目次
第1章 乾製品 第5節 調味乾燥品

塩引き鮭

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主原料

主生産地

保存方法

冷蔵保存/常温保存

キーワード

鮭の酒びたし/ブナザケ/銀毛/年取り魚/村上地域/止め腹

備考

Shiobiki-sake/伝統的加工品

「塩引き鮭」「鮭の酒びたし」とは

 「塩引き鮭」とは、新潟県村上地域の名産品として知られるサケの干物である。新巻鮭とは異なり、塩漬けを十分行い、塩出し後、寒風により乾燥させたもの(写真1)である。
 「鮭の酒びたし」とは、この「塩引き鮭」を約半年間かけて乾燥し熟成した発酵食品を言う。独特の風味が特長で、根強い人気がある。
(本文末尾のコラム「村上の鮭文化と増殖の取組」もご参照ください)

写真1 鮭の乾燥(提供:株式会社 永徳)

主な生産地

 新潟県村上地域で生産されている。他県では岩手県等でも同様な製品が生産されている。

生産の動向・消費の動向

 新潟県村上地域では、年末年始に欠かせない「年取り魚」であり、贈答品としても人気の高い塩引き鮭であるが、近年、産卵のために遡上する鮭が全国的に減少しており、新潟県村上地域を流れる「三面(みおもて)(がわ)」でも同様の傾向が見られている。このことから、地域の風物詩となっている軒下に吊るされる塩引き鮭も減少し、人々から惜しまれている。

原料選択のポイント

 「塩引き鮭」「酒びたし」に用いる原料魚は、かつては三面川に産卵のために遡上して間もない雄の6~8kgのブナザケ(成熟により婚姻色の縞模様(ブナ毛)が出て 、やや脂の抜けたシロザケ)を使用してきたが、現在では、海で獲れる銀毛(未成熟のサケ)も多く、3~5kgのものも使われるようになっている。また、地元産だけでなく、北海道、青森県、岩手県等からも原料魚は多く入ってきている。

加工技術

 乾燥により水分活性を低下させ、風味と保存性を付与する。
 「塩引き鮭」は、鮭を塩漬けして水分を取り除き、塩出しして塩分を調整後乾燥することにより、水分活性を低下させ貯蔵性を高め、旨味を濃縮した加工品である。
 「酒びたし」は、「塩引き鮭」の乾燥期間をより長く取り、半年以上寒風にさらし肉が硬くなるまで乾燥させた保存食である。非常に硬いため、薄く切り酒をふりかけて肉を柔らかくして食べてもよい。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 サケの漁期である11月中旬から12月上旬にかけて仕込みをする。三面川に産卵のために遡上して間もない雄のブナザケで6~8kgの大型魚体を用いるのが望ましいが、現在では、海で獲れる銀毛の鮭も多く、3~5kgのものも使われるようになっている。

  • 体表のヌメリ除去 体表についている粘液(ヌメリ)を研いでいない菜切り包丁等を用いて十分に除去する。

  • 内臓除去 エラおよび内臓を除去する。腹部を切る場合は腹の一部を残し、全部を切り開かない(村上地域の伝統で、「止め腹」と言う)。

  • 水洗 腹腔内および魚体表面に付着した血液や体液を十分に洗い流し、腹腔内の血管に残った血液も指先などで押し出す。水洗いが終了した後、乾いたタオル等で十分に水分を拭き取る。

  • 粗塩すり込み 鱗の逆目に粗塩(天然塩が望ましい)を強く手のひらですり込む(写真2)。腹の内側にもまぶすようにすり込む。頭部、口腔部、眼球にも塩をまぶす。塩の量は、魚体重の10%程度である。

  • 漬け込み 塩をすり込んだサケは容器(本来は浅い楕円形の桶を用いたが、現在は発泡スチロール製の魚箱)に横向きに入れ、北向きで日陰となる冷たい場所(日陰の冷所)で1週間程度漬け込む。3~4日後に裏返し、塩が片身だけに偏らず、まんべんなく魚体に浸透するようにする。

