にしん甘露煮とは
にしん甘露煮は、ニシンの身肉を醤油や砂糖等で長時間煮込んだ保存性の高い加工食品である。
(本文末尾のコラム「北前船に遡る京都の伝統食品『にしん甘露煮』」もご参照ください)
主な生産地
北海道や京都のほか、身欠きにしんの食文化がある東北や北陸地方で生産されている。
原料選択のポイント
原料のニシンは、サイズと脂のりが重要で、にしんそば用の甘露煮は大きめで脂が多い輸入品が主体であり、サイズの小さいものは家庭向け小売り製品に用いられる。また、近年、漁獲量が増加傾向にある北海道産ニシンもサイズや脂のりを吟味して使用されている(写真1)。元来、常温での保存性に優れ、通年で利用可能な身欠きにしんが使われてきたが、現在では価格で有利な生フィレー(冷凍)が主体となっている。
写真1-原料魚-1024x359.jpg)
加工技術
塩甘露煮は醤油と砂糖等を主体とした濃厚な調味液で煮熟することで、身肉に調味液が十分に染み込みながら、水分と調味料が交換されて、味付けと同時に脱水を進行させるものである。以前の製品は、水分が20%~30%になるまで煮詰めて、製造後細菌やカビが付着しても、塩分が約10%、糖分が約50%、水分活性が0.65~0.85と低いために増殖が抑制され、長期間の保存が可能であった。しかし、近年では嗜好の変化や健康志向の高まりから、塩分や糖分を控えめにする傾向があり、常温での保存性を確保するため、ガスバリヤ性の高い包装材料や真空包装を採用するほか、保存料(ソルビン酸など)の添加やレトルト処理が行われている。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料 ニシンは、北海道産及び輸入原料(アメリカ産やロシア産)を用いている。製品の仕向けにより、サイズや脂質量を吟味する。冷凍フィレーは、身欠きにしんの製造業者などに加工を委託し、冷凍フィレーブロックとして購入している。
- 解凍 冷凍フィレーブロック(10~20kg/ブロック)を冷所で解凍(8~16時間:製造時期により時間調整)する。解凍後、軽く水洗し、外観の傷みや異物の有無を目視検査する(写真2)。
写真2-原料フィレー-1024x644.jpg)
- 焙焼 皮の剥離や身崩れを抑え、香ばしい風味を引き立てるため、焙焼して皮にこげ目を付ける。焙焼は約300℃で4分間程度行う。なお、製造企業により焙焼工程の有無がある(写真3)。
写真3-焙焼-1024x290.jpg)
- 調味液の調製 原料および副原料を正確に計量し、調味液を配合する。繰り返し使われて甘みのこなれた調味液(差し液)を加える場合がある。また、食品衛生法で使用基準のある保存料のソルビン酸は、製品1Kgに対してソルビン酸として含まれる量が1.0g以下として規定されているので、計量や混合に際しては正確さが要求される。砂糖は甘味料としてだけでなく、製品に光沢を付与し、水分活性を低下させて保存性の向上に寄与する。水飴は、甘さにおいて砂糖に劣るが、さわやかな甘さや、つややかな粘着性を付与するので、調味と食感に寄与している。また、水飴のほかに蜂蜜やソルビットなども利用することがある。
なお、調味液をあらかじめ調製しておく場合には、加熱殺菌して密封保存しておく必要がある。
- 煮カゴ配列 焙焼したニシンフィレーを煮カゴに配列して落し蓋をする。
- 調味煮熟 煮カゴを調味液が入った煮釜に投入して、90℃以上で約60分間ほど煮込む。煮熟開始から30分ほどしたら、均一に加熱が進むように煮カゴの位置替えをする。煮熟終了時には、糖度計で固形分をみて、煮込みの状況を確認する(写真4)。
写真4-調味煮熟-1024x253.jpg)
- 冷却・漬け込み 煮熟終了後、煮カゴを別の釜に取り出して、直ちに冷所で数時間放冷する。放冷後、調味液を均等に浸透させるため、煮熟に用いた調味液に一晩漬け込む(写真5)。
写真5-冷却-1024x253.jpg)
- 計量 漬け込み終了後、網カゴからニシンを計量作業台に移し、身崩れや表皮の剥離に注意しながら、約140g/パック計量する(写真6)。
