はじめに
ねり製品とは、魚肉(すり身)に食塩を加えて加えてすり潰した後、加熱して得られる製品の総称で、かまぼこ、ちくわ、はんぺんなどが含まれる。
平安時代に書かれた「類聚雑要抄」には、貴族の転居の祝膳の献立にすり身を竹串に巻いて焼いた料理がみられる。現在のちくわに似た料理であり、これがねり製品の原型と考えられている。 すり身を竹串に巻いた形状が蒲の穂に似ていることから蒲鉾と呼ばれるようになったとも言われている。 室町時代から江戸時代にかけて、加熱の方法が、焼く、蒸す、油で揚げるなど多様化するとともに、貴族や武家だけでなく、庶民の食卓にも載るようになった。明治時代になると、魚肉を食塩とともにすり潰すための擂潰機など機械化が進み、生産量が増大した。
ねり製品の原料は、もともと前浜で獲れる地魚であった。代表的なものは小田原のオオギス、明石のハモ、宇和島のエソなどである。これらの前浜の魚を原料として、日本各地で地方色に富む様々なねり製品の加工が発展した(図1)。ねり製品の生産量が増加すると、地魚だけで原料をまかなうことが困難となり、1920年代には以西底びき網で漁獲されるグチ、エソ、ニベなどが用いられるようになった。さらに1960年代からは、新たに開発されたスケトウダラ冷凍すり身がねり製品の原料として広く用いられるようになっている。1980年代の後半からは、国連海洋法条約によりベーリング海でのスケトウダラの漁獲が困難となり、アメリカからスケトウダラ冷凍すり身が輸入されるようになった。現在では、スケトウダラだけでなく、イトヨリダイ、タチウオ、ホキ、ミナミダラなどの冷凍すり身も東南アジア、中国、南米などから輸入されるようになって、ねり製品原料の国際化が進展している。

加工技術の原理
ねり製品は、他の水産加工食品にはない独特の弾力を特徴としている。この弾力は「足」と呼ばれる。ねり製品の独特の弾力は、タンパク質のゲル化反応を通じて形成される。ゲルとは、タンパク質や多糖類のような鎖状の高分子が絡まりあって網目のような構造が作られ、その中に水が閉じ込められている状態である。ねり製品の場合は、魚肉の主成分である筋原線維タンパク質が網目構造の主体となっている。この筋原線維タンパク質は、水には溶けず、2~3%程度の食塩水に溶解する塩溶性タンパク質であり、魚肉タンパク質の60~70%を占めている。
タンパク質は20種類のアミノ酸が鎖状に結合した高分子であるが、生体内でそれぞれの機能を発揮するために固有の立体構造を有している。この立体構造が加熱や冷凍などによって不可逆的に変化することをタンパク質の変性という。魚類の筋原線維タンパク質は、陸上哺乳動物のそれらに比べて、きわめて変性しやすいことを特徴としている。しかも、筋原線維タンパク質の変性のしやすさは魚種によって異なり、低い水温に棲息する魚種ほど変性しやすいことが知られている。凍結貯蔵中に筋原線維タンパク質が変性した魚肉からは、弾力のあるねり製品を作ることができなくなる。
ねり製品の製造工程
魚体から採肉し肉挽した魚肉は落とし身と呼ばれる。魚肉からねり製品を製造する工程は、落とし身の水晒しと脱水によるすり身の製造工程、すり身に食塩を加えてすり潰す擂潰(塩ずり)工程、塩ずりしたすり身(塩すり身または肉糊)を加熱する工程に大きく分けられる(図2)。このうち、すり身の製造から擂潰までの工程では、筋原線維タンパク質の変性を抑制するために、魚肉(肉糊)を低温に保持することが必要である。

① 水晒しと脱水
