うみたけ粕漬けとは
うみたけ粕漬けとは、ニオガイ科に属する二枚貝の一種であるウミタケの水管を塩蔵し調味した酒粕に漬け込んだ保存食品である。特に、福岡県や佐賀県の有明海沿岸地域を中心に古くから食されており、食卓や酒宴を彩る珍味として広く愛されている。この地域は九州最大の水稲地帯である筑紫平野と豊富な水量を誇る筑後川を背後に控え、「日本酒造り」が盛んであった。この「日本酒造り」の副産物として産出される大量の酒粕と有明海湾奥部に多く生息するウミタケを用いた地の利の一品である(写真1,2)。酒粕の絶妙な風味と、コリコリとしたウミタケの食感を楽しむ地域限定食品として親しまれていたが、大正時代に入り地元加工業者が大量生産を行うようになり、うみたけ粕漬は全国的に広く知られるようになった。こうした販路拡大は原料不足を生み、地元以外の原料で補填することで製造量の安定が図られている。特に近年では地元産のウミタケがほとんど漁獲されなくなっているため、中国やフィリピンなどからの輸入原料に頼っている状況である。
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(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)
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(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)
主な生産地
佐賀県、福岡県、長崎県
原料選択のポイント
製品の風味や食感を損なわないよう、原料に使用するウミタケは鮮度の良い弾力のあるものを選択する。通常、加工業者は前処理(ウミタケの水管外皮を剥離・塩蔵)したものを仕入れるのが一般的である。
使用する副原料
酒粕
加工技術
原料であるウミタケは、漁獲後に塩蔵することで、脱水による肉質硬化や自己消化の進行抑制、雑菌の繁殖防止などの効果が得られる。副原料である酒粕は、澱粉やタンパク質などの成分が含まれ白色を呈するが、時間の経過と共に熟成(自然発酵)し肌色に変化し、麹などの作用で糖やペプチドなどが生成される。これらを調味し漬込むことにより、嫌気性細菌や酵母などによりアミノ酸やビタミン類、旨味成分が増加する。また、有機酸の作用でpHが低下し、酵母の生成するアルコールにより腐敗防止ならびに貯蔵性が高まる。
製造工程の概略

加工の実際
ウミタケ粕漬は市販製品のほか、個人で製造・消費する傾向が高く、その加工方法は千差万別である。前述した製造工程図は標準的なものである。
- 一次洗浄 塩水のほか、真水でも実施可能である。
- 塩漬け 塩分含有量13~20%程度で行われる。漬け込み期間は原料の産地や時期、製造状況などで調整し、10%程度にまで減塩して製造時まで凍結保管する(写真3)。
- 二次洗浄 塩水で行う場合や脱塩を目的として真水で行う場合、あるいは防腐のため二次洗浄を行わない場合もある。
- 脱水 冷風乾燥等で行い、水分を低下させる。
- 選別・細断 選別は、塩蔵時に変色したものなど製品に不向きなものを目視にて丁寧に取り除き、細断する(写真4)。
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(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)
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(提供:(株)高橋商店)
- 混合 調味した酒粕と細断した原料を1:1の割合で混合する。(写真5)
- 常温熟成 樽に詰めて常温で30日程度熟成させる。(写真6)
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(提供:(株)高橋商店)
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(提供:(株)高橋商店)
- 低温熟成 低温(約2℃)でさらに7日程度熟成させる。酒粕の変性を防ぐため加熱処理は行わない。
- 充填 パッケージに充填後、金属探知機を通す(写真7、8)。通常、賞味期限は、常温で約2カ月、冷蔵で約6カ月である。
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加工に用いる機器等
桶、乾燥機(冷風)、細断機、混合機など
品質管理のポイント
原料であるウミタケへの異物混入や、酸化や酵母、乳酸菌の増殖による褐変、風味劣化などが問題となる。また、異物混入防止に充分な目視選別および金属検知作業が必要である。
特徴的な成分
ウミタケにはコラーゲンが多く含まれる。
酒粕にはアルコールが10%程度含まれるほか、澱粉、タンパク質、繊維質などが多く含まれる。また、発酵中にタンパク質が分解して生成されるペプチド、アミノ酸、ビタミン類、発酵を促す酵母なども含まれている。
製品の形態
製造業者や人により多様である。一般消費者向けの商品の場合は、袋や容器に数十グラム程度詰めて販売される。
包装および保管方法
ポリエチレン製パックやPET製カップなどを用いて包装される。
調理方法および食べ方
漬け込まれた酒粕と一緒に、そのまま食す。炊きたてのご飯に乗せれば一層香りが引き立つ。醤油を1,2滴垂らしても美味しい。
(著者:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所 渕上 哲、金澤 孝弘)