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- 包装 包装は耐熱性及びガスバリヤ性の高い包材(塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステルなどのラミネートフィルム)を用い、真空包装する(写真7)。
写真7-真空包装-1024x268.jpg)
- 異物検査 製品の色調が濃いため目視による異物の検出は難しいことから、金属探知機により検査する(写真8)。
- 加熱殺菌 95℃の熱水で60分間加熱殺菌する。加熱温度は適宜、温度計で確認する(写真9)。
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写真9-加熱殺菌-2-1024x679.jpg)
- 冷却・乾燥 加熱殺菌後、直ちに流水で冷却する。冷却後、包材に付着した水分を送風乾燥機で除去する (写真10)。
写真10-冷却・乾燥-1024x245.jpg)
- 製品 賞味期限は常温で90日間である(写真11)。
写真11-製品-687x1024.jpg)
加工に用いる機器等
焙焼機(写真12)、真空包装機(写真13)、煮熟釜(写真14)、金属探知機(写真15)
写真12-焙焼機-1024x681.jpg)
写真13-真空包装機-1024x699.jpg)
写真14-煮熟釜-1024x706.jpg)
写真15-金属探知機-1024x855.jpg)
品質管理のポイント
製品の安全性では、微生物(カビ等)の二次汚染が生じやすい工程(調味煮熟後の冷却や計量・包装など)の衛生管理が重要である。また、製品の低塩分・低糖質・高水分化に対する保存性の確保には、ソルビン酸の添加(食品衛生法に使用基準に従う)や、真空包装後に加熱殺菌するなどの手法がとられている。
また、ニシンの身肉は柔らかく、皮が薄いため、身崩れや皮の剥離を発生しやすいので、良好な外観を保つために、煮熟や計量・包装工程での取り扱いには注意を要する。
製品の形態
小売用の約140g/パックの製品はダンボール箱に20パックを詰めて、同様に業務用の約1kg/パックの製品はダンボール箱に10パックを詰めて出荷している。
包装および保管方法
包材は耐熱性に優れ、ガスバリヤ性の高いフィルムを使用して真空包装する。一般的に従来の塩分・糖分の高い製品は常温での流通が可能であるが、最近の消費者の嗜好性を加味した低塩・低糖の製品は、水分活性が高く常温での保存性が確保できないため、10℃以下での冷蔵流通が必要である。
通常は製造後に速やかに出荷しているが、糖分が高く、冷凍による変性が少ないため、製品を冷凍保管して出荷調節することが可能である。
調理方法および食べ方
そのまま食べたり、温かいそばに載せたり(京都名物のにしんそば)する。また、なすと煮る「にしんなす」、だし巻き卵の具材、昆布を巻いて煮るなどのバリエーションがある。
参考文献
・三輪勝利.各種製品1.佃煮.「水産加工品総覧」(三輪勝利)光琳.1983;105-108.
・岡﨑惠美子.佃煮総論.「全国水産加工品総覧」(福田 裕ら監修)光琳.2005;139-141.
・にっぽん伝統食品図鑑.にしんの甘露煮.
https://traditional-foods.maff.go.jp/menu/nishinnokanroni
コラム
「北前船に遡る京都の伝統食品『にしん甘露煮』」
にしん甘露煮の歴史は、江戸時代中期から明治30年代(18世紀中頃~19世紀後期)にかけて北前船で北海道から関西地方に運ばれたニシンの干物「身欠きにしん」に遡る。京都では、身欠きにしんを甘辛く煮込んでそばの具とした「にしんそば」が考案され人気となり、それに由来する「にしん甘露煮」は京都の家庭料理に欠かせない一品となった。京都市内には甘露煮を販売する店やにしんそばを提供する店が多く、地元住民や観光客に愛されている。また、ニシンの国内主産地でその加工製品を生産する北海道においても、にしん甘露煮やにしんそばは古くから親しまれている。
(著者:北海道立総合研究機構・水産研究本部・中央水産試験場 武田 忠明)
(協力:小松食品株式会社)
