目次
第9章 魚醤油・エキス 第2節 エキス

カツオエキス

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主原料

保存方法

冷蔵保存/常温保存

キーワード

かつお節/煮汁/蒸煮液/濃縮/アミノ酸

備考

Katsuo-extract/伝統的加工品/
原料はかつお節の生産工程中に得られる煮汁

カツオエキスとは

 カツオエキスとは、カツオの加工品の中で主にかつお節の生産工程中に得られる煮汁を高濃度に濃縮したものである。カツオ肉中にあるうま味成分のアミノ酸を豊富に含み、つゆ、タレ、ソースなどの加工食品の調味原料として広く使われている。加工食品用の原材料であることから、一般の消費者がカツオエキスそのものを直接口にすることは少ない。
 カツオエキスはかつお節エキスと混同されやすいが、その風味は大きく異なっている。カツオエキスは、「生のカツオの肉」の煮熟液(煮汁)や蒸煮液を濃縮したもので、強い味があるが香りは魚臭が強く、一般的なかつお削り節のだし汁の香りはせず、その香りは大きく異なる。
 一方、かつお節エキスは、カツオ肉の燻製品である「かつお節」のだし汁をベースとして作られているため、好ましいかつお節の香りを有する。ただし、かつお節エキスであっても製品の味の強さを増すために、原材料の一部にうま味の力価に優れたカツオエキスを配合する場合も少なくない。
(本文末尾のコラム「カツオエキスの歴史」もご参照ください。)

主な生産地(加工メーカー所在地)

 カツオエキスは、かつお節やカツオ缶詰の製造工程で得られる煮汁や蒸煮液といった副産物を原料としている。そのため、カツオエキスの主な生産地もそれらの生産拠点である静岡県、鹿児島県である(図1,2)。海外でも大規模な缶詰工場のあるタイのバンコクやインドネシアのジャカルタなどで、カツオの缶詰製造の副産物である蒸煮液を原料にしたカツオエキスが生産されている。

図1 かつお節都道府県別生産数量割合
(農林水産省 令和6年水産加工品統計をもとに㈱マルハチ村松でグラフ作成)
図2 まぐろ類かつお類缶詰都道府県別生産数量割合
(日本缶詰びん詰レトルト食品協会 缶詰時報2025年8月号をもとに㈱マルハチ村松でグラフ作成)

生産・消費の動向

 昭和30年代後半以降、だしの素、即席麺などが発売され、その原材料にカツオエキスが使われるようになり、これら製品の普及に伴いカツオエキスの生産量も拡大していった。さらに昭和60年代に入ると、天然志向・無添加志向といった健康ブームの高まりを背景に、カツオエキスの需要は一層強まった。
 カツオエキスは、その名称から「かつお節のだしの香り」を想像されることがあるが、実際にはそのような香りではなく、特有の香りを有する。加工食品用の原材料であることから、一般の消費者がカツオエキスそのものを直接口にすることは少ない。食品原材料としては、かつお節を主原料とする「かつお節エキス」の副原料として使われることが多く、近年では食品以外でもペットフードの原材料としての需要が高まっている。また魚餌の誘引剤や、農業用の収穫品質向上剤の原材料として使われることもある。
 カツオエキスの生産量は、2010年頃までは年々増加傾向にあったが、直近10年では概ね年間5,000トン前後で推移している(図3)。また、カツオエキスの原料に関係するかつお節やカツオ缶詰の国内生産量は減少傾向にあり、このことから近年は海外から輸入されたエキスを原料とし、国内で再加工されたものが増加していると推測される。

図3 カツオエキス生産数量推移
(㈱食品化学新聞社の許可を得て一部補正を行い、㈱マルハチ村松で作成)

