いわし糠漬けとは
いわし糠漬けは、ウルメイワシを塩漬け後1~2年間糠に漬け込む、石川県の伝統的加工品である。
石川県では昔から「こんかいわし」と呼ばれ庶民の味として親しましており、石川県のふるさと認証食品にも認証されている加工品である。
生産と消費の動向
石川県白山市(旧美川町)を中心とした聞き取り調査によると、石川県内でのいわし糠漬け生産量は2000年頃には約200~250t生産されていたが、現在(2025年)では生産業者が減少し約20tしか生産されていない。この理由は発酵食品の特性上塩分濃度が高く、健康志向により消費量が減少していると考えられる。
原料選択のポイント
原料は、主に石川県能登地方や焼津、銚子などで水揚げされた20㎝前後の大ぶりなウルメイワシである。以前はマイワシを使っていたこともあったが、マイワシは肉質が軟らかく糠漬けの原料に適さないことから、今では原料のほとんどがウルメイワシとなった。
加工技術
魚の糠漬けの工程は大きく塩蔵と糠漬けの2つに分けられる。このうち風味付けには特に糠漬け工程が重要であり、昔から熟成には北陸特有の高温多湿の夏を経ることが必要といわれている。
この糠漬け中に魚肉の自己消化によって遊離アミノ酸(グルタミン酸、ロイシン、リジン、アラニン、バリンなどが量的に多い)が生成される一方、主に微生物作用によって揮発性塩基窒素、有機酸、アルコールなどが増加し、特有の風味が付与される。
塩蔵中の脱水により原料魚から分離した液汁(塩蔵水)は、糠漬けの際の「差し汁」として用いられるが、その意義としてはタンパク質分解酵素の供給としての役割が大きいと考えられている。熟成とともにpHは5.3に低下するが、これは主に乳酸(約1%)、酢酸などの有機酸(総量約3,000㎎/100g)によるもので、糠漬けではこのような低いpHと塩蔵による高い塩分によって保存性が保たれる。なお熟成中の微生物として Tetragenococcus属が検出されている。
また糠漬けの前に行われる塩蔵も重要であり、この工程で塩が浸透し、魚肉は脱水される。これにより、魚肉中での腐敗細菌の増殖や自己消化の進行が抑制され、また肉質の硬化、血抜きなどの効果もある。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 20㎝前後の大ぶりなウルメイワシを用い、頭・内臓を除去する。
- 塩漬け 30~35%の塩を撒き塩にし、7日~1か月ほど塩漬けする。塩蔵中に脱水により原料魚から分離した液汁(塩蔵汁)は、糠漬けの際に差し汁として用いる。
- 糠漬け込み・熟成 塩漬けしたいわしと糠(麹と少量のトウガラシを混ぜたもの)を層状に重ね、最上層には桶の内縁に沿って縄を置き、落し蓋をして重石をかける。重石をきっちりかけることで腐敗を防ぎ、硬く身の締まった製品となる(写真1)。糠に漬け込んだ翌日に魚の塩蔵汁(差し汁)を塩分濃度20%程度に調整して加え、1~2年間発酵させる。
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成分の特徴
いわし糠漬けの一般成分は下の表に示した通りである。

製品の形態
糠を付けたままイワシを丸々真空パックなどで包装する(写真2)。スライスしたものも販売されている。
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包装及び保管方法
賞味期限は約6か月で、冷蔵保管される。
調理方法および食べ方
糠を落として軽く焼くか、生のまま薄くスライスしそのまま食べる。塩辛いため少量でご飯が進む(写真3)。食酢やレモン汁などで糠を落として食べると口に入れたときの塩辛さがやや緩和され爽やかな味わいになる。お茶漬けやにしてもおいしい。大根や味噌、酒粕とともに煮る「べか鍋」と呼ばれる石川県の郷土料理では鍋の具材として用いられる。
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参考文献
・藤井建夫.「魚の発酵食品」成山堂書店.2000
・森真由美他.伝統水産加工品の成分.水産物の利用に関する共同研究第44集 2004;20-25
(著者:石川県農林水産部水産課 小柳 真由美、石川県水産総合センター 西田 光希)
