このわたとは
このわたとはナマコの腸を塩漬けし、熟成させたものである。もともと石川県では漁獲されたナマコの大半を「きんこ」と呼ばれる乾燥ナマコに加工して出荷していたが、その副産物である腸を塩辛にしたのが「このわた」であった。
このわたは江戸時代からからすみ、うにと並ぶ日本の三大珍味のひとつとして知られており、現在でも酒の肴やご飯のおかずとして根強い人気がある。
以前は腸管に対し10~15%の塩濃度が一般的であったが、近年、消費者の健康志向の高まりと冷凍.冷蔵技術の発達から、従来に比べ添加する食塩量を大幅に減らした製品(塩濃度約8%)が主流になっている。
主な生産地
石川県七尾市、穴水町
生産と消費の動向
石川県の主なこのわたの産地である七尾市石崎地区、穴水町中居地区を中心とした聞き取り調査によると、年間のこのわたの生産量は両地区合わせて約1.5tである。加工業者数の減少や能登半島地震後の影響で以前に比べて生産量が減少の傾向にある。
原料選択のポイント
マナマコはアオ、アカ、クロの3系に分けられる。石川県七尾市、穴水町の砂泥域で漁獲されるのはアオナマコ(写真1)がほとんとで、これが加工原料として用いられている
このわたの品質に大きな影響を与える要因の1つにナマコの漁獲時期がある。石川県でナマコ漁が解禁となる11月上旬から4月上旬までナマコの加工が行われるが、このわたの原料としては1月中に仕入れたものが最も良い。この時期のナマコでこのわたを製造した場合、一斗缶l缶のナマコ(約20kg)から約200gのこのわたが得られる。ナマコ漁の解禁当初は腸が未成熟であり、味、色とも良くない。また春先になると腸は成熟して大きくなるが、水っぽく大味になってしまう。このため、この時期のナマコはこのわたの原料としては不向きである。
加工技術
ナマコの腸管に塩を加えて塩蔵することで浸透圧により腸管が脱水される。この脱水具合がこのわたの品質を左右する重要なポイントである。塩漬け後、数日間熟成させるが、熟成中にナマコの腸に含まれる自己消化酵素が腸のタンパク質を分解する。その結果、呈味成分である遊離アミノ酸が生成され、このわた独特の風味が付与される。加工業者によって熟成期間は異なるが、この熟成期間の違いが遊離アミノ酸や有機酸組成に影響し、製品の呈味の違いに影響する。
製造工程の概略

加工の実際
- 泥吐き ナマコを生け簀に移して1~2晩程度蓄養し、砂、泥を吐かせる。この際にきちんと泥を吐かせることで、腸管内の洗浄操作が極めて容易になる。
- 腸管採取 桶の中で小刀を用いてナマコの腹部を3~5cm位切り込み、引っ張り出すようにして採取する。このとき「くちこ(ナマコの生殖腺の乾製品)」の原料となる卵巣を持っていれば、くちこ用に別に採取する。ナマコの呼吸器である水肺も、腸管と同様にこのわたの原料として混合することができるが、品質の良いものを造る際には除去する必要がある。また、腸以外の部分が混入した場合には塩漬け中の黒変や腐敗の原因となるので除去する。
- 洗浄 抜き出した腸を海水中で指の腹でしごくようにして腸管内の泥、異物、および腸液を取り除く。腸を極力切らないようにする。穴水町中居地区では、太めの杉箸を用いて腸管を扱き出す独特の方法が用いられている。
- 塩漬け 洗浄した腸を桶に入れ、塩を混ぜてしばらく静置する。添加する塩の濃度はその日の温度や品質保持期間によっても異なるが、通常5~8%、低いところでは3%程度の塩濃度の加工業者もある。また、塩を加えてからの静置時間は腸管の太さや業者によってさまざまで、3~30分と幅がある。その後、ざるなどにあげて水分を滴下させる。ここでしっかり水切りをしていないと出来上がりの製品が水っぽくなってしまう。
- 熟成 塩漬けし水切りしたものをびん詰めし、冷蔵庫内で1~3日間熟成させた後、冷凍保存する。竹筒に入れて販売する場合はこのわたが竹の節や繊維の間に染み込むため、容器に入れて一旦凍結し販売する時になってから竹筒に詰める。
加工に用いる機器等
ナマコを捌くための小刀
品質管理のポイント
このわたの品質は、原料とするナマコの成熟度合に大きく影響を受けるため、適切な時期に漁獲された原料を選択する必要がある。また腸管の採取のためにナマコを捌く際、内臓を傷つけないように留意するとともに、腸以外の部分を丁寧に除去する。その後塩蔵する際の脱水具合や、熟成期間の適切な管理も必要である。
製品の形態・包装等
賞味期限は竹筒に入れ冷凍した状態で30日間、びん詰めし冷凍したもので6か月。竹筒に入れると竹による殺菌効果があり、風味も良くなる。
特徴的な成分
このわたの一般成分は下の表に示した通りである。総遊離アミノ酸量は2,413mg/100gであり、特にうま味成分であるグルタミン酸を多く含む。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)

調理方法および食べ方
そのまま酒の肴として食べる。また、炊き立ての熱いご飯にもよく合う。料理屋、旅館などの料理では器に少量入れ、鶉の卵を割り入れて供されることもある。空になった竹筒に熱澗を入れた「このわた酒」は一層風味が増して格別である。
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(提供:(有)大根音松商店/能登珍味 なまこや)
参考文献
・森真由美他.伝統水産加工品の成分.水産物の利用に関する共同研究第44集 2004;20-25
(著者:石川県農林水産部水産課 小柳 真由美、石川県水産総合センター 西田 光希)
