目次
第3章 調味加工品 第1節 佃煮

湖産魚介類の佃煮

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保存方法

冷凍保存/冷蔵保存

キーワード

ゴリ/コアユ/小魚/琵琶湖/醤油漬/山椒漬/砂糖煮/飴煮/豆煮

備考

Kosan-gyokairui-tsukudani/伝統的加工品

湖産魚介類の佃煮とは

 琵琶湖には佃煮の材料に適した小魚が多く、コアユを筆頭にイサザ、モロコ、エビ、ゴリ(ハゼ科のヨシノボリ属の稚魚の琵琶湖近郊における地方名)、ワカサギ、シジミなどが佃煮にされる。ウグイ、ハスは春先の稚魚を佃煮にする。これらの魚貝を醤油煮、山椒煮、砂糖煮、飴煮にする。また大豆と組み合わせて、エビ豆、イサザ豆、シジミ豆、アユ豆といった多彩な豆煮類がある。特にエビ豆、シジミ豆は滋賀県全域で作られている。イサザ豆は湖北地域で最も好まれている煮豆の1つである。
 琵琶湖周辺では、湖魚を煮付ける文化が広範囲に広がっている。獲れたての魚を買って各家庭で、醤油煮(佃煮)にすることが多い。

生産の動向・消費の動向

 湖魚の漁獲量は年によって大きく変動する。その中でも春先から夏場までは、アユの漁獲量が最も多く安定しており、佃煮生産の筆頭である。秋にはワカサギが多く獲れて佃煮にされる。
 琵琶湖周辺の淡水魚を扱っている川魚屋や食品店、産直店で、朝獲りの生の魚が入荷するので、1kg前後を買い求めて、鍋で炊く家庭も多い。醤油、砂糖、酒、味酬等を使って味付けされるが、その特徴は各家庭さまざまである。淡水魚貝は独特の臭みを持つものが多いので、山椒の葉や実、生姜の千切り、梅干しと一緒に炊かれることが多い。昔は日保ちする佃煮をつくるために 味付けが濃く、甘味として水飴が使われることが多かったが、最近の傾向としては薄味に仕上げた製品が多くなっている。加工業者で製造する場合も飴を使用しないところが増えている。

原料選択のポイント

 おいしい佃煮をつくる一番のポイントは、新鮮な魚を使うことにある。特に生きている状態に近い状態で、鍋(釜)に入れることが肝要である。特にゴリ(ヨシノボリの稚魚)は小さな魚なので獲ってから2時間以内に釜に入れないと魚の形が崩れてしまう。コアユは春先のものが高価ではあるが、おいしい佃煮ができる。真夏に近くなると砂をかんでくる場合が増えるので、盆までに漁は終える。川魚屋や食品店、産直店では朝獲りの生の魚が入荷するので、あらかじめ頼んでおくと新鮮な湖魚を入手しやすい。

使用する副原料

 湖魚は淡水魚独特の臭みを持つものが多いので、副材料として、山椒の葉や実、たで、生姜、梅干し等を加えて一緒に煮る場合が多い。調味料としては、砂糖、飴、醤油、酒、みりん等が使われる。砂糖と醤油の量は好みで変えられる。家ごとにまた地方によって炊き方はさまざまである。保存する期間によっても味付けを変える。長めに保存したい時は濃い目の味付けにする。砂糖は白砂糖よりも三温糖(赤砂糖)や粗目砂糖が使われている。飴は保存期間を長くしたい時に加えるが、固くなるので、ふだんは加えない。味醂は最初に加えると煮崩れしやすくなるので、最後に加えて、照りを出す。

 湖魚佃煮の調味料の例

加工の原理

 魚介類を濃厚な調味液中で高温で加熱することにより耐熱性芽胞形成菌以外を死滅させ、糖分や塩分を含む調味料を加えることで味付けと同時に水分活性を低下させ、保存性を高めている。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 新鮮な原料を使用することが重要である。鮮度・サイズを厳選する。

  • 原料の洗浄 原料を洗浄し、水切りする。

  • 調味料調合 鍋に砂糖、醤油、酒を入れてしばらく沸騰させる。

  • 原料魚投入 調味料を多めにして、原料魚を泳がすようにパラパラと入れていく。

  • 加熱 鍋や蒸気釜等で30~50分間加熱を行う。魚と魚が直接重ならないように気をつけると煮崩れせず、炊き上がりも美しくなる。一般に鍋の蓋を使用せずに煮る。小さいものは30分間、大きいものは40分間かけて煮る。それ以上炊くと硬くなり、かえって日保ちがしない。

