浮きはんぺんとは
浮きはんぺんとは、魚肉すり身にヤマイモ、でん粉などを加えて湯煮した茄でかまぼこの一種で、柔らかい食感を特徴とする(写真1,2)。加熱時に湯に浮くはんぺんであることから浮きはんぺんと呼ばれている。主に東京を中心とした関東風スタイルのはんぺんであり、サメ肉を塩ずりし、ヤマイモなど(現在では海藻から抽出した起泡材など)を加えてよくすって、気泡を作り上げ(これを浮かすという)、最後にでん粉、卵白(メレンゲ)などの調味料を加えたソフトで軽い食感を有した茄でかまぼこである。
(本文末尾のコラム「はんぺんの語源」「はんぺん色々」も参照してください。)
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(提供:全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会)
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(提供:全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会)
主な生産地
東京および千葉でその多くが生産されている。
原料選択のポイント
東京では江戸時代から作られており、アオザメやカジキマグロなどが原料として使用されてきた。終戦後から数十年前までは、これらのサメが市場に水揚げされると、鰭などを取るために、専門業者がサメを解体していた。鰭を取った後、残りの魚肉を利用してはんぺんが作られていた。しかし、現在では、東京湾ではサメ類の漁獲はほとんどないため、ヨシキリザメやアオザメなどを気仙沼などから移入している。これらのサメ類のほとんどはマグロ漁によって混獲されたものである。
原料のサメ肉は、通常、鮮度のよいものが冷蔵のブロック状で送られてくるが、その肉色は、きれいな薄いピンク色である。サメ肉は、硬骨魚には少ない尿素やトリメチルアミンオキサイドを多く含んでいるので、保存状態が悪いと、微生物の作用により刺檄臭の強いアンモニアやトリメチルアミンが発生する。このため、鮮度の悪いものは原材料としては使えない。
近年、発泡技術の進展に伴い、スケトウダラなどの冷凍すり身も原料として用いられるようになっている。
加工技術
浮きはんぺんは、蒸しかまぽこ、ちくわ、揚げかまぼこなどとは異なり、弾力よりも、軽くソフトな食感が好まれる。したがって、口の中に入れると溶けて、軽く、ふんわりとした食感をいかに作れるか、その配合や製造方法などが工夫されている。
鮮度の良いサメ肉は、通常、水晒しを行わずに落とし身として使用し、裏ごしによってすじ(結合組織)と魚肉の部分に分離される。この魚肉に塩を加えて、粘性のある肉糊を作る工程は、その他のかまぼこ類と同様であるが、はんぺんは、高速回転の擂潰機を用いて擂潰してすり身中に多くの気泡を含ませて独特な食感を作り上げる点が他のかまぼこ製造とは異なる。また、すり身が含んだ気泡が抜けないようにすり身を氷で常に冷やしながら擂潰する。近年では、スケトウダラなどの冷凍すり身を原料に使い、発泡機を用いて強制的に気泡を抱かした浮きはんぺんも作られている。ここでは、サメ肉を用いた浮きはんぺんの加工について述べる。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 気仙沼産のサメ類が、東京では最も多く使用されている。通常は、冷蔵ブロックの状態で運ばれてくる。
- 裏ごし 採肉した後、さらに食感を滑らかにするために、裏ごしし、すじを除去する。一方、除去されたすじは、すじかまぼこの原料になる。
- 擂潰
① サメ肉に2~3%の塩を加えて、塩ずりする。
② 5~10%のヤマイモを加え、高速で擂潰し、気泡を巻き込ませる。
③ 浮いた(気泡を含んだ)すり身の半量を別に取り出す。残ったすり身に再び先と同量のヤマイモを加えて、擂潰する。
④ すり身が軽く、ソフトになったところで、卵白(メレンゲ)、砂糖、デンプン、魚介類のエキスなど調味料を加え再び擂潰する。
⑤ 先に半量取り出しておいたすり身を加えて擂潰し、より軽く、ソフトに仕上げる。
- 成形 すり身をお椀型の容器に入れて成形する。
- 加熱 85~90℃で湯煮する。はんぺんが、湯上に浮くことを防ぎ加熱の効率を高めるため、籠に入れたり、あるいは蓋をする場合もある。
加工に用いる機器等
採肉機、裏ごし機、高速擂潰機、茹釜
製品の形態・包装等
東京の浮きはんぺんは、四角で真ん中が山になっているか(写真1)、あるいはお椀型の厚みのあるラグビーボールのようなふっくらした形のものが多い。おでんには三角形のもの(写真2)が用いられることもある。形がなるべく壊れないようなピロー包装することが多く、通常の包装には、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの複合包装フィルムが使用されている。店頭での販売では、特に、包装をしないこともある。
特徴的な成分
一般のかまぼこと同様に、タンパク質を多く含み、低脂質、低カロリーである。食塩相当量は一般のかまぼこよりも低い傾向にある(表1)。

調理方法および食べ方
浮きはんぺんは、そのまま、あるいは少し火に焙るなどする食べ方が、味、風味、食感が楽しめてうまい。おでん種とするのが最も一般的であり、人気も高く、とても多く食されている。
コラム
「はんぺんの語源」
東京のはんぺんは、元禄年間(1688~ 1704)に日本橋室町で初めて作られたとされている。原料のサメ類が日本橋の魚河岸に多く集まったことからもうなずける。はんぺんの語源については、駿府の膳部半平が作り、「はんぺい」がなまって「はんぺん」になったとする説がある。一方、天正3年 (1575)の記録には「かまぼこのはへん」という記述がある。この他、形が半円状や四角い方形などの呼び方から来ているという説、ハモ肉で作る「はも餅」から来ているという説、魚肉にヤマイモを半分加えるところから製品の質を表すという説など、さまざまな説がある。
ところで、ペリー来航の時の歓待メニューが東京大学に残されており、それによると日本橋・浮世小路にあった懐石料理の百川楼が一人100両(当時の金額で500万円)の予算で請け負ったとある。(別の資料では一人10両とする資料も存在する。) この中にはんぺんとかまぼこが登場している。当時はんぺんや大阪かまぼこはメインディッシュとされ、百川楼でははんぺんをよく使ったと言われる。
「はんぺん色々」
浮きはんぺんのほかに、イワシ、サバなど青魚を原料にした静岡の黒はんぺん、ハモなどを主原料にした大阪のあんべい、エソなどを主原料にした山口のはんべえなど、全国には多くのはんぺん類がある。いずれも原料魚のすり身に山芋などを加えて湯煮したものである。加熱時に浮かせずに沈むものあるいは蒸したものは、一般にしんじょと呼ばれ、関西ではよく見られる。
(著者:元全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会蒲鉾研究所 石内 幸典、
東京都立産業技術研究センター食品技術センター 野田 誠司)