すり身の製造における水晒しと脱水の目的は、魚肉中の水溶性成分や臭気成分を除き、水に不溶で、ねり製品の弾力形成に重要な役割を果たす筋原線維タンパク質を濃縮することである。もともと、冷蔵設備が不十分な時代に遠方から運ばれてきた原料の魚は、加工するうえで臭気の除去が不可欠であったことから、臭気を除去するために徹底的な水晒しが行われていたが、水晒しを通じて筋原線維タンパク質が濃縮され、弾力が強化されることがわかってきた。また、水晒しによって魚肉の色素成分が除かれるので、水晒しは、ねり製品の色調(白さ)を改善するうえでも重要である。水晒しの度合い(回数や用水量)は原料の種類と状態や製品に求められる品質によって異なっているが、筋原線維タンパク質が変性しないように、低温の水を用いることが不可欠である。水晒しした魚肉は、加圧や遠心分離によって脱水される。水晒しを繰り返すと、魚肉が膨潤して脱水しにくくなることがあるので、膨潤を抑制するために、最後の水晒し用水にはカルシウム塩などの中性塩が添加されることもある。
イワシやサバなどの赤身魚では、魚の死後に魚肉のpHが5.8前後まで低下し、低温下でも筋原線維タンパク質の変性が促進され、ねり製品原料としての加工適性が失われる。このため、赤身魚をねり製品原料とする場合は、漁獲後、できるだけ早く重曹を含む弱アルカリ性の用水で水晒しすることが必要である(アルカリ塩水晒し)。
冷凍すり身の製造では、水晒しの工程は機械化されている。冷凍すり身の品質を制御するため、機械化された工程中の諸操作が品質に及ぼす影響についての検証も進められている。冷凍すり身では凍結貯蔵中の筋原線維タンパク質の変性を抑制するために、変性防止剤として、ソルビトールなどの糖類化合物と重合リン酸塩が添加されている。
② 擂潰
水晒しして脱水された魚肉(すり身)に食塩やその他の副原料・調味料などを加えて練りあげる工程は、擂潰と呼ばれ、石臼式擂潰機、サイレントカッター、真空カッターなどが用いられる。食塩を加える前にすり身を攪拌・混合することを空ずりと言い、魚肉の線維をほぐすことによって、食塩を加えた後の塩ずり(荒ずり)を容易にする操作とされる。すり身に2~3%の食塩を加えて塩ずりを始めると、次第にすり身の粘稠性が増して糊状となることから、この状態のすり身は肉糊(塩すり身)と呼ばれる。これは塩溶性の筋原線維タンパク質が溶出するためである。一方、塩ずり中に発生する摩擦熱によって肉糊の温度が上昇すると、筋原線維タンパク質の変性が起こり、製品の弾力が低下する。したがって、塩ずりの過程では、すり身の温度を低温に保ちながら、食塩をすり身に速やかに分散させて食塩濃度を上昇させることが重要となる。塩ずりに続いて、低温に保持された肉糊に各種の調味料とでん粉などの副原料を添加・混合する過程は、本ずりと呼ばれる。でん粉を添加する目的は弾力の補強である。
③ 加熱
・坐りと二段加熱 すり上がった肉糊は、それぞれの製品の形状に成形された後、加熱される。製品の弾力を増強するために、成形した肉糊を、最初に50℃以下の低温で加熱した後、90℃前後で加熱する二段加熱が行われることがある。50℃以下で低温加熱する工程は坐り工程と呼ばれる。この過程では、筋原線維タンパク質の網目構造が形成され弾力が生成する。さらに90℃前後で加熱すると、その網目構造が強化されて弾力が大きく増加する。この網目構造は肉糊中の筋原線維タンパク質が変性して絡まり合う(凝集する)ことによって形成される。
・網目構造の形成と様々な結合 この絡まり合いには、タンパク質を構成するアミノ酸の間にできる様々な結合が関与している。アミノ酸の水素原子と酸素原子が引き合う水素結合、水になじみにくいアミノ酸どうしの相互作用、アミノ酸中の硫黄原子の間の結合、酵素によって形成される特定のアミノ酸の間の結合などが網目構造に寄与すると考えられている。どの結合が網目構造の形成に強く関与するのかについては、魚種や加熱温度によって異なる。
