いしりとは
いしりとは石川県に古くから伝わる魚醤油で、秋田のしょっつる、香川のいかなご醤油と並んで日本の三大魚醤として知られ、能登地方の特産品である。原料は主にイカ肝臓かイワシであるが、サケやメギスなど他の原料を用いたいしりも一部存在している。
能登地方では昔から煮物や漬け物など、家庭の調味料として親しまれており、近年では家庭用のみならず、さまざまな加工食品の隠し味に用いられることも多い。2017年に伝統的製法の継承と魅力発信に向け「能登いしり、いしる生産者協議会」が設立された。2024年には地理的表示(GI)登録産品となり、協議会が中心となってブランド力向上につながる取り組みを行っている。
主な生産地
石川県能登町(旧内浦町小木、旧能都町宇出津)、珠洲市、輪島市(輪島市及び旧門前町)
生産と消費の動向
2001年に行った聞き取り調査(石川県水産総合センター調べ)によると、石川県内での生産量は年間約200~300tであったが、2019年でも約200t程度生産されている。製造業者は約20社。年間130t程度を生産しているいしり加工業者では、工業用として県外に出荷されるものが生産量の半数以上を占めている。家庭での消費は減少傾向にあるものの、加工食品用などで消費されている。2024年能登半島地震により発酵樽が落下し破損するなどの被害を受け、生産量が減少した。
原料選択のポイント
イカ肝臓を原料としたいしり(以下、いかいしり)を大量に製造する際には、ある程度まとまった量のイカ肝臓を必要とする。イカ肝臓の入手方法はいしり業者によってさまざまであるが、スルメイカ加工の際に除去された直後の肝臓を入手する方法が最も効率が良い。原料に脚部や胴肉部などの部位が混ざっていると呈味に影響が出るので、肝臓以外のものは除去する必要がある。イカ肝臓にはさまざまな色のものがあるが、その色はいしりの風味とは特に関係がないようである。
イワシを原料としたいしり(以下、いわしいしり)の原料には県内産や銚子産などのカタクチイワシが用いられることが多い。発酵途中に起こる脂質の酸化を防ぐため、一般的にいしり原料にはなるべく脂肪含量の少ないものが適しているとされている。
加工技術
原料に多量の塩を加えることによって腐敗細菌の繁殖が抑制され、自己消化酵素によるタンパク質の加水分解や好塩性の細菌による嫌気発酵が行われる。この嫌気発酵は熟成中に桶の上層部にできた脂肪分や魚骨残泄分の層が蓋の役目をして密閉状態になることにより進行する。これらの過程でいしり独特の呈味成分や香気成分が醸し出される。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 イワシは頭や内臓を除去せず魚体丸ごとを用いる。
- 塩蔵 一般的に添加する塩は原料重量の20~22%程度である。この塩濃度は業者によって異なるが、塩濃度が低すぎると腐敗の原因となるため注意が必要である。塩を加えて、約1週間は塩がなじむまで毎日撹拌を行う。これは塩が十分になじんでいないと、その部分が腐敗を引き起こす原因となるためである。塩がなじんだら攪拌を止め、その後はときどき桶の上部に塩をかぶせて「蓋」をしておく。漬け込みは、気温が高い夏に仕込むと発酵が早く進みすぎるため、春~梅雨時期などの気温が低い時期に行う。
- 発酵 約1~2年発酵させる(写真1)。
- 液汁採取 桶の下層に溜まったいしりを樽側面に付けられた蛇口から採取する(写真2)。歩留まりは業者によってさまざまであるが、概ね30~40%、多いところでは60~70%になる。
- 煮熟・オリ除去 採取したいしりを大きな釜で沸騰させ、95℃前後で30分加熱する。これは殺菌と除タンパクを行うためである。加熱はオリが下がるまで行い、上に浮かんだアクと塩の結晶を除去した上澄液をボトルに詰める。
写真①.jpg)
写真②.jpg)
品質管理のポイント
原料のイワシにはヒスタミン食中毒の原因となるヒスチジンが含まれているため、鮮度の良い魚を使用する。
塩濃度が低すぎると腐敗の原因となるため、適正量の塩を加えること、塩がなじむまで毎日撹拌を行うことが重要である。
特徴的な成分
いしりの一般成分は以下の表に示した通りである。脂質が0.6g/100g以下で、塩分は20g/100g前後である。
遊離アミノ酸が豊富に含まれており、アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、バリンなどがいかいしり、いわしいしりに共通する主なアミノ酸であり、これら含有量と組成の違いが、それぞれのいしりの呈味性に大きく影響しているものと考えられる。いかいしりにはタウリン、プロリンが、いわしいしりにはヒスチジンが多い傾向にある。

健康機能性成分
いかいしりには原料由来のタウリンが豊富に含まれている。また、いかいしり、いわしいしりともにリノール酸の抗酸化作用や DPPHラジカル消去能(抗酸化能の指標)を持つペプチドによる、血圧降下作用などが期待されている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)
製品の形態・包装
家庭用の製品はプラスチックボトル等の容器に入れて販売される(写真3)。常温で流通している。
調理方法および食べ方
刺し身、焼き魚の調味料として、その他野菜などの煮物の調味料として使われる。また、ホタテガイの殻に大根やナスなどを入れ、いしりで風味を付けただし汁を入れて焼く「いしりの貝焼き(写真4)」、ナスなどの野菜をいしりで漬けた「べん漬け」なども能登の郷土料理である。最近ではいしり入りのアイスクリームもネット販売されている。
写真③とイメージ-1005x1024.jpg)
写真④-1-1024x767.jpg)
参考文献
・森真由美他.伝統水産加工品の成分.水産物の利用に関する共同研究第44集 2004;20-25
・道畠俊英他.能登の魚醤油「いしり」-石川県伝統食品の可能性(JAPANブランド育成事業)
https://www.irii.jp/randd/infor/2007_0101/topics1_1.html
(著者:石川県農林水産部 水産課 小柳 真由美・石川県水産総合センター 西田 光希)