原料選択のポイント

 カツオエキスの原料は、かつお節の製造工程でカツオ生肉を煮熟した際に得られる煮汁(写真1)である。原料のカツオの鮮度が良いことは言うまでもないが、良質な煮汁を得るためには、カツオを3枚おろしあるいは5枚おろしに生切り(解体)した状態で煮熟することが好ましい。頭部や内臓がついたままで煮熟された煮汁は、雑味や苦味が生じる場合がある。
 1日のかつお節製造を終えた時点での煮汁の濃度は極めて薄い。煮汁は1日ごとに交換するのではなく、概ね4~5日間繰り返し煮熟工程で使われる。こうして同じ煮汁で複数回カツオを煮熟すると、煮汁中のアミノ酸や塩分などの成分濃度が高まり、Brix濃度(溶解固形分)は5%前後に達し、後工程の濃縮が容易となる。煮汁は、初回の煮熟後から複数回の煮熟が終わるまでの間、温度が下がると微生物が増殖しやすく腐敗のリスクが高まるため、作業が行われない夜間でも、高温で管理して微生物の増殖を抑えることが必須である。

写真1 かつお節製造の煮熟工程(提供:マルハチ村松)

 カツオエキスの原料は、缶詰の製造工程(写真2)において、魚体を圧力釜で蒸煮した際の蒸煮液(クックドレン)が使われる場合もある。この蒸煮液は、1回の工程でもBrixが5%前後に達する。
 原材料の煮汁には、カツオの凍結過程で付着・浸透した塩分が、わずかに含まれている。この煮汁を高濃度に濃縮していくにつれて、煮汁の塩分濃度は最終的に8~9%となる。最終製品の塩分規格に合わせるため、副原料として食塩を添加することもある。
 煮汁には原料のカツオ由来のゼラチンが含まれる。そのため濃縮が進むにつれて粘度が高くなり、濃縮の妨げになる。粘度上昇を防ぐため、煮汁にあらかじめタンパク質分解酵素を加え、煮汁中のゼラチンを分解し、粘度が上がりにくくしておく場合がある。
 タンパク質分解酵素による処理は、油脂分離工程を容易にする効果もある。煮汁中では、カツオ由来の油脂とタンパク質が乳化したエマルジョン(乳濁液)の状態で存在する場合があり、そのままでは水溶性のエキス成分だけを分離・採集することは困難である。そこで、タンパク質分解酵素によりエマルジョンを分解し、油脂分と水溶性のエキス成分の分離を容易にすることができる。

写真2 カツオ缶詰製造の蒸煮工程(提供:㈱マルハチ村松)

加工技術

 原料の煮汁の水分は95%(Brix5%)前後であり、これを減圧濃縮により水分40~45%(Brix63~68%)まで濃縮する。
 水は圧力を下げると沸点が下がり、100℃以下でも蒸発する。蒸発するとき、水は気化熱として熱エネルギーを液体から奪うため、液体の温度が下がり、蒸発が進みにくくなる。このため、圧力を下げて蒸発を促進すると同時に、液体を加熱することで効率的に蒸発が進む。液体から水分を蒸発させて減らし、液中に溶けている成分の濃度を高めることを「濃縮」と言い、この原理を使った技術が「減圧濃縮」である(図4)
 煮汁の濃縮は水分が40%(Brix68%)前後になるまで行われる。前述のとおり、煮汁は原料由来のわずかな塩分を含み、水分を40%程度まで濃縮すると塩分濃度は9%前後まで上昇する。塩分を含む液中の成分濃度の上昇は水分活性を低下させる。この水分活性の低下により微生物の繁殖を抑制することで、常温でも保存可能な製品となる。
 カツオエキスの製造では長時間の濃縮中の加熱によりメイラード反応が進行し、黒褐色の色調と独特の香りとなる。
 製品によっては食塩や調味料(アミノ酸等)、その他の副原料を配合した低濃度タイプもある。

図4 一般的な減圧濃縮装置の仕組み(提供:㈱マルハチ村松)

製造工程の概略

加工の実際および加工に用いる機器

  • 油脂の分離 遠心分離機により原料の煮汁に混在する油脂を分離する。油脂がたんぱく質と乳化しエマルジョンを形成している原料などでは、あらかじめタンパク質分解酵素で、このエマルジョンを分解しておく場合がある。

