えそ・ぐちエキスとは
本稿で取り上げる「えそ・ぐちエキス」は、魚肉中の自己消化酵素や市販のタンパク質分解酵素でエソ、グチの魚肉タンパク質を分解・濃縮したペプチドを多く含有する特徴的なエキス調味料(写真1)である。水産物を主原料とした缶詰、節等の製造時に排出される煮汁を濃縮して製造されていた従来のエキスとは異なる。
(参考情報)日本エキス調味料協会(現在加盟62社)のガイドラインによると、エキスとは「食品として用いられる農・水・畜産物を原料として、衛生的管理の下に抽出、搾汁、自己消化、酵素処理、精製、濃縮等により製造し、原料本来の成分を含有するもの、またはこれに副原料、味成分を加えたもので、食品に風味を付与するものをいう。」と定義されている。
(本文末尾のコラム「魚肉エキス誕生物語」もご参照ください。)

主な生産地
愛媛県、静岡県、栃木県、徳島県、熊本県、東京都など
生産の動向
近年、消費者の本物志向により、うま味調味料から天然系調味料へ嗜好も変わってきており、熱水抽出法、酵素分解法、自己消化酵素による分解法等によって製造されるエキスの種類や生産量も多くなっている。特に、水産ねり製品の分野では、原料魚として生鮮魚に代わりスケトウダラ等の冷凍すり身に依存するようになってきたが、冷凍すり身製造における水晒し工程で失われるエキス成分を補う調味が必要であった。このような中、消費者は従来のうま味調味料(グルタミン酸ソーダ(MSG)等)の味に満足できず、後味が良く、しかも深みのある天然の味を求めるようになった。この魚肉エキスは昔から練り製品に利用しているエソ、グチ類などを原料としているので、かまぼこ類には好適な味付け用の調味料で、本物の自然な魚の味が付与できる。また、最近では、水産ねり製品以外の水産加工品や、魚介類を使用する加工食品全般でも使用されている。
原料選択のポイント
原料として、新鮮なエソ類(マエソ,ワニエソ,トカゲエソ)(写真2)、シログチ(写真3)を用いる。
鮮魚での確保が可能な近海産の魚介類は、鮮度を落とさないように、搬入後直ちに魚肉採取機にかけて魚肉のみを分離し、そのまま使用するか、あるいは冷凍落とし身ブロックとして急速冷凍処理後、貯蔵して使用する。
鮮魚での確保が難しい、東南アジアなど海外からの輸入冷凍原料や水産物加工端材(冷凍)については、仕入れ前に受け入れ検査等を実施し、原料の品質を確認するとともに、原料サプライヤーを定期的に監査(現地確認)することで、鮮魚と同等レベルの品質が得られるよう管理を行い、それらの原料を使用している。
原料原産地については、可能な限り、国内手配を優先するが、漁獲量やコスト的な問題から、昨今は国外産の原料を使用することが多くなっている。
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使用する副原料
保存安定性のため食塩・澱粉等を加えることが多いが、取扱業者のニーズによって糖類やMSGなどを用いて複合調味料とする場合もある。
加工技術
新鮮な魚肉を原料とし、独自の条件下で、魚肉中の自己消化酵素とタンパク質分解酵素の併用により、魚肉タンパク質を分解し、ペプチドを多く含む旨味のあるエキスを生成させることが加工原理である。また、外部からの汚染物の混入がないよう、食品安全マネジメントシステムによる衛生管理が徹底されている。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 エソ・グチ等の新鮮な原料を使用する。
- 採肉 魚肉採取機(写真4)で魚肉を分離する。
- 冷凍保管 採取した魚肉を落とし身ブロックとして急速冷凍し保管する。
- 粉砕 冷凍落とし身ブロックをクラッシャーで砕肉とする(写真5)。
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- 酵素分解 水を加えてタンク内で自己消化を含む独自の方法で酵素分解する(写真6)。
- 粗分離 未分解物と分解液とに分ける。
- 超遠心分離 高速遠心分離機(写真7)で分解液から油を除き精製する。
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- 濃縮 必要な濃度まで水分を蒸発させる。
- 配合 目的に応じて副原料を加えて混合する。
- 殺菌 高温瞬間殺菌機に通して加熱殺菌する(写真8)。
- 充填・包装 クリーンルーム内で所定の容器に充填する(写真9)。
- 保管 定められた条件下で出荷まで保管する。
- 製品出荷 所定の温度帯で配送する。
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加工に用いる機器等
魚肉採取機、粉砕機、分解タンク、高速遠心分離機、高温瞬間殺菌機、充填装置等
品質管理のポイント
原料サプライヤーに対しては定期監査を実施し、食品安全マネジメントシステムに則った製造工程で製造された製品は、ロット毎に成分分析、衛生検査等を行い、味、風味と共に安全性も確認した上で保管後、定められた輸送条件で出荷されている。
安全衛生管理のポイント
製品は、食品安全マネジメントシステムの国際規格となるFSSC22000に基づき管理されている。
特徴的な成分
原料であるエソ・グチ類等の魚肉に含まれるタンパク質を自己消化酵素およびタンパク分解酵素で分解するため、ペプチドを多く含有するエキス製品となる。このペプチドと遊離アミノ酸のバランスにより原料由来の味・風味が多く残存し、その特徴を水産練り製品などの最終製品に付与することができる。
健康機能性成分
魚肉エキスの主成分であるペプチドには、血圧抑制作用、コレステロール抑制作用、ミネラル吸収促進作用等様々な機能性が認められている。特にイワシ分解エキスから独自製法で分画精製されたバリルチロシンを含むイワシ抽出ペプチドには血圧降下作用が顕著に見られ、特定保健用食品や機能性表示食品素材として「サーデンペプチド」の商品名で販売されている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)

