うるかとは
アユの内臓を用いた塩辛である。その歴史は古く、奈良時代の「播磨国風土記」に「宇留加」として登場し、また元禄2年にはその製法の記載があり、アユの産地では保存食として製造されてきた。その定義や製法は地方によってさまざまであるが、内臓を用いた「渋うるか(苦うるか)」、産卵期の卵巣を用いた「真子うるか」、精巣を用いた「白うるか(白子うるか)」が代表的なものである。そのほかに、身だけを用いた「身うるか」、卵巣と精巣を用いた「子うるか」、身と内臓を細切りにした「切り込みうるか」、内臓を十分に水洗いせず用いた「泥うるか」等がある。
主な生産地
岐阜、徳島、高知、山口、大分、熊本、宮崎などが主産地として挙げられ、その他のアユの漁獲される地域でも生産・消費されている。
生産・消費の動向
アユの加工品(一夜干し,馴れずし等)の製造、或いは料理(ほぐし身、姿ずし等)の調理過程で取り除かれる内臓を用いて製造されるため、水産加工メーカーに限らず、料理店等でも生産・消費されるようになってきている。特に近年では、従来からの酒肴に止まらず、バゲットなどの洋食にも添えられ、若い世代にも浸透しつつある。
原料選択のポイント
天然アユの内臓で製造したうるかは、特有の風味と渋味が強いとされており、特に川藻を盛んに摂食する「若鮎」を用いたものが極上品とされるが、非常に希少である。また、産卵期を控えた10月頃に漁獲される「落ち鮎」も用いられ、成熟しているため「真子うるか・白うるか」も製造可能で歩留りも高い。
使用する副原料
一般的には粗塩(天日粉砕塩)が用いられる。
加工技術
塩辛の一種であり、洗浄・選別した内臓に塩を添加し、腐敗を防止しながら自己消化酵素および有用微生物の働き等によって原料を消化・分解させたものである。「渋うるか」には、アユ特有の芳香に加え、コクのある旨味と渋味があり、熟成中に生成し遊離アミノ酸、ペプチドおよび脂肪酸の酸化物が苦味や渋味を呈しているといわれている。本来、「うるか」は保存食であり、またアユが夏場の魚であることから、20%以上の塩が用いられ、熟成も室温で行われていたものと思われる。しかし、近年では、低塩分化の傾向が強く、10~15%の塩で漬け込み、冷蔵庫で熟成され、冷蔵流通される製品が多い。
製造工程の概略

加工の実際
10月上旬にヤナ場(写真1)で漁獲された天然の「落ち鮎」(写真2)を用いた製造例は下記のとおりである。
写真①.jpg)
写真②.jpg)
- 原料 “郡上鮎”の地域ブランドで知られる長良川上流域には観光ヤナが点在しており、夏の間、縄張りを作っていたアユが秋口になると渕に集まり、産卵のために群れを成して降下する現象が観られる。10月下旬になると多い日で3万尾の落ち鮎が漁獲され、谷水を引き入れたプールに2~7日間ほど活かし、砂を吐かせる。その後、水氷で締められ、サイズと雌雄を選別する。70g以下の中小サイズ(写真3)が一夜干し、むしり(雑炊・茶漬け・炊込みご飯等に用いるほぐし身)等の加工原料とされ、それ以上のサイズのものは料理或いは鮮魚として利用される。
写真③.jpg)
- 下処理 背開きにして鯉を取り除き、内臓を分取する。魚体は一夜干し等に加工される。
- 選別 雌の内臓から卵のみを選別し、真子うるかの製造に用いる。内臓(白子を含む)は全て混合され、渋うるかの製造に用いられる(写真4)。
写真④.jpg)
- 洗浄・水切り 飽和食塩水で内臓を軽くすすぎ、付着した血液を洗い流す。通常、網(瀬張り漁など)で漁獲された天然魚の胃や腸管には砂利が必ず入っているため丹念な手作業で取り除く必要があるが、ヤナ漁で漁獲され、谷水で砂を吐かせたものは必ずしも必要とされない。
- 塩漬け これまでの歩留りは、卵で約14% 、内臓(白子を含む)で約12%である。内臓に対しては15%、卵に対しては 10%の天然塩を加え、潰さないように混ぜ合わせて塩を馴染ませる。
- 熟成 一晩冷蔵し、浮いた余分な血水を捨て、先に作ったもの(瓶で熟成中のもの)に継ぎ足す。瓶がいっぱいになったら継ぎ足すのを止め、表面をラップで覆い、時折、撹拌しながら熟成させる。観光ヤナという業態から、翌年の開業時期(6月末)まで冷蔵で熟成させる。熟成期間は長いもので約2年、短いもので約6カ月である(写真5)。
写真⑤.jpg)
- 包装 熟成したものをガラスの小瓶に詰める。
- 出荷 いずれも要冷蔵品として販売される(写真6)。賞味期限(開封前)は「渋うるか」、「真子うるか」ともに90日程度が目安とされている。
写真⑥とイメージ.jpg)
加工に用いる機器等
冷凍設備(原料魚の一時保管)、冷蔵設備(熟成用)
品質管理のポイント
アユの腸管内の砂利を取り除くのに大変な時間と労力を要するが、手作業で丹念に行うことが重要である。一説にアユは、昼間に摂食した川藻に混じっていた土砂を夜のうちに吐き出すことから、未明の川で漁獲されたものは腸がより清浄であるといわれている。また、餌を止めた養殖アユの場合でも、小石が完全に抜けきらない場合もあるため、腸管内の砂利の除去には注意が必要である。
製品の形態
60g程度を瓶詰めにし、冷蔵で流通される。また、ナイロン袋に入れて脱気包装した加熱殺菌製品では、陶器製の壷に入れられ、常温流通されるものもある。
包装および保管方法
瓶詰など冷蔵製品では、要冷蔵で60~180日が賞味期限とされる。ナイロン袋に充填した加熱殺菌製品では、常温で1年程度の賞味期限が付されるものもある。
調理方法および食べ方
そのままを酒の肴や茶漬けの具として、またはあゆの一夜干しに塗って食べたり、ソースを作ったりして賞味される。
コラム
「『うるか』を愉しむ」
「真子うるか」で、まだ浸かりが浅いフレッシュなものは、黄金色でとてもきれいな色や艶を持っており、発酵前の新鮮なうちに醤油をたらして食べても美味しい。一方、「渋うるか」は2年以上熟成させると2層に分離し始め、上層はうるか、下層には魚醤のようなしょっぱくもまろやかなエキスが得られる。
参考文献
・ 秋道 智彌.アユと日本人.丸善ライブラリー 61 1992.
・小泉武夫.漬け物大全.平凡社新書060 2000.
(著者:岐阜県食品科学研究所 加島 隆洋)