  • ろ過 フィルタープレス機(写真3)や、その他のろ過装置によって、煮汁中の微細な夾雑物を除去し、清澄な煮汁にする。また、これらの煮汁はカツオ肉片などの夾雑物を含むため、油脂の分離の前または後で、振動ふるい機(写真4)などで固形の夾雑物を取り除く。
写真3 フィルタープレス機 (提供:日本濾過装置㈱)
写真4 佐藤式振動ふるい機(提供:晃栄産業㈱)

  • 濃縮 減圧濃縮装置(図4)により煮汁を目的の濃度まで濃縮していく。濃縮の効率性、エネルギー効率、濃縮物の物性適性によって、いくつかの濃縮装置がある。
    カツオエキスの製造では、非常に大量の煮汁原料を長時間かけて濃縮していくことになり、これにかかる製造エネルギーの消費も大きくなる。そのためエネルギー消費を抑え、効率良く濃縮を行うために、濃縮缶を複数つなげた連続式の濃縮装置(図5写真5多重効用濃縮装置)が使われることもある。

図5 多重効用濃縮装置の仕組み
(提供:㈱マルハチ村松)
写真5 多重効用濃縮装置
(提供:アルファ・ラバル㈱)

  • 殺菌 一般的な加熱調合タンク(写真6)等の容器内で殺菌する場合は80~95℃の殺菌を行う。厳しい微生物規格が求められる場合は、殺菌装置により110~130℃の殺菌を行う。

写真6 加熱調合タンク(提供:㈱マルハチ村松)

  • 計量充填 既定の容器に計量し充填を行う(写真7)。高濃度に濃縮した製品の場合、冷えると粘度が増し作業性が悪くなるため、中高温域で容器に充填する。水分活性が低く腐敗しにくい物性であっても、ヘッドスペース(容器の上部の空間)が生じる容器の場合は、カビの繁殖を抑えるためホットパック(熱充填)する場合がある。

写真7 バッグインボックス充填梱包機(提供:㈱マルハチ村松)

  • 製品 水分40~45%とエキス成分濃度の高いカツオキス製品の性状は、色調は黒褐色で粘性の高いペースト状の液体である写真8。香りは加熱魚臭があり、味は製品そのものでは苦味、渋味が強い。しかし、これを50~100倍に希釈すると独特のコクのあるうま味を感じる。
    これらの製品は一般的には常温保存が可能であるが、冬期など製品温度が下がると流動性が下がり、容器から取り出し難くなるという難点がある。そのためカツオエキスに食塩や糖類、水、アルコール、その他副原料を添加して流動性を高めた製品もある。
    また、液状のカツオエキスにデキストリンなどの賦形剤(食品の量や性状を整えたり、安定性を保つために添加されるもの)を加え噴霧乾燥(スプレードライ)し、粉末化したエキスパウダー製品もある。

写真8 カツオエキス製品(提供:㈱マルハチ村松)

品質管理・安全衛生管理のポイント

 かつお節や缶詰のメーカーではカツオ以外の魚種を扱うこともあることから、調達する煮汁や蒸煮液にカツオ以外の魚種のコンタミネーション(意図しない混入)がないか注意する必要がある。とくにサバはアレルギーの「特定原材料に準ずるもの」に該当するため、同工場内や同設備での使用有無と混入防止対策の状況を十分把握しておくことが必要である。また、かつお節や缶詰のメーカーにおいて、鮮度が低下した魚体が使われた場合はヒスタミンが生成されていることもあり、煮汁や蒸煮液の調達時の確認も重要となる。
 加工工程中で濃縮が長時間に及ぶ場合は、原料の煮汁の腐敗防止に留意する必要がある。
 製品は水分40%程度であれば腐敗は抑制できるが、カビの増殖は抑えられないため、容器充填時にアルコールや脱気、ホットパックなどの対応措置が必要となる。
 高濃度に濃縮されているカツオエキスは、製品中に溶けきれなくなった内容成分のミネラル類やアミノ酸などが、数日から数か月の時間を経て析出し、凝集沈殿してオリとなったり、結晶化したりする場合がある。