・戻りと網目構造の崩壊 一方、50~70℃で肉糊が加熱されると、弾力は大きく低下する。この現象は、戻り(火戻り)と呼ばれる。これは、この温度帯で網目構造が崩壊するためであるが、その原因の詳細については未だ明らかではない。肉糊の坐りやすさや戻りやすさは魚種によって大きく異なる。また、同じ魚種でも漁獲時期などによっても異なる場合もあるので、加熱工程における温度と時間の調節は、製品の弾力の形成にきわめて重要である。
・食品衛生法による製造基準 ねり製品は食品衛生法で製造基準や保存基準が定められている。一般的な簡易包装かまぼこでは、製品の中心温度が75℃以上になるように加熱しなければならない。常温流通する魚肉ソーセージなどでは、製品の中心部を120℃、4分間加熱するレトルト殺菌が行われる。真空包装した製品では、包装後に再加熱(2次加熱)される。
製品の種類
ねり製品は製品の加熱方法と形状によって分類される(表1)。

加熱方法としては、蒸煮(蒸し)、焙焼(焼き)、蒸し焼き、油ちょう(揚げ)、および茹でがある。これらのほか、近年ではすり身に通電することにより発熱させ加熱する方法(通電加熱法、ジュール加熱法)やマイクロ波による加熱も、各種ねり製品の製造に使われるようになった。
また、形態の違いから、ねり製品は板付き、串付き、型焼き、す巻き、巻きものに分類される。
本書では、これらに分類に当てはまらないものとして、風味かまぼこ、包装かまぼこ、細工かまぼこ、燻製かまぼこおよび特殊かまぼこをあげている。風味かまぼこの代表例には、かに風味かまぼこがある。かに風味かまぼこは伝統的なねり製品の製造技術を応用して、カニ肉の食感を再現しようとしたものである。最近では、様々な食品の食感を模した製品も作られている。包装かまぼこには、魚肉ソーセージやリテーナ成形かまぼこが含まれる。
食品成分と健康性機能
日本食品標準成分表(八訂 増補2023年)にねり製品13種類の食品成分が掲載されている。これによると、ねり製品のタンパク質含量は7.6~16.2 g/100gの範囲にある。また、脂質含量は、つみれ、伊達巻および魚肉ハム・ソーセージでは4.3~7.5g/100gであるが、かまぼこやちくわなどのその他の製品では0.5~1.0 g/100gで、きわめて低い。このため、一般的なかまぼこやちくわでは原料由来のEPA/DHAの健康性機能は期待できない。しかし、赤身魚を原料として水晒しを行わないじゃこ天やつみれなどでは、原料由来の脂質がかなり残存しており、EPA/DHAの含量も高い。炭水化物は魚肉にはほとんど含まれていないが、ねり製品では10 g/100g以上含まれているものが多い。これは、ねり製品の原料である冷凍すり身に添加されている糖類や、弾力増強のために添加されるでん粉などの添加物に由来するものである。一般的なかまぼこやちくわでは、Caの含量は高くないが、骨ごとすり潰すじゃこ天にはCaが多く含まれている。
最近になって、消化率を加味した必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)スコア(DIAAS)から、ねり製品の主成分である魚肉タンパク質の栄養価が高いことが改めて評価されている。また、魚肉タンパク質の健康性機能(筋肉増強効果)についても研究がなされている。
生産と消費の現況と課題
ねり製品生産量の変化
1960年ごろからの冷凍すり身の普及と流通網の発達によってねり製品の生産量は著しく増加し、1975年にはねり製品(魚肉ソーセージを除く)の年間生産量が103万トンとなった。しかしながら、生活様式の変化などの影響から生産量は、徐々に減少し、近年では40万トン台で推移していたが、2023年度には40万トンを割り込み36.6万トンとなった(図3)。これらのほかに魚肉ソーセージが年間4~5万トン生産されているが、これもピークの18万トン(1972年)より減少している。とはいえ、これらの生産量は水産加工品全体の生産量の31.8%を占め(2024年)、最も多い。2023年の生産量のうち、最も多いのは揚げかまぼこで約38%である。次いで、ちくわが約14%、蒸し板や焼き抜きなどのかまぼこが約13%、茹でかまぼこが約8%、風味かまぼこを含むその他の製品が約27%となっている(図4)。上に述べたように、ねり製品全体の生産量は減少しているが、かに風味かまぼこを中心とした風味かまぼこの生産量は増加傾向にある。


