目次
第2章 塩蔵品 第2節 魚卵塩蔵品

いくら

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保存方法

冷凍保存

キーワード

魚卵/秋鮭/生筋子/醤油漬けいくら/塩いくら/延喜式

備考

Ikura/伝統的加工品

いくらとは

 いくらは、サケ・マスの卵巣(以下、「生筋子」と記載)を卵粒に分離して調味漬け(塩や醤油)したものである。いくらは筋子と共に、美味しく、かつ、栄養価が高い魚卵加工品して古くから親しまれている。平安時代の「延喜式えんぎしき」(927年)に、鮭子(ハララゴ、スズコ)など現在のいくらや筋子に該当する記述が見られ、サケ・マス卵が古くから食用として珍重されていたことが窺える。「イクラ」は、元来ロシア語で魚卵のことを意味しており、1900年代(明治後期)に入り、北洋におけるサケ・マス漁業の発展とともに、その製法がロシアより伝えられたと言われている。

主な生産地

 秋鮭(シロザケ)の主産地である北海道のほか、三陸地方の各県(青森県、岩手県、宮城県)で生産されている。

生産と消費の動向

 いくらや筋子の原料なる秋鮭(シロザケ)の「生筋子」生産量を図1に示す。2014年の1万t弱から漸減し2019年以降は4千tから6千tで推移している。近年はほとんど全量が北海道で主産されている。
 秋鮭の生産量を図2に示す。生筋子と秋鮭の生産量には高い相関関係が読み取れる。
 この秋鮭生筋子から製造された「いくら」の北海道における生産量図3は、2014年及び2015年の約4,500tから暫時減少し、2017年以降は1,500t~3,000tで推移している。製品別では、「塩いくら」に比べて、消費者の嗜好に合った「醤油漬けいくら」が生産量の80%以上を占めている。

図1 秋鮭の生筋子生産量の推移(佐藤水産(株)提供データより編集)
 図2 秋鮭生産量の推移(佐藤水産(株)提供データより編集)
図3 いくら製品量の推移(北海道) (佐藤水産(株)提供データより編集)

原料選択のポイント

 いくらの原料としては、シロザケやカラフトマスなどの生筋子が用いられる。主な原料のシロザケの生筋子は、鮮度と成熟度がいくらの品質に影響する重要なポイントである。鮮度は漁獲後数時間以内のものを用い、漁獲当日に加工処理する必要がある。また、成熟度は漁獲時期(北海道全海域で9月~11月)により変化するが、漁期中盤の10月以降で10月中旬のものが最適である。漁期後半あるいは河川に遡上したサケの完熟卵は、卵膜が硬くなり良質の製品が得られず、その程度の進んだものはピンポン玉と言われる。

加工技術

① 醤油漬けいくら 

 原料の生筋子は、自動機械で卵粒に分離後、2~3%の塩水で洗浄して水切りする。次いで、醤油を主体とする調味液に漬け込み、脱水と塩の浸透を図り味付けする。

② 塩いくら 

 ①の醤油漬けいくらと同様に、分離洗浄した卵粒を飽和食塩水で撹拌塩漬けする。塩漬けにより卵粒の脱水、塩の浸透が促進され、濃厚で美味しい製品に仕上がる。

製造工程の概略

加工の実際

 いくらの加工では、原料の鮮度と成熟度のほか、衛生管理が重要であり、効率的かつ衛生的に加工処理するため、従来の手作業から自動機械化が進んでいる。以下、最新の加工処理状況を紹介する。

① 醤油漬けいくら

  • 原料  製品の歩留まりと品質の保持には、生筋子の鮮度が重要であり、漁獲したサケを速やかに工場に搬入し(写真1左)、その日のうちに新鮮な生筋子を採取して加工する必要がある。原料のサケを工場外から工場内に搬入するときには、衛生管理を徹底するため、屋外と工場内とを遮断する原料搬入エリアを設けると良い(写真1中、右)。原料搬入エリアでは異物や魚体の傷などを目視観察して適宜選別する。

写真1 原料の搬入
(左:工場内に搬入、中:生筋子採取エリアに搬送、右:生筋子採取エリアに搬入)(佐藤水産(株)提供) 