製品の形態
製品は、褐色のやや粘ちょう状液体であり、用途に合わせて濃度や色調が異なっている。
包装および保管方法
製品は、20kg・18kg(缶、バッグインボックス)、1kg×10(スタンディングパウチ)の包装形態により冷蔵・冷凍で保管・流通されている。
調理方法および食べ方
主に水産ねり製品の味付け(2~3%添加)からスタートした魚肉エキスであるが、現在では、原料由来の味・風味やコク、複雑味を加工食品に付与する目的で利用(1~2%添加)され、その用途は冷凍食品やラーメンスープなど、多くの加工食品に広がっている。
同類製品例
現在では、上記の技術を用いて、鯛、鮭、ハモ、アジなどの魚介エキスのほか、カニ、エビなどの甲殻類エキス、アサリ、ホタテ、カキなどの貝エキスほか、イカ、タラコなどのエキス製品が製造されている。
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コラム
「魚肉エキス誕生物語」
ペプチド(図2)を主成分とする魚肉エキス誕生の発端は第二次世界大戦終結後まで遡る。当時の多くの国民は、食糧難で栄養バランスが悪く、特に子供や老人は胃腸が弱っており、タンパク質の消化、吸収が難しい状態であった。筬島 一治氏はタンパク質を何とか消化しやすい状態に改善できないものかと考えた。筬島氏の大学時代の恩師富山哲夫教授は「魚肉液化」の研究に携わっており、その発想の根底に「国民を飢餓から救う」という目的があることを知った筬島氏は、感動に打ち震えたという。
大学卒業後他の職業に就いたものの、自宅で「魚肉液化」の研究を続け、四半世紀後の1976(昭和51)年にようやく工業化に漕ぎ着けた。飢餓の時代は終焉していたものの、当時全盛であった、うま味調味料の単調な味だけでは満足できなくなった消費者の不満解消策として、天然調味料の複雑な風味とコク味が見直されるようになった。さらに、スーパーやコンビニエンスストア向けの加工食品が急速に普及するにつれ、用途や加工食品別に様々な天然調味料が開発され、現代の消費者ニーズにマッチした多様な調味料が登場している。

(著者:愛媛県産業技術研究所 重松 博之・仙味エキス 株式会社 筬島 克裕
・元愛媛県産業技術研究所 故 岡 弘康)
