かじき・まぐろ味噌漬けとは
神奈川県の三崎地区においては、昭和30年代から製造されていたなまり節に代わる加工製品として開発され、その後数十社による製造が始まり、 50年以上も続くベストセラー商品として現在に至る。
当初、クロマグロやメバチは、刺身素材として評価が高いものの、同時に漁獲されるカジキ類については、その肉色が淡桃色や淡黄色であったことから、刺身素材としての評価が低かった。そこで、新たな加工品の開発が要望され、肉色によって商品の品質が左右されない、味噌漬けが開発された。しかし、当時はカジキ類の知名度が低かったことから、「かじきまぐろ」の名称で販売したところ、カジキ特有の身の歯ごたえと旨味により、消費が著しく上昇し、さらに各社独自の味噌のブレンドによって、さまざまな味の製品が市場に姿を現すこととなった。
「かじき・まぐろの味噌漬け」の主原料としては、マグロ類ではメバチ、クロマグロ、カジキ類ではシロカジキ(シロカワ)、クロカジキ(クロカワ)などが用いられており、特にシロカジキの製品が高級品とされている。
(本文末尾のコラム「漬け込み原材料へのこだわり」もご参照ください。)
主な生産地
神奈川県三浦市三崎地区
原料選択のポイント
マグロ類は、日本や台湾船による遠洋まぐろ延縄漁業等で漁獲された小型魚で価格の安いものや、刺身用に裁割した端材等を利用している。クロマグロについては、地中海の養殖・蓄養ものも使用される。
カジキ類は、同じく遠洋まぐろ延縄漁業で漁獲されたクロカジキ、シロカジキ、メカジキを用いている。また、日本近海で漁獲されたメカジキもわずかに利用されている。なお、原料となるカジキ類の8割をクロカジキが占めている。
マグロ類に関しては、刺身用素材として漁獲された後、直ちに凍結されたものを用いているので、裁割後に高脂肪含量のものが上級品として選別されている。
加工技術
原料魚肉を味噌と合わせるが、その前に数%の冷却塩水に漬けたり、直接塩を振る処理を行う場合がある。これは、塩の脱水作用と魚肉表面のタンパク質の変性作用により、製品の食感を向上させる効果がある。
漬け込み工程においては、魚肉を味噌に投入して味を馴染ませるが、この工程にかける時間は魚種やその品質(生鮮、解凍原料等)に応じて調整し、適度な漬け込みを行っている。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 冷凍または生鮮のマグロやカジキの肉を用いる。冷凍の場合は解凍する。
- 裁割 原料魚肉を裁割し(写真1,2)、皮、骨及び血合肉を除去する。80g程度の肉を削ぎ切りする。
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- 塩振り 冷却塩水に漬けたり、直接塩を振る。この処理を省略する場合もある。
- 味噌調合 味噌床の仕様は各社によって異なるが、数種類の味噌をブレンドし、みりんや日本酒で汁粉ほどの粘性になるまで延ばして、味が整うまで混合する。また、味噌業者や調味料業者に配合を依頼して、数日から数週間熟成させて風味が整ってから用いる場合もある。その際、冷蔵にて保管するが、発酵が進んでガス等の発生がないように留意する。
なお、主に使われている味噌は、米麹の多い白味噌、淡色味噌(甘口~辛口)、大豆を多く使用する赤味噌である。また、白味噌の一種である西京味噌のみで漬けられたものは、西京漬けと称して販売されている。
- 漬け込み 魚肉片1つ1つに調合した味噌を刷毛などで塗りつけを行う。大量生産するときには、どぶ漬けという大型の容器に調合した味噌を入れ、直接、前処理した魚肉を投入し、数時間から数日間かけて味を馴染ませる(写真3)。この工程にかける時間は魚種やその品質(生鮮、解凍原料等)により異なり、短時間で済ませたり長期間の熟成を行う場合もある。
- 包装・梱包 味噌への漬け込みが終了後、袋詰めとし(写真4)、冷凍保存あるいは冷蔵で貯蔵する。
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加工に用いる機器等
裁割機(写真1)、撹拌機、充てん機
