目次
第7章 水産漬け物 第5節 酢漬け

小鯛ささ漬け

印刷

主原料

保存方法

冷蔵保存

キーワード

若狭小浜小鯛ささ漬/酢漬け/保水性/GI/地理的表示/小浜市

備考

Kodai-sasazuke/伝統的加工品

小鯛ささ漬けとは

 小型のキダイ(写真1)を三枚におろして皮付きフィレーとし、これに塩を浸透させ(以下塩漬けと呼ぶ)、続いて食酢あるいは調味料と合わせた調味酢に漬けた(以下酢漬けと呼ぶ)後、木樽等に詰めた調味加工品である。
 福井県が主要な生産地であり、小浜市がその中心地である。小浜市には10社の小鯛ささ漬け製造業者が存続しており、協同組合小浜ささ漬協会を組織する。それらの製造業者らが造る小鯛ささ漬けが、平成29年11月10日付けで「若狭小浜小鯛ささ漬」の名称で地理的表示(GI)登録されている(写真2)。その他の産地として、島根県および石川県がある。以下、「若狭小浜小鯛ささ漬」について紹介する。

写真1 原料となるキダイ(提供:松川雅仁)
写真2 GI登録証(提供:松川雅仁)

主な生産地

 福井県小浜市、島根県、石川県

原料選択のポイント

 日本海産のキダイで、体長10~13cm程度の小型の原料を使用する。それより原料サイズが大きいと、小型の原料では気にならない小骨と表皮が咀嚼の妨げとなり消費者に好まれない。未凍結の生鮮品を通常使用するが、入手の難しい時期には冷凍原料を使用する場合もある。以下に記載する原料の前処理を行い、加えて塩漬けした後に適切な条件で冷凍貯蔵された中間原料からも、生鮮原料と同等の品質の製品が得られることが確かめられている。

加工技術

 キダイ魚肉の保水性は塩漬けに伴い浸透した食塩の作用により増大する。この時、魚肉中の筋原線維タンパク質に塩漬け特有の変化が起こる。対比として加熱処理では、筋原線維タンパク質の塩溶解性の低下と同タンパク質中のミオシン変性の両方が起こるが、この塩漬け中にはミオシン変性は起こらず塩溶解性の低下のみが一方的に進行する。このような塩漬け特有のタンパク質化学的な変化を伴いながら、キダイ魚肉の保水性は4~5%の塩分で最大となる。この濃度は経験的に本品製造工程の塩漬けにおける目安とされてきた塩分濃度と一致する点で、先人たちの知恵に頭が下がる。このような塩漬けによる効果と合わせて、それに続く酢漬けを短時間に設定して魚肉のpHの大幅な低下を抑えていることも、キダイ魚肉の保水性がより高く維持されている一因である。以上の結果として、本品独特の粘りのある食感が形成され、かつ酢漬け後のフィレーから出るドリップの量が最小限に抑えられることで呈味も向上する。また、食酢に含まれる酢酸の殺菌および抗菌作用によって、未加熱の水産加工品でありながら冷蔵で一週間弱の消費期限が保証される。さらにガス遮断性のある包装材を用いて真空包装にすることにより、キダイ表皮の鮮やかな赤色はより長く保持される。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 底曳き網漁業によって漁獲された原料(写真1)が船内においてサイズ選別され、4~5kg/箱、下氷の状態で梱包される。市場での競りを経て工場へと搬入される。

  • 原料の前処理 小出刃包丁を用いてウロコを落とし、続けて頭部と内臓を除去する。製品へのウロコの混入を防ぐために真水で魚を良く洗浄した後に三枚におろす(写真3)。フィレーの腹身を薄く削いで骨を取り除く。以上の一連の前処理は熟練した人の手作業で迅速に行われる。

  • 塩漬け 振り塩または立て塩漬け(塩水漬け)を行う。振り塩する食塩量の加減あるいは塩水の塩分濃度とそれに漬ける時間、さらに塩分を魚肉内部に浸み込ませるために行う冷蔵時間等が、原料鮮度や脂の乗り等に応じてその都度調整される。最終的にフィレーに付与される塩分濃度は4~5%を目安とする。これによりキダイ魚肉の保水性とそのフィレーの保形成の両方が高められる。

  • 洗浄 余分な塩分を真水で洗い流すことで、塩分調整を図る。

  • 酢漬け 食酢またはこれに調味料を加えた調味酢に漬ける(写真4)。酢漬けは1~5分間の短時間であることが実験モデルから推定されている。この工程でも魚肉中の塩分濃度はさらに低下する。したがって、酢漬けは最終製品のpHと塩分を最終調整するための工程である。言い換えれば酢漬けは製品の味が決定される工程である。「若狭小浜小鯛ささ漬」では、最終製品の魚肉のpH 5.5±0.3、塩分 2.7±0.6%であるとの報告がある。このようなpHと塩分の分析値に見られる変動幅は、製造業者間での味付け(酸味と塩味)の特徴付け(好み)の違いを主に反映したものである。

写真3 三枚おろし (提供:協同組合小浜ささ漬協会)
写真4 酢漬け(提供:協同組合小浜ささ漬協会) 

  • 樽詰 手作業で杉の木樽にフィレーを重層する(写真5)。また、トレー等に並べる場合もある。なお、笹の葉や昆布等を添えることもある。木樽詰製品では、取っての付いた透明フィルムを挟んで木蓋をすることで開封しやすくしている。

  • 包装 製造業者独自の絵柄の描かれた紙で木樽を上面から覆い、輪ゴム等で固定する(写真6)。透明な包装材を用いて全体を密閉包装する。ガス遮断性の高い包装材を用いて真空包装する場合もある。

写真5 木樽詰め
(提供:協同組合小浜ささ漬協会)
写真6 製品(提供:松川雅仁)

加工に用いる機器等

 小出刃包丁、まな板、真空包装機

品質管理のポイント

 木樽から漏れ出すほどの過剰なドリップが生じないことや、魚の骨やウロコの混入がないことが求められる。

製品の形態

 木樽詰め製品では紙の化粧箱に入れて出荷する。

包装および保管方法

 冷蔵

調理方法および食べ方

 そのまま食すか、刺身のようにわさび醤油を付けて食す。ちらし寿司や手まり寿司の具としても適している。その他、吸い物の具あるいは洋風にカルパッチョとすることもある。

参考文献

・松川雅仁他.包装材の酸素バリア性の違いが小鯛ささ漬けの冷蔵貯蔵性に及ぼす影響. 水産物の利用に関する共同研究2012;52:25-28.
・松川雅仁他.塩漬した凍結原料から調製した小鯛ささ漬けの品質. 水産物の利用に関する共同研究2013;53:31-34.
・奈須亮耶他.キダイ酢漬け魚肉の低温貯蔵に伴うドリップ生成に対する食塩の抑制効果と塩漬魚肉中の筋原線維タンパク質の変化.日水誌2016;82:349-357.
・松川雅仁他.伝統的製法に裏づけられた「若狭小浜小鯛ささ漬」の品質-地理的表示保護制度登録に向けた支援研究として-.水産物の利用に関する共同研究2019;59:8-11.

(著者:福井県立大学海洋生物資源学部 松川雅仁)