  • 煮汁の分離 ザルに上げて煮汁を切る。熱いうちに煮汁を切る場合と、鍋の中でしばらく冷やした後にザルにあげて煮汁を切る場合、鍋に半日置いて煮汁を煮含ませる場合がある。煮汁を切ってからは、乾燥しないように気をつける。

  • 冷却 室温になるまで放冷する。

  • 包装 含気包装を行う。

  • 製品 梱包して出荷する。

アユの佃煮


 アユは琵琶湖で最も多く安定して獲れる魚であり、佃煮生産の筆頭を占めている。コアユとして、年間700t位が水揚げされる。アユの漁獲は沖すくい網が多いが、安曇川あどがわ姉川あねがわ河口ではやな(川の瀬に杭や竹を並べて水をせき止め、魚を捕獲する仕掛け)と四ッ手網よつであみ(正方形の網の四隅を竹や木で張り、その交点に綱をつけて上下できるようにした漁具)でアユを獲っている。琵琶湖のアユは、川で育つアユと違って、10cm位までしか成長しないので、サイズが佃煮に適している。昔はアユを茹でてから乾燥して干物にもされたが、今は獲れたアユのほとんどが煮物(佃煮)にされている。


 琵琶湖のコアユは特有の旨味、苦味と独特の香りがあり、滋賀県民に愛されている湖魚で、佃煮生産の主力である。アユを家で炊く場合、山椒の葉や実と一緒に炊かれる場合が多い。蓼煮、生姜煮、豆煮にもされる。蓼煮はコアユを蓼とともに煮たもので、本蓼を使うと香りが高く、独特のおいしさになる。


 春先に獲れる氷魚ひうおと呼ばれる稚魚から盆までに獲れるアユが佃煮(醤油煮.飴煮)にされる。時期によりアユの価格は変わり、春先の氷魚は高価である。川魚屋や湖岸近くのスーパーマーケットでは、その日に漁獲されたピチピチの新鮮なアユが店頭に並ぶので、500g、1kg単位で購入し家々で炊かれる。煮付け方、味付け方はバラエティに富んでいる。(写真1、2)

▪ あゆ醤油煮・飴煮の調味液の例

▪ あゆ醤油煮・飴煮の炊き方

すじえび佃煮とえび豆(写真3)


 琵琶湖ではスジエビが1976年の1,500tをピークに減少しており、近年は不漁の年が多くなっている。海産のサクラエビと違って、琵琶湖のスジエビはひげが少し硬いので、消費量は漸減傾向にある。しかし、えび豆は、琵琶湖周辺で最も人気のある惣菜で、家々で炊かれ、学校給食にも登場している。スジエビと大豆は相性がよく、味の面でも栄養面でも優れており、えび豆は日常食として広く食べられてきた。地元の食品店でも惣菜コーナーに並ぶ常備菜である。またスジエビは大根と一緒に炊かれて「えび大根」にもされ、冬場の食卓に並ぶ。

▪ えび豆の材料の例(家庭1鍋分)

▪ えび豆の炊き方

写真3 えび豆(提供:堀越昌子)

しじみ煮、しじみ豆(写真4)