  • 塩出し 塩が十分に染み込んだのを見届けて(魚体が硬く、ガチガチになる)から、弱い流水中で約8~18時間(状況により異なる)塩抜きをする(きれいな自然の流水が、理想的)。塩分が適度に抜けたかの判断は、魚体が生の時の固さ位(指で押してみて少しへこむ位の感覚)に戻れば良い。

  • 洗浄 体表に残っているヌメリを、研いでいない菜切り包丁等を用いて十分に除去し、形を整える(写真3)

  • 乾燥 尾鰭近くをひもで縛り頭を下にし、北向きの軒下等(直射日光の当たらない場所)で吊るす。冷たい風にさらし、14~20日で「塩引き鮭」が完成する。「酒びたし」用の「塩引き」は、そのまま吊り下げ、年を越し、梅雨が終わる頃まで乾燥と湿潤を繰り返すことにより熟成し、身の色があめ色に変わり硬く乾しあがって完成となるが、長期の風乾熟成中、とりわけ梅雨の時期になると、魚体にカビが発生しやすいので注意を要する。

写真2 サケ魚体に塩を擦り込む
(提供:(公財)イヨボヤの里開発公社)
写真3 形を整えて干す
(腹の一部はつなげておく)
(提供:(公財)イヨボヤの里開発公社)

加工に用いる機器等

 よく切れる出刃包丁、研いでいない菜切り包丁(ヌメリ取り)

品質管理のポイント

 「塩引き鮭」は、5℃以下の冷蔵庫で保管する。
 「酒びたし」は、高温・多湿、直射日光を避け、常温で保管する。

製品の形態

 「塩引き鮭」は、必要に応じて1尾ものから、三枚におろして半身ごとに真空包装する等、製品の形態は様々である。また、焼いた身をほぐして瓶詰にした製品もある。
 「酒びたし」 は、一般的にはスライスした身を40~200g入りで真空包装する。おみやげ用等には、半身ずつ皮、腹側を取り除き薄くスライスした状態で魚の姿を形取り、真空包装したものもある。

調理方法および食べ方

 「塩引き鮭」は三枚におろして適当な大きさに切り、焼いて食べる方法が一般的であるが、村上では、各種のサケ料理の材料に用いることもあり、食べ方はバラエティーに富んでいる。
 「酒びたし」は完成したものを三枚におろし、腹側の部分を取り除き、皮は包丁などではぎ取る。このとき皮を火であぶるとはぎとりやすい。皮をはいだ硬い身を薄くスライスし、日本酒等を振りかけ柔らかくして食べる。(写真4
 現在は、薄塩仕立てのものも多く、スライスしそのまま食べてもおいしい。

写真4 酒びたし(提供:株式会社 永徳)

コラム

「村上の鮭文化と増殖の取組」

 越後の国、村上藩はサケとの関わりが深く、江戸時代には藩の財政を支える重要な産物であった。およそ250年前、藩士の青砥武平治あおとぶへいじがサケの産卵行動に着目して、その産卵を保護して繁殖を図るために、川にバイパスをつくってサケを導き、産卵させるシステムを構築した。これは「種川の制」と呼ばれ今日まで三面川みおもてがわ鮭産漁業協同組合の関係者の努力により受け継がれており、母なる川「三面川」はサケ増殖の基幹河川として位置付けられている。
 こうしたことからも、村上におけるサケの消費量は多く、サケを余すところなく利用する料理の数は100種類を優に超すといわれており、大晦日の年取り魚には、ほとんどの家庭でサケを用いる。
 その際に使われるのは、魚体の保存、旨味の増加等を目的とした「塩引き鮭」である。村上の塩引き鮭は「腹を一部切らず、つなげておく」「乾燥時尾鰭近くをひもで縛り、頭を下にしてつるす」等の特徴を持ち、武士の時代の名残りがある伝統食品である。

(著者:(公財)イヨボヤの里開発公社 石井郁子、株式会社 永徳 永田 政義、
新潟県水産海洋研究所 渡辺 寛子)