さばへしことは
石川県から鳥取県までの北陸・山陰地方では、漬け物と同様の方法でサバやイワシを糠漬けにしたものを「へしこ」と呼んで、古くから保存食品として利用してきた。魚の糠漬けとしてはサンマやニシン、フグなども使われている。また、北海道や岩手県などにも糠漬け製品はあるが、「へしこ」と呼ばれることはないようである。
(本文末尾のコラム「へしこの語源」についてもご参照ください。)
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主な生産地
石川県、福井県、京都府、兵庫県、鳥取県
生産の動向・消費の動向
統計資料がないため、生産量は把握できていない。京都府内では、京都府漁業協同組合、漁業会社、民間事業者などで生産されている。生産量は数万尾程度である。嗜好性の強い食品であり、食文化がかなり偏っているため、土産物としてよりは主に地元向けに販売され、近隣の地域内での消費が中心となっている。
原料選択のポイント
脂の良く乗ったものを選ぶ必要があるため、これまでは寒漬けと称して、冬季、脂の乗ったマサバを使って製造していた。しかし近年では、サバを国内で安定して確保できないため、安定して入手できる外国産のサバ(タイセイヨウサバ、通称ノルウェーサバ)を使うことが多くなっている。この場合も大型で脂の良く乗ったものを選ぶのが良質な製品を作る上での重要な要素なっている。
使用する副原料
米糠と塩が基本であるが、味を調えるために酒やみりんのほか、昆布や唐辛子を加えたり、熟成期間を短縮するために有機酸やアミノ酸を添加したりしているものもある。近年は、黒胡椒、カレーといった新たな味付けを施した製品も販売されている。
加工技術
最初の塩漬け工程で、脱水し、塩分濃度を上げることにより、雑菌の増殖を抑えながら、米糠中の糖質の乳酸発酵により乳酸などの有機酸が生成する。また、魚肉内在のプロテアーゼの作用によりペプチドや遊離アミノ酸が生成する。これらの成分がへしこの旨味に関係している。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 かつては生鮮サバも使用されていたが、近年は冷凍サバが使われている。
- 解凍 冷凍サバを流水中で解凍する。
- 調理 背開きにして内臓とえらを除去する。
- 塩漬け 水切り後、振り塩(または立て塩)しながらタルに魚を並べて積み重ねていく。蓋をして重石をかけ、3~7日程度置いておく。
- 糠床つくり 塩漬け後、魚体を取り出し、表面を軽く洗った後、魚体の両側に糠を付けながらタルまたは水槽に並べ、積み重ねていく。糠には、仕上がり時の魚体の塩分が10%以上になるよう計算して塩を加える(ほかに、調味液を加える製品もある)。
- 漬け込み 蓋をして上から重石を置く。
- 熟成 6ヶ月から2年程度漬け込み、十分に熟成させる。
- 取り上げ 十分熟成されたことを確認(身やしえ(ドリップ)の色が赤っぽくなれば、熟成されたと判断)してから、糠を付けたまま取り上げる。
- 包装 惣菜向けにはそのまま発泡トレーに入れるが、土産物や贈答品用には真空パックをする。
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加工に用いる機器等
製造のためには、漬け込み用のタルまたは水槽と、蓋、重石のほかは、魚を捌くための包丁とまな板があれば良く、特段の機器は必要としないが、真空パックして出荷する場合には真空包装器が必要となる。
品質管理のポイント
サバは鮮度低下しやすいので、加工時に直射日光を受けたり、温度が上がったりしないよう、原料の保管温度や作業場の温度管理に留意する必要がある。
保存食品であるため、保存性は良いが、冷蔵庫で保存するのが一般的である。
安全衛生管理のポイント
サバを用いる場合は、製造時のヒスタミン蓄積や脂質の酸化に気を付ける必要がある。また、熟成中にカビや高度好塩菌が増殖しないよう留意する必要があるので、保存する容器の消毒、建物の壁や天井からのゴミやホコリの落下防止、ゴキブリやネズミの侵入などの対策を行う必要がある。
特徴的な成分
材料のサバの成分に糠の成分が加わるほか、発酵過程で生じるペプチド、遊離アミノ酸や有機酸がへしこの呈味の中心となっている。
塩分についても、ナトリウムだけでなく、カルシウム、カリウム、マグネシウムがバランス良く含まれているため、塩辛さが余り気にならない。
健康機能性成分
原料のサバ肉中に含まれる EPAやDHAのほか、糠漬けであるので、ビタミンB1、B6などを含むほか乳酸等の有機酸を含んでいる。このため、塩分が多いことを考慮しながら食べれば、健康に良い食品といえる。なお、最近、へしこに血圧抑制効果があることが動物実験で確かめられたことが報道されており、へしこに多く含まれるペプチドの働きとみられている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
製品の形態・包装及び保管方法
糠を付けた状態で1尾まるごと発泡トレーにパックした物が基本であるが、スーパーの店頭では適当な大きさに切ってパックされる場合がある。土産物用には真空パックで、あるいは真空パックした物が外箱に入れて売られている。いずれも冷蔵で保存される。
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調理方法および食べ方
へしこを使った料理としては、糠を落としてから(好きな人は糠を少し残して) 白飯と一緒に食べるのが一般的である。その他、寿司やチャーハン、パスタ、サラダなどの具材に利用するような新しい食べ方も工夫されてきている。
参考文献
・小坂康之, 木下由佳, 大泉徹, 赤羽義信. マサバへしこの製造過程における呈味成分生成に及ぼす熟成温度と食塩含量の影響. 日水誌, 76, 392-398 (2010).
・Ito, K, Akahane, Y. Antihypertensive effect of heshiko, a fermented mackerel product, on spontaneously hypertensive rats. Fish. Sci., 2004, 70, 1121-1128.
コラム
「へしこの語源」
へしこという名称の由来は定かではない。魚を漬け込んだときに出てくる「ひしお」(魚醤になる前の液汁)がなまった、あるいは、福井県等の方言の「へし込む」から来ているなどの説がある。
「へす(圧し)」は古語で、今でも各地の方言に残っているほか、「ぺしゃんこ」、「押し合いへし合い」等の語に残っているもので、「へし込む」から来ているとすると、漢字で「圧し子」とでも書くのが適当かとも思われるが、漢字で書いた例がなく今のところ良くわかっていない。
(著者:京都府水産事務所 淵 隼斗、京都府漁業協同組合 菱田 江里子)