都道府県別の生産量・消費量の変化
都道府県別の生産量(2024年)では、兵庫県が最も多く、次いで新潟県、千葉県、宮城県、山口県、および愛知県が続いている。
1世帯あたりのねり製品に対する支出金額についても、1993年には13,400円であったが、2024 年には9,307円となり、大きく減少している。全国県庁所在都市の1世帯当たりの支出金額(2024 年)を比較すると、長崎市が最も多く、15,994円で、仙台市、富山市、高松市が続いている。揚げかまぼこに対する支出金額が最も多いのは鹿児島市、ちくわは徳島市と鳥取市、かまぼこは仙台市と長崎市で、それぞれの地域の特産品の生産量を反映していると考えられる。
海外での生産と消費
ねり製品は、日本の伝統食品であるが、アジア圏にはフィシュボールなどの類似した加工食品がみられる。さらに冷凍すり身が世界各地で生産されるようになったことを背景として、冷凍すり身を原料とする加工食品がSurimi Seafoodとして認知され、ねり製品はアジア以外の国々でも消費されるようになっている。現在では、日本国内でのねり製品の消費量が約49万トンであるのに対して、国外ではその約3倍が消費され、日本からの輸出も行われている。このような需要の拡大から、ねり製品の生産も世界各地で行われるようになっている。例えば、かに風味かまぼこの日本国内での生産量は、約7万トンであるが、全世界の生産量は約50万トンである。スペインでは、冷凍すり身を原料としてウナギの稚魚のイミテーション製品(Baby eel)が生産され、人気を博している。
消費拡大に向けた取り組み
ねり製品は、高タンパク質・低脂質で、タンパク質の消化率を加味した栄養価も高いことから、消費者の健康志向に応える加工品として、消費拡大が期待される。ねり製品の消費を拡大するために、伝統的なねり製品の加工技術を応用した、新たな製品開発の取り組みが進められている。
参考文献
・松川雅仁.輸入冷凍すり身の品質とその制御,冷凍すり身とねり製品の品質制御.「水産加工とタンパク質の科学」(大泉 徹他編) 恒星社厚生閣.2023;22‐42.
・植木暢彦.製造現場におけるねり製品の品質制御,冷凍すり身とねり製品の品質制御.「水産加工とタンパク質の科学」(大泉 徹他編) 恒星社厚生閣.2023;43‐67.
・新井健一他.冷凍すり身の魚肉タンパク質が形成する坐りを伴った加熱ゲルの形成.Transaction of Japan Society of Refrigeration and Air Conditioning Engineers 2025; https://doi.org/10.11322/tjsrae.25-11R.
・山澤正勝他.「かまぼこ その科学と技術」恒星社厚生閣.2003.
・J.W.Park. 「Surimi and Surimi Seafood Third Edition」CRC Press. 2014.
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・文部科学省.食品成分データベース.https://fooddb.mext.go.jp/result/result_top.pl?USER_ID=10059(2026年2月6日参照)
・岡﨑惠美子他.アミノ酸スコアとDIAAS.「魚肉タンパク質の技術と市場」(渡部終五監修) シーエムシー出版.2025;82-94.
(元福井県立大学 大泉 徹)
