えたりの塩辛とは
えたりの塩辛とは、カタクチイワシと塩をあわせて樽に入れ、上から藁を被せて熟成させた食品である。「えたり」とはカタクチイワシを指す長崎県島原半島橘湾沿岸地域の方言である。橘湾東部沿岸の雲仙市(千々石町、小浜町、南串山町)では、古くよりえたりの塩辛の生産が行われており、日々の食事や祭事での振る舞いとして愛されてきた。
(本文末尾のコラム「エタリの塩辛愛好会」もご参照ください)
主な生産地
長崎県 島原半島 橘湾沿岸地域(千々石、小浜、南串山)
生産の動向・消費の動向
地元消費の他、土産としての販売、飲食店への需要があり、消費は概ね安定している。加工業者だけでなく、地域の各家庭での生産も行われている。
原料選択のポイント
1月~2月に漁獲される、8~10 cmの比較的大型で、脂が程よく乗ったカタクチイワシが最適とされる。
使用する副原料
カタクチイワシを漬け込む際に用いる塩は、各生産者のこだわりのものを使用している。自家製のものには、トウガラシや麹、焼酎、柑橘類などの副原料が用いられる場合もある。
加工技術
重石を載せることによって、塩漬中の魚体が原魚からの浸出液に浸かり、空気に触れないようになることで脂質の酸化や有害微生物の増殖が抑制され、高い保存性が付与される。また、熟成させることでカタクチイワシの自己消化酵素等によりたんぱく質が分解され、遊離アミノ酸が増加することで呈味性が向上する。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 原魚の鮮度が重要であることから、早朝に水揚げされた原魚(写真1)をその日の午前中に仕込む。
- 洗浄 海水で鱗をある程度取り除いたのち、真水で鱗や異物を更に除去する。
- 塩漬 カタクチイワシと塩を速やかに混合する(写真2, 3)。カタクチイワシは頭や内臓はそのまま用い、重量比はカタクチイワシ約6~7に対し塩1である。ボウル等にいれて魚体を傷つけないよう手でまんべんなく混合し、熟成用の樽にいれる(写真4)。トウガラシ等の副原料を入れる場合はこの時に入れる。樽は、直射日光が当たらない涼しい場所に保管する。
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(提供:株式会社天洋丸)
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(提供:株式会社天洋丸)
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(提供:株式会社天洋丸)
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(提供:株式会社天洋丸)
- 熟成 3~7日間置き水気が上がってきたら、カタクチイワシの上から藁及び中蓋を敷き(写真5, 6)、藁が完全に沈むよう上から重石をのせ熟成させる。熟成にかかる期間は気象条件によって変わるが、約1~3か月を要する。藁を使わずとも塩辛はできるが、藁を使うことで風味を加えることができるとされている。藁は稲藁を用いることが多いが、むしろを使う場合もある。
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- 検品・包装 熟成すると表面に「しらこ」とよばれる白い粉が浮き出てくる。これはチロシン等のアミノ酸が析出したものだといわれている。しらこの出現の有無や色、風味などから熟成の進行を確認する。熟成が完了(写真7)したら浸出液を別容器に移し替え、藁などの異物を除きながら瓶等の容器に詰めていく。生産者によっては瓶に魚を詰めたのち、移した液を再度注ぐところもある。また、出荷時期を調整するため、熟成が完了した時点で冷凍保存することにより、過度な熟成を抑制する場合もある。
- 出荷 量販店や土産店、EC販売などは主に瓶詰めされた状態で、飲食店等の業務用は真空パック包装された状態で冷蔵にて出荷される(写真8)。
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(提供:株式会社天洋丸)
品質管理のポイント
原料の鮮度を保つため、真水洗浄は短時間で行い、その後速やかに塩と混合し、水揚日の午前中には仕込みを完了させる。熟成を完了するタイミングは塩辛製品の色味等から各業者の判断で決められている。
安全衛生管理のポイント
カタクチイワシと塩がよく混ざっていないと、塩濃度にムラが生じてしまい、濃度が低い部分では微生物が増殖しやすくなってしまう。衛生管理や品質管理の観点から、原料の混合は念入りに行う必要がある。
特徴的な成分
カタクチイワシのタンパク質が自己消化酵素等によって分解されることにより、グルタミン酸をはじめとする遊離アミノ酸が豊富に含まれている。
製品の形態・包装・保管方法
小売用では瓶詰め又はプラスチックのカップに入れ、業務用は真空パックで包装して冷蔵にて出荷される。
調理方法および食べ方
そのまま食べるほか、ご飯に載せる・料理に加える・焼いて食べるといった方法がある。また、地元地域では古くより、ふかしたサツマイモと一緒に食べる方法が親しまれている。
海外の類似製品
カタクチイワシを塩漬けした加工品として、地中海沿岸地域で作られているアンチョビー(Anchovy)が有名であるが、頭と内臓は除いて加工される。アンチョビーは塩漬け後、油漬けされる商品が多いが、油漬けせず出荷するものは、特にアッチューゲ・ソット・サーレ(塩漬けのアンチョビー)と呼ばれている。
また、韓国には頭・内臓ごと使用したミョルチジョッと呼ばれる、えたりの塩辛に類似した加工品があり、主にキムチ漬けに使用される。
参考文献
・助川 輝武.「アンチョビー製造」 株式会社食品資材研究会.1976.
コラム
「エタリの塩辛愛好会」
えたりの塩辛が2005年にスローフード協会国際本部の「味の箱船」プロジェクトに登録されたのをきっかけに、えたりの塩辛を生産している加工業者や漁業者が中心となって「エタリの塩辛愛好会」を発足した。現在、「エタリの塩辛愛好会」により瓶の規格が統一され、勉強会や外部へのPR等の取り組みによって生産技術の向上や消費の拡大が図られている。
(著者:長崎県総合水産試験場 石崎 航一郎)
