目次
第6章 発酵食品 第1節 水産漬け物

ふぐ肉・卵巣糠漬け

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主生産地

保存方法

冷蔵保存

キーワード

フグ肉/フグ卵巣/魚卵、糠、フグ毒、類縁体、ふるさと認証食品/テトロドトキシン/無毒化

備考

Fuguniku/ranso-nukazuke/伝統的加工品

ふぐ肉・卵巣糠漬けとは

 ふぐ肉糠漬けは、フグ(写真1)の肉を塩漬け後乾燥し、糠に漬けて発酵させたものをいう。また、ふぐ卵巣糠漬けは、フグの卵巣を塩蔵した後、糠に漬けて発酵させたものをいう。
 石川県内の主産地は白山市(旧美川町)、金沢市金石、大野である。
 日本でフグの卵巣の加工が許可されている県は少なく、フグ卵巣の加工品は大変珍しい。ふぐの糠漬けは石川県のふるさと認証食品に認定されている加工品である。
(本文末尾のコラム「ふぐ卵巣糠漬けの安全性」についてもご参照ください。)

写真1 ゴマフグ(提供:石川県水産総合センター)

主な生産地

 石川県白山市、金沢市金石、大野

生産と消費の動向

 石川県白山市(旧美川町)を中心とした聞き取り調査によると、ふぐ肉の糠漬けの生産量は2003年で約70~80tであったものが2025年では約20tに、フグ卵巣の糠漬けの生産量は約30tであったが、現在では約15tとなり、どちらの製品も需要の減少や製造業者の廃業により生産量が減少している。一方、消費は県内が主であったが、近年ではマスメデイアで広く紹介されるようになり、県外での消費は増えている。

原料選択のポイント

 ふぐ肉の糠漬けに用いられるフグはゴマフグとサバフグの2種類である。
 ゴマフグは6~7月に石川県能登地方や新潟県など日本海近海で獲れたものを原料として用いる。頭と内臓を除去した後、身は糠漬けに加工するまで凍結保存(-30℃)しておく。一方、卵巣は凍結せずに塩漬けし、その後糠漬けに加工する。
 サバフグ(通称平フグ)については、あらかじめ塩漬け後、軽く乾燥させた加工済みフグ肉原料を、他地域の加工業者より購入して用いていることがある。

加工技術

 塩蔵の役割や、糠漬け中における風味や保存性の付与の原理はいわし糠漬けと同じであるので、ここではふぐ卵巣糠漬けにおける毒力低下の機構について述べる。
 ふぐ卵巣糠漬けでは塩蔵時の食塩濃度が高く、漬け込み期間も長い。古くよりこれは毒消しのためであると言われてきた。製造工程中の毒性変化を調べた事例研究では、原料の卵巣の毒性は443MU/gと非常に高いにもかかわらず、塩漬け7ヶ月後には90MU/gに、また糠漬け2年目には14MU/gにまで減毒されている。
 このように糠漬け後の卵巣の毒量が減少する原因については、製造過程で毒が塩水および糠中に拡散して平均化することによるといわれてきた。このことも原因のひとつであろうが、その場合には総毒量(卵巣、塩蔵汁および糠中の毒量の合計)に大きな変化はないはずである。ところが、総毒量が糠漬け1年後にはもとの1/10ほどに減っていることから、その他の原因も考えられる。発酵食品であるので微生物による減毒化が考えられる。加熱滅菌した糠漬け卵巣と非滅菌の糠漬け卵巣にフグ毒を添加して 24週間貯蔵しても、両者に違いが見られず、またフグ毒添加培地に糠漬けより分離した各種微生物約200株を接種した実験でも毒力の減少への微生物の寄与がみられない等の理由から、微生物の関与は可能性が低いと考えられる。
 それではなぜ毒が減るのかということになると、今のところよくわかっていない。フグ毒(テトロドトキシン)にはいくつかの類縁体(TTX類縁体)があり、これらは少しずつ化学構造が違うだけであるが、TTX類縁体の毒力はテトロドトキシンの数十分の一になるので、塩蔵や糠漬け中に、このようなわずかな構造変化が非生物学的に起こるのであれば、このことが毒力低下の原因のひとつとも考えられる。

製造工程の概略

加工の実際

  • 塩漬け  フグ肉は10~13%程度の振り塩で一晩漬ける。フグ卵巣は35~40%の塩を撒き塩にして2~3カ月後漬け込んだ後、塩を代えて新たに漬け直し、1年~1年半塩蔵する(写真2)

  • 漬け込み・熟成  いわし糠漬けと同様にして漬け込む。フグ肉は1年程度、フグ卵巣は2年程度発酵させる(写真3)。これらの熟成・発酵工程はすべて常温で行われている。

写真2 ふぐ卵巣塩漬けの様子(提供:株式会社あら与)
写真3  熟成の様子(提供:株式会社あら与)  

安全・衛生管理と表示

 石川県ふぐ加工協会に加盟している加工業者が製造するふぐ卵巣糠漬けは出荷前に必ず(一財)石川県予防医学協会の毒性検査を受けている。検査を通過した商品には(社)石川県ふぐ加工協会検査済之証のシールを貼付して販売している(10MU/g以下)。

成分の特徴

 ふぐ肉、ふぐ卵巣糠漬けの一般成分は下の表に示した通りである。熟成中に酵母や微生物の働きによって分解、生成されたアルコール、エステル、有機酸、遊離アミノ酸が多い。これらがふぐ糠漬け独特の風味に大きく関与している。

製品の形態

 ふぐ肉、卵巣糠漬けともに糠を付けたまま真空包装される。スライスしたものもある。(写真4,5,6

写真4 ふぐ肉糠漬け(提供:株式会社あら与)
写真5 ふぐ卵巣糠漬け(提供:株式会社あら与)
写真6 ふぐ卵巣糠漬けスライス(提供:株式会社あら与)

包装及び保管方法

 賞味期限は6か月程度で、冷蔵保管される。

調理方法および食べ方

 薄くスライスし食酢やレモン汁をかけて食べる。軽く焼いたり、茶漬けにして食べても美味である。

参考文献

・小林武志他.フグ卵巣ぬか漬けの微生物によるフグ毒分解の検討.日水誌2003;69:782-786.
・榎本俊樹他.フグ卵巣はなぜ伝統的加工法で無毒化されるのか.科学研究費助成事業 研究成果報告書2016
・森真由美他.伝統水産加工品の成分.水産物の利用に関する共同研究第44集 2004;20-25

コラム

「ふぐ卵巣糠漬けの安全性」

 食品衛生法においては有毒な物質を含む食品の販売が禁止されているが、石川県で製造販売されているふぐ卵巣糠漬けは人の健康を損なう恐れがないと認められ、製造販売が認可されている珍しい食品である。これは石川県ふぐ加工協会が県に陳情し、卓越したフグ毒の減毒化技術が認められたことによるものである。

(著者:石川県農林水産部 水産課 小柳 真由美・石川県水産総合センター 西田 光希)