目次
第6章 発酵食品 第1節 水産漬け物

ふなずし

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主生産地

保存方法

冷凍保存/冷蔵保存

キーワード

琵琶湖/乳酸菌/米飯/タンパク質分解

備考

Funazushi/伝統的加工品

ふなずしとは

 ふなずしとは、フナ写真1を塩漬け後、御飯と一緒に乳酸菌で発酵させたもので、なれずしの一種である。
 フナは、日本の河川、湖でよく知られる淡水魚であり、滋賀県では古くから、琵琶湖周辺の半農半漁の集落を中心に春先の2月頃から5月にかけてとれるフナを捕獲して塩漬けし、ふなずしにしてきた。現在までフナを塩に漬ける文化が広く残っているのは滋賀県だけである。
(本文末尾のコラム「ふなずしの歴史」もご参照ください)

写真1 原料のフナ(提供:堀越昌子)

主な生産地

 滋賀県

生産と消費の動向

 琵琶湖でのニゴロフナの漁獲量は、1955(昭和30)年から1980(昭和55)年頃までは、年間500tから700tで推移してきた。1985(昭和60)年頃から目に見えて減少しはじめ、1990年以降は漁獲量が50t前後となった(表1)。その結果、フナの価格は高騰し、ふなずしを漬ける一般家庭は減少の一途をたどり、ふなずしは家で漬けるものから購入する形へと変化した。琵琶湖のニゴロブナで作ったふなずしは、以前は庶民の味であったが、漁獲量が減少した時期以降は庶民の手に届かない高級品となっている。
 琵琶湖におけるニゴロブナ資源量の低下は、オオクチバス等外来魚の繁殖や産卵繁殖場の減少などによるものと考えられ、滋賀県はニゴロブナの稚魚放流など資源保持に努力を続けている。その成果もあり、2007(平成19)年頃からニゴロブナの資源量は増加に転じたが、2015(平成27)年をピークに再度減少している(表2)

表1 琵琶湖のフナ漁獲量(出典:滋賀の水産(令和6年度)P.25)
表2 琵琶湖のニゴロフナ推定資源量・漁獲量(出典:滋賀の水産(令和6年度)P.5)

原料選択のポイント

 原料魚は鮮度が重要で、生きたフナを使う。雌は卵を持っており、漬け上がりがきれいなので重宝され、価格が高い。雄フナも漬けられる。滋賀県では、琵琶湖固有種のニゴロブナ、ゲンゴロウブナのほかに、ギンブナ等がふなずしにされる。この3種類のフナの中で、琵琶湖で動物性プランクトンを食べて育ったニゴロブナが最も美味しいなれずしとなる。

使用する副原料

 ふなずしの副原料は、塩と米である。米麹を飯に混ぜる地域も一部にある。他の湖魚なれずしには山椒やたでなどが使用されることもあるが、ふなずしには使わない。フナと御飯だけで自然発酵させる場合がほとんどである。
 なれずしの熟成に関与する乳酸菌は、御飯などを餌にして増殖するので、デンプンを多く含む副原料が必要である。ふなずしにはうるちの白米が一般に使われている。原料のフナとほぼ同量の御飯(塩切ぶな10kgに米4.5~6.0kg)を用意して、炊飯後、 37℃前後にまで冷ましてから使用する。
 塩は塩漬け工程と飯漬け工程に使う。塩漬けに用いる塩の量は、桶の大きさで異なるが、フナの重量に対して50%以上は用意する。飯漬け工程での塩はフナ本体から供給されるので、御飯に対して塩をふらない場合と、御飯に対して1%程度の塩を混ぜる場合がある。塩を使わないと発酵が早く進行し、塩を効かすと発酵が緩やかに進行する。フナの発酵と御飯の発酵が同時に進行していくのが理想的なため、フナの大きさや嗜好に合わせて、塩を加減する。

加工技術

 桶の中では、乳酸菌が御飯のデンプンを餌にして爆発的に増えていく。乳酸菌は増殖と同時に乳酸の他に酢酸などの有機酸を産生し、漬け床の酸度は急速に高まって、雑菌は死滅する。魚は1~2%の乳酸に富む漬け床(pH4前後)の中で徐々に馴れていき、数年間保蔵が可能である。一緒に漬けた御飯も徐々に分解し、おかゆ状に馴れていく。骨の硬質部は漬床中の有機酸で徐々に酸分解されて軟らかくなり、頭から尾まで丸ごと食べられるようになる。魚肉はタンパク質分解酵素で分解が進み、ペプチドや遊離アミノ酸などの呈味成分が増加する。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 生きたフナを用いる写真1

  • 魚体処理・洗浄 うろことえら、浮き袋、内臓を除去する。この作業を「壷抜き」という。胆嚢は取残すと苦味が出てくるので、卵膜を傷つけないように取り除く。魚体処理後、丁寧に水道水で洗浄する。

  • 塩漬け 水洗後、口腔部に塩を詰めてから全体に塩をまぶし、桶に詰めていく写真2。塩をまんべんなく詰めることが大事で、詰め方が甘いと身が締まらないうえ、生臭みが残る。食中毒を予防するためにも塩はたっぷり使用する。桶の上部まで詰めたら重石をし、この状態で2ヶ月以上(~数年間)、塩漬けを行う写真3