 シジミにはヤマトシジミ、マシジミ、セタシジミの3種類がある。このうちセタシジミが、琵琶湖の固有種である。貝の付け根が厚くて、左右が非対称、貝色が鼈甲べっこう色で粒が大きく、味がよいのがセタシジミの特徴である。シジミは3年ものが食べ頃で、貝の年輪で年齢がわかる。琵琶湖湖畔ではしじみ煮、しじみ豆煮、しじみ汁、しじみ飯として、食べられている。古く縄文時代の貝塚からもセタシジミの殻が発掘されており、古くから人々の食を支えてきた。
 セタシジミは1960年頃までは大量に漁獲されており、水揚げは魚貝類のトップであった。殻付きのシジミは、滋賀から行商で京都や大阪に運ばれ、街角で売られた。沖島では剥き身のしじみにして大量に出荷されていた。しかし1965年前後から琵琶湖のシジミは減少し、資源量が減ってしまった。近年は稚貝放流の努力などで、復活の兆しがみえているが、まだまだ資源量は少ない。
 現在、琵琶湖で獲れているシジミはセタシジミとマシジミが混じっている。また滋賀産のしじみ佃煮は、他府県産の材料も入っており、地元のセタシジミの漁獲量の回復が待たれている。
瀬田川では、独特の手曳漁でシジミが獲られてきたが、最近では6~7mの長さの竹を使い、先端に金属性のタマと網をつけてく。北湖では、間鍬まぐわを使った貝曳き動力船でシジミを獲っている。貝掻きでは、シジミのほかにイシガイ(ダボガイ)、ササノハガイ、タテボシが獲れる。
 シジミのエキスは肝臓の薬であり、薬効が高いといわれている。コハク酸、アラニン、グルタミン酸などの旨味成分やビタミンに富んでいる。

 

▪ しじみ煮の炊き方
 シジミを鍋に入れてから、煮だし汁と調味料を入れて火にかける。生姜の千切りと一緒に炊くと臭みが消えて、シジミの旨味が引き立ってくる。しじみ御飯は人気があり、昔はよく家庭でも炊かれたていた。シジミの佃煮を使ってしじみご飯やしじみ豆(写真4)にする場合もある。

写真4 しじみ豆(提供:堀越昌子)

いさざ煮、いさざ豆


 イサザは琵琶湖固有種で、体長6~8cm位のハゼ科の魚である。動物性プランクトンを食べているので味がよい。イサザだけで煮物にする他、ダイズと炊き合わせた「いさざ豆」が好まれている。イサザの漁獲量は数年周期性があり、変動が大きいので、年によっては手に入りにくい場合もある。

▪ いさざ豆の炊き方

写真5 いさざ煮(提供:堀越昌子)

ごり佃煮


 ハゼ科のヨシノボリの稚魚はゴリといわれている。真夏の頃、湖底から湧いてくるように群れて浮き上がってくるので、沖曳網ちゅうびきあみ(琵琶湖で行われている底引き網漁の一種)でゴリ曳きが行われる。獲れたらすぐに陸揚げして、2時間以内に釜に入れる。ゴリの佃煮は味がとてもよく、また食べやすいので人気がある。ゴリを煮崩れさせずに上手に煮上げるには経験が必要である。香辛料としては粒山椒がゴリに合っていて、味を引き立ててくれる。

▪ ごり佃煮の調味液の例

 

▪ ごり佃煮の炊き方

写真6 ごり佃煮(提供:堀越昌子)

加工に用いる機器等

 大型の回転鍋

品質管理のポイント

 炊き方によっては煮崩れすることがあるので、煮汁は多めに使用する。生魚を入れる前に煮汁を少々煮詰めておくと、魚が締まって煮崩れしにくくなる。魚を入れてからは箸で混ぜたり、鍋を振ることは厳禁である。丁寧に煮汁を回してゆっくり回転させて、泳がせるように炊くと失敗が少ない。魚体はピシッと硬く締めて、身は軟らかく炊きあげることが大事である。

特徴的な成分

 小魚の佃煮は魚を丸ごと、骨も一緒に摂取できるので、栄養価が高い。特に昔は農村部で、良質のタンパク質と脂肪、カルシウムが慢性的に不足していたので、湖魚の佃煮が栄養面で果した役割は大きかった。琵琶湖周辺の農村部では、湖魚の佃煮を食べることができたので、農繁期のきつい労働に耐えられた。学校保健統計でも滋賀県の身長は全国でトップクラスに入っていることからも、湖魚の佃煮の果たしてきた役割が大きかったことが推察される。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)

製品の形態・包装及び保管方法

 500g、1kg単位で箱詰めなどにして、包装される。店頭では量り売りも行っている。
 佃煮は塩分・糖分を多く含み水分活性が低いことや、30~40分間の加熱により殺菌されているため、日保ちはよい。冷凍庫で半年位は保存できる。しかし、最近は薄味志向なので、1~2週間位で食べ切るように心掛ける。

参考文献

・文部科学省.学校保健統計調査-令和6年度(確定値)の結果の概要
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/2024.htm (2026年1月20日参照)

(著者:元滋賀大学 堀越 昌子)