品質管理のポイント
調合した味噌の異常発酵や変質を防ぐため、味噌床は低温保存するとともに、取扱いの際にはアルコールにより殺菌した器具や手袋を着用する。特に高温多湿の時期には、調合した味噌が変質しやすく、異臭発生や味の変化はカビ等の真菌類の繁殖が主な原因となっている。
特徴的な成分
味噌の主原料である大豆は、良質のたんぱく質を豊富に含み、味噌製造時の発酵によって加水分解され、たんぱく質の約30%がアミノ酸に分解される。必須アミノ酸も多く含まれるほか、ビタミンやカリウム、マグネシウムなどのミネラルも多い。
健康機能性成分
マグロやカジキの血合肉は、従来は製造時に除去・廃棄されていたが、強力な抗酸化物質のセレノネインが多く含まれていることが国立研究開発法人 水産研究・教育機構の研究により明らかとなった。また、鉄、タウリン、ヒスチジン、アンセリンなどの機能性成分も豊富に含有していることから、これらの知見を活用した取り組みが進められ、血合肉を用いた味噌漬けや粕漬け製品の製造も始まっている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
包装及び保管方法
1枚ずつ包装紙で包んだもの(特に高級品のシロカジキ製品)のほか、10枚組や8枚組などを1つの袋に詰めたものがある。また、マグロ類やカジキ類の各種を合わせたセット品が贈答用として人気が高い。(写真5,6)
また、小売店向け製品は、発泡スチロール箱又は耐水段ボール箱に詰められて出荷され、小売店で発泡スチロールのトレイに小分けして販売されている。
製品は冷凍又は冷蔵で流通しており、特に冷蔵品については保管中にヒスタミン蓄積が生じやすいため、4℃以下で保管することが推奨される。
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調理方法および食べ方
調理したかじき味噌漬けの盛り付け例を写真7に示した。魚を焦がさず焼く方法として、魚をアルミホイルで一巻きし、特に魚とアルミホイルの間に隙間を入れるように巻いて両端をしっかり塞ぐのがコツで、強火で15分程度焼く。そのほかに、薄くサラダオイルを敷いたフライパンにフタをして、弱火で7~10分ほど焼く方法もある。
また、シロカジキなどを使用した高級品については「ミディアムレア」の焼き方も可能であり、味噌を水で洗い流して水分をふき取った後、中火で熱したフライパンにクッキングシートを敷き、片面1分、裏返して1分火を通し、しっとりとした柔らかな口当たりに焼き上げる。
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同類製品例
味噌に替えて、調味した酒粕で漬け込んだ「粕漬け」(写真8)、塩麴を使用した「塩麴付け」や「醤油漬け」がある。
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参考文献
・文部科学省. 日本食品標準成分表(八訂)増補.2023
・ 日本水産学会監修.山下倫明他著.水産学シリーズ179「魚食と健康」恒星社厚生閣.2014
・ 二村和視他.メバチ,ビンナガおよびクロマグロの低・未利用部位におけるアンセリン・ヒスチジン・タウリン含有量.水産技術,2022;15(1):39-43.
コラム
「漬け込み原材料へのこだわり」
粕漬けや塩麴漬けなどの味噌以外の漬け込み材料を使用した場合でも、味噌漬けと製造方法はほとんど変わらない。そのため同じ生産ラインで様々な種類の漬物を製造することができ、商品ラインナップの充実化に貢献している。
製造各社では漬け込み原材料にこだわりを持っており、粕漬けでは県内の酒造会社と提携して吟醸酒の酒粕を使用したり、西京漬けも本場の京都産の味噌を使うなどして差別化を図っている。
全般的な味わいの傾向として、粕漬けは日本酒の芳醇な香りと米麹の自然な甘さが感じられ、西京漬けは甘味噌の濃厚なコクのある風味がある。また、塩麴漬けは塩麴の甘味と塩味を活かしてすっきりとした味わいに仕上げられている。
(著者:神奈川県水産技術センター 臼井 一茂・原田 穣)
