脱水中に空気との接触が少ないことで、脂質酸化などが防止される利点がある。近年は火山灰の入手が困難なことにより、これに代わるものとしてシリカゲルを用いることもある。
 脱水シート法は、原料を脱水シートに接触させ、原料の水を脱水シート内に移行させる脱水法である。この方法は、特別な機器を必要とせず、冷蔵庫(5℃程度)内での脱水が可能なため、脂質やカロテノイドの酸化防止に有効である。

貯蔵中の品質変化

細菌の増殖と酵素反応 乾燥に伴う水分の減少と原料に含まれる成分(溶質)の濃縮によって、微生物が利用できる自由水の量の指標である水分活性が低下する水分活性については第2章塩蔵品総論のコラム参照
 一般に、細菌は水分活性0.9以上、酵母は0.88以上、カビは0.8以上で増殖する。乾製品の中で、水分活性が0.7以下である煮干しいわしや調味乾製品などは常温でも腐敗せず、貯蔵が可能である。これに対し、近年多く製造されている、水分の多い塩干品の水分活性は0.95以上なので、常温では腐敗しやすく、長期間の貯蔵には冷凍する必要がある。原料魚肉の品質劣化を引き起こす酵素反応も水分活性が低いほど起こりにくい。言い換えると、乾燥度合いの低い乾製品は酵素反応による品質変化を起こしやすい。

脂質酸化 乾製品の原料となる魚介類の多くは脂質に高度不飽和脂肪酸を含んでおり、乾燥工程や貯蔵中に酸化すると、変色や酸敗臭を生じ品質低下の原因となる。乾製品の脂質酸化は、原料の魚種によって異なり、イワシ、サバ、サンマなどの脂質含量の高い赤身魚では酸化を起こしやすく、フグやウマヅラハギなど脂質含量の低い白身魚の乾製品では脂質酸化はほとんど問題にならない。同一魚種でも脂質含量によって脂質酸化の進行の様子が異なり、煮干しいわしなどでは、脂質含量の少ないものが酸化による品質劣化を起こしにくいので、高値で取引されることが多い。また、同一の原料を用いても、乾燥度合いによって脂質酸化の進行は異なる。これは高水分活性域と低水分活性域では、脂質酸化が進行しやすいが、中間的な領域では、脂質酸化が起こりにくいためである。
 一般に乾燥度の高い製品(上乾品じょうかんひんと呼ばれる)は、脂質含量の少ない原料が用いられることに加えて、水分活性も脂質酸化が進行しにくい中間的な領域にあるので、脂質は酸化に対して比較的安定である。これに対し、塩分が少なく、水分の多い乾製品の水分活性は、脂質酸化が進みやすい高水分活性域にあるので、これらの製品では、冷凍するなどにより酸化防止策を講じる必要がある。

貯蔵方法

 貯蔵中の品質変化を防ぐために、現在では乾製品の多くは低温貯蔵される。従来は、水分の少ない乾製品は腐敗が起こりにくいので、室温で貯蔵されてきたが、室温では脂質などの酸化や酵素反応によって品質が劣化するため、近年では上乾品でも長期間の貯蔵には冷凍されることが多い。塩分が低く、乾燥度合いの低い乾製品は低温で貯蔵されるが、5℃前後のチルド温度帯でも数日で腐敗する。このため、それ以上の期間の貯蔵には冷凍する必要がある。
 乾製品の多くは空気中で乾燥されるため、乾燥工程で脂質酸化が進行していることが多い。製造工程で脂質酸化が進行した製品では、冷凍貯蔵中に酸化がさらに加速され、品質が劣化する。脂質酸化を防止するための冷凍貯蔵温度は魚種によって異なるが、イワシやサバなどの赤身魚では-30℃以下での貯蔵が必要である。

包装

 比較的水分の高い乾製品では冷凍保存が必要であるが、含気包装では保存中に包装内で霜が発生するとともに製品が乾燥し、商品価値が低下する。一方、真空包装すると冷凍保存時の霜の発生を防止できる。なお、酸素透過性の低いフィルムを用いた真空包装は、脂質酸化の防止には有効であるが、室温や冷蔵保存では細菌の増殖を防止できず、消費期限の延長効果はあまり望めない。
 煮干しいわしなど、貯蔵中の脂質酸化が問題となる乾製品では、酸素透過性の低いフィルムでの包装が、脂質酸化の防止に有効である。しかし、脂質含量の少ない煮干しいわしは、このような包装をしなくても脂質酸化は問題にならない。一方、脂質含量の多い製品では、乾燥工程で酸化が進んでおり、包装によって貯蔵中の酸化を防止しても、乾燥工程で生成された酸化生成物によって褐変(油焼け)が起こる。
 以上のように、包装によって乾製品の品質を保持するためには、被包装物の性状を見極め、適切な包装条件を設定する必要がある。

生産と消費の現況

 現在では乾燥機械や冷凍・冷蔵設備などの普及により、計画的な生産が可能となったほか、貯蔵性よりも嗜好性を重視した乾燥度の低い乾製品が多く生産されている。原料についても、コールドチェーンの発達により高品質な原料が国内の遠隔地のみならず海外からも供給され、これにより一時的な漁獲量の変動に影響されず安定した生産が行われている。例えば、漁獲後の鮮度低下が速い原料を使用する煮干しいわしなどの製品でも、高速道路網の発達により、従来に比べて遠隔地からの原料の供給が可能になっている。
 令和6年(2024年)における塩干品の生産量は89,579トンで水産物の食用加工品の7.0%を占める。煮干し品の生産量は43,982トンで食用加工品の3.4 %である。また、素干し品の生産量は5,099トンであった。生産量を平成27年(2015年)と比較すると、塩干品は54.4%、煮干し品は69.4%、素干し品は37.6%であり、大きく減少している。

 なお、塩干品のなかでは、ホッケ、アジ、サバ、イワシおよびカレイを原料とする製品の生産量が多い(図2)

 消費については、健康志向からの需要の拡大が期待される一方、若年層を中心に、「塩干品を焼く時の煙や臭いが気になる」「骨を取るのが面倒」などの理由で干物などの製品が敬遠される傾向もある。これに対し、水産加工品の生産者は、水産白書でも特集された「マーケットイン」発想に基づいて、消費者ニーズに呼応すべく、骨なし、下味付き、電子レンジ対応製品などの製品開発も行っている。

参考文献

・大島敏明.乾製品.「水産食品の加工と貯蔵」(小泉千秋他編)恒星社厚生閣.2005;93-128.
・滝口明秀他編.「干物の機能と科学」朝倉書店. 2014.
・農林水産省大臣官房統計部. 令和6年度水産加工統計調査結果,水産物流通調査,農林水産統計.
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/suisan_ryutu/suisan_kakou/pdf/suisan_kakou_24.pdf (2026年2月14日参照)

(著者:元千葉県水産総合研究センター 滝口 明秀)