特徴的な成分

 カツオエキスの主要成分はカツオ肉由来のアミノ酸であり、一般的なかつお節のだし汁のアミノ酸量の約130倍の含有量となる(図6)。呈味アミノ酸としては、弱い苦味や渋味を呈するヒスチジンが多くを占め、特有のキレのある味を特徴づけている。うま味や甘味を呈するアラニン、グリシン、グルタミン酸も含まれている。
 また、それ自体に呈味はないが味のコクやノビに関係すると言われるアンセリンというペプチドの含有量が他の魚種や畜肉エキスと比べても多い。アンセリンは疲労回復等の機能性成分としても知られている。
(水産物に含まれる各種成分の効能については、「この図鑑の使い方」末尾の【参考情報】をご参照ください)

図6 カツオエキスの主要アミノ酸等の含量(㈱マルハチ村松で分析・作成)

製品の形態と保管方法

 カツオエキスは液体の加工用原料であるため、1,000Lコンテナや200Lドラムあるいは20kgバッグインボックスが主流である(写真9)。濃度の高い製品は常温保存であるが、濃度がそれほど高くないものは、カビの繁殖を防いだりするために冷蔵保存とする場合もある。

写真9 製品形態(1tコンテナ容器、20㎏缶、20㎏バッグインボックス)(提供:マルハチ村松)

使用用途

 カツオエキスは加工食品原料として、かつお節エキスや風味調味料・だしの素、めんつゆ、つゆタレ、だし入り味噌・即席味噌汁、即席麺スープ、レトルト惣菜、スナック菓子などの調味ベースとして使われている。また液体のカツオエキスをスプレードライ加工し、粉末にしたカツオエキスパウダーもあり、粉末のだしの素や粉末スープ、粉末味噌汁などに使われている。

コラム 

「カツオエキスの歴史」

 奈良時代に編纂された『古事記』には、「堅魚かたうお」「煮堅魚にかたうお」「堅魚煎汁かたうおいろり」という記述が見られる(第9章「魚醤油・エキス」総論参照)。堅魚とはカツオを素干しにしたものであり、煮堅魚はカツオを煮てから干したものを指す。また、堅魚煎汁は、煮堅魚を作る際に生じた煮汁をさらに煮詰めたものと考えられている。これらはいずれも都への献納品として扱われていたことが記されている(写真10)
 堅魚煎汁は調味料的な意味合いと同時に滋養強壮の素として、米に代わる上納品として扱われていた。しかし、後に味噌や醤油が伝来し広まるにつれて、その役割は次第に薄れ、一部の地域で家内工業として造られ親しまれる存在となった。これが第9章第2節にある「せんじ」である。
 これらがカツオエキスと呼ばれ工業的に作られるようになったのは大正時代である。日本の産業は明治以降に飛躍的に発展し、かつお節生産もそれに合わせて伸長した。特に静岡県の焼津は、それまで極めて小規模な生産地であったが、明治に入ると古くからの薩摩や土佐といった産地と肩を並べるくらいにまでその生産量を増大させた。当時の焼津ではかつお節を製造する際の煮汁は廃棄されていたが、これを機械工業的にカツオエキスに変えたのが焼津の二代目村松善八である。
 二代目村松善八は山本祥吉博士の指導により、欧米でコンビーフ缶詰を製造する際に出る蒸煮液(クックドレン)から、コンソメスープの素となるビーフエキスを製造していたことにヒントを得て、当時、最新の濃縮装置を輸入しカツオエキスの生産を開始した(写真11)。こうして造られたカツオエキスは、粒状に砕いたかつお節にコーティングし、風味の増強を図った現在の「だしの素」に近い製品として使われていた。
写真10 堅魚煮汁を入れたと考えられる壺
(提供:㈱マルハチ村松 焼津市歴史民俗資料館蔵)
写真11 当時のエキス製造設備
(撮影は昭和初期)(提供:㈱マルハチ村松)      

参考文献

・農林水産省 令和4年水産加工統計調査. 2-1 水産加工品の加工種類別品目別生産量(都道府県別)(令和4年).(リンク)水産物流通調査 確報 令和4年水産加工統計調査 年次 2022年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
・日本缶詰びん詰レトルト食品協会. 缶詰時報2024年8月号.70~75頁
・食品化学新聞社.2025年9月25日号誌面他

(著者:株式会社マルハチ村松グループ本社 山口 晴康)