写真2 塩漬け(提供:堀越昌子)
写真3 すし桶と重石(提供:堀越昌子)

  • 水洗と乾燥 塩漬けしたフナ(これを「塩切りフナ」という)を水洗し、数時間干す(1~数時間)(写真4

  • 炊飯 米を炊き、冷ます。

  • 飯漬け 乾燥した塩切りフナを飯に漬けこんでいく写真5。フナ10kgに対して、飯は3~4升分(9~11kg分)を使う。魚と魚が直接重なるとその部分の発酵が進まないので注意する。フナの顎に飯を詰めてから飯、フナ、飯、フナ、飯と交互に積み上げていく。最後は厚めの飯層にして重石をかける。水が自然に上がってから、桶上部に水を張る。

  • 熟成 常温で半年~数年置いて発酵熟成させる。発酵熟成期間は外気温の違いで前後する。

写真4 乾燥工程(提供:堀越昌子)
写真5 飯漬け(提供:堀越昌子)

加工に用いる機器等

 桶、重石

品質管理のポイント

 桶の中では製品は安定であるが、桶から上げて空気にさらすと風味も味も劣化するので注意する。桶から揚げたらすぐ食卓に供するのが原則である。店舗では劣化を防ぐために真空パックで包装されているケースが多い。真空パックすれば冷蔵庫でも保存が可能である。冷凍すれば長期間保存可能である。袋を開けた場合は冷凍でも徐々に劣化が進行する。

安全衛生管理のポイント

 滋賀県ではハスのなれずしで食中毒が起こったことがあるが、ふなずしではボツリヌス中毒は起こっていない。2ヶ月間以上、高い塩分濃度で塩漬けし、飯漬けでは魚と御飯を合わせてから一気に発酵させることが大事である。飯漬け期間を半年以上かければ食中毒の危険性はほとんどない。

特徴的な成分

 フナの魚肉タンパク質は、発酵の進行とともに分解が進み、旨味成分のペプチド、遊離アミノ酸含量が増加し、消化されやすくなる。ふなずしの有機酸総量は1~2%、塩分濃度 2~3%、pHは4前後である。
 生フナの脂質含量は5%前後である。魚油はEPAやDHAなど高度不飽和脂肪酸を含むので酸化に弱いが、ふなずし中の高度不飽和脂肪酸を定量した結果では、生の魚とほぼ同じ脂肪酸組成を示した。ふなずしは重石をかけ、水を張り空気と遮断して漬けるので、桶の中では脂質の酸化が進行しなかったと考えられる。
 魚骨中の不溶性のカルシウム塩は、なれずし中では有機酸で可溶化されていくので、吸収しやすいカルシウム形態に変化していく。
 なれずしとなれずし飯は乳酸菌を豊富に含み、整腸作用を持っている。有機酸と抗菌物質(ナイシンなど)が産生されるので、雑菌に対しても抗菌性を示す。2年間漬けたなれずし飯の抗菌力についてバレイショ菌を使った寒天培地で調べたところ、高い抗菌力を示した。

健康機能性成分

 ふなずしには乳酸、酢酸などの有機酸が含まれている。微生物が生産したビタミンも補強される。さらに発酵過程で抗菌物質(ナイシン等)が生成されている。乳酸菌そのものを含む生菌食品として、整腸作用も持っており、免疫の強化作用も期待できる。

製品の形態・包装

 かつて、ふなずし製品は桶から揚げた後、漬床の飯で覆って包み、竹皮などで包装していた。現在ではポリ袋を用いて真空パックでの包装で販売されるケースが多い。

調理方法および食べ方

① 酒の肴:スライスしてそのまま食す。
② 御飯のおかず:スライスしてそのまま食す。
③ 茶づけ:御飯の上にふなずしの切身を置いて茶づけにする。お湯をかけでもよい。
④ 吸物:ふなずし切身をとろろ昆布、塩昆布と一緒に椀に入れて、お湯を注ぎ、吸物にする。
⑤ ふなずし寿司:ふなずし切身をのせて握り寿司にする。
⑥ 甘露漬け:酒粕に漬け直して、甘めに加工する。

写真6 ふなずしの製品と盛り付け例(提供:堀越昌子) 

コラム

「ふなずしの歴史」

 なれずし加工法は、漁労をする稲作民の文化である。日本では稲作民の渡来とともになれずし加工が始まったと考えられ、数千年の歴史がある。琵琶湖はフナ、コイ、アユ、モロコ、マス、オイカワ、ハス、ウグイなど淡水魚の宝庫である。小魚も大きな魚も、周囲の水田で獲れる米で発酵させ、なれずしにして利用してきた。その中で最も好まれ、大量に漬けられてきたのがふなずしである。
 滋賀県には神社祭でなれずしを神饌しんせんとして供え、直会(なおらい)で食べる習慣が各地に残っている写真7。酒や餅と同じく手間暇かけた貴重な食品として、なれずしが位置づけられてきた。琵琶湖周辺では、なれずしは必要不可欠の加工・貯蔵法であった。
写真7 すし切り神事(守山市)(提供:堀越昌子) 

(著者:滋賀大学 堀越 昌子)