  • 生筋子採取 生筋子の採取は、手作業あるいは機械で処理する。手作業は、体表が銀白色で品質の高いサケについて、頭付きの荒巻鮭に加工する場合に行う。包丁で腹部を丁寧に切り、内臓(生筋子を含む)を採取する(写真2)。一方、体表に婚姻色が現れたサケは、フィレーや切り身などの加工用として機械で処理する。ヘッドカット(写真3左)後、腹部をカッタで切り、内臓(生筋子を含む)と魚体を分別回収する(写真3右)。採取された内臓から生筋子を分離し(写真4)、卵粒分離・洗浄・調味漬けをするエリアにベルトコンベヤで搬送する(写真5)。生筋子以外の内臓は、魚醤油を製造する原料として使用する。

写真2 手作業による内臓採取(佐藤水産(株)提供)
写真3 頭部(左)および内臓除去(右)処理機(佐藤水産(株)提供)
①上部からカッター(赤矢印)が降りて頭部を切断②頭部切断後、内臓除去処理機で内臓③と魚体④に分別回収
写真4 内臓から生筋子を分離
(佐藤水産(株)提供) 
写真5 卵粒分離、洗浄、調味漬けエリアへ
(佐藤水産(株)提供)

  • 卵粒分離  生筋子を20kgずつ計量(写真6)し、半自動の搬送リフトで卵粒分離の作業台に順次載せる(写真7)。生筋子の卵膜が裂けた方を下にして開き、ベルトコンベヤで自動卵粒分離機に送り(写真8)、生筋子をローラーで金網に押し当てて卵粒と卵膜に分離する(写真9左)。卵膜は卵粒分離機の網上に残る(写真9中)。分離された卵粒は洗浄工程に送る(写真9右)

写真6 計量(佐藤水産(株)提供)
写真7 半自動機械で作業台へ(佐藤水産(株)提供)
写真8 生筋子を写真の手前から奥の卵粒分離機へ送り((左)、筋子の卵膜が裂けた方を下にして広げ(中)、卵粒分離機のローラー部へ投入する(右)
写真9 生筋子をローラーで金網部に押し当て卵粒を分離(左)、卵膜は卵粒分離機の網上に残る(中)、分離された卵粒は洗浄工程へ送る(右)(佐藤水産(株)提供)

  • 洗浄・水切り 分離した卵粒は、付着した血液などを除くため、ベルトコンベヤで送りながら3%の食塩水を散布して洗浄する(写真10)。洗浄した卵粒は、メッシュ状のベルトで送りながらエアーを吹き付けて効率的に水切りし(写真11)、調味漬けタンクに20kgずつ計量する。(写真12)

写真10 卵粒はメッシュ状のベルト(青色)で搬送しながら洗浄する(佐藤水産(株)提供)
写真11 水切りの効率アップのエアー噴射(佐藤水産(株)提供)
写真12 調味漬タンクへ(佐藤水産(株)提供)

  • 醤油漬け 調味料は、醤油と酒を基本としてアミノ酸なども配合される。卵重量に対して20%重量程度の調味料を添加し(写真13)、10℃で半日から一日間漬け込む。(写真14)

写真13 調味液を投入し撹拌(佐藤水産(株)提供)
写真14 封をして漬け込み
(佐藤水産(株)提供)

  • 計量・包装 プラスティック容器に所定量を計量して密封する。(写真15)

  • 異物検査 製造工程での異物混入を確認するため、金属探知機で検査する。(写真16)

  • 冷凍・保管 -40℃のエアブラスト凍結にて急速凍結後、製品出荷まで-20℃以下の冷凍庫で保管する。

  • 製品 賞味期限の設定は、流通段階(メーカーから卸業者)の業務用製品(500g~2kg/パック)では-18℃以下で1年半から2年、業務用製品を小分けにした末端店舗用の小売製品(100g~200g)では-18℃以下で60日程度が主流である。(写真17)

写真15 業務用包装材料に計量、封入(佐藤水産(株)提供)
写真16 金属探知機検査(佐藤水産(株)提供)
写真17 醤油漬けいくら(小売り用100g)(佐藤水産(株)提供)

② 塩いくら

  • 原料、生筋子採取、卵粒分離、洗浄・水切り これらの工程は、上記の醤油いくらと同様に行う。

  • 塩水漬け 飽和食塩水量に対して半重量程度の卵粒を入れ、10~15分間撹拌塩漬けする。漬け込み時間は卵質(成熟度など)により適宜調整する。(写真18)

  • 塩水切り 塩漬けした卵を水切りかごに入れ、2~3時間程度行う。(写真19)

  • 計量・包装 プラスティック容器に所定量を計量(写真20)して脱酸素剤を入れて密封する(写真21)

  • 異物検査、冷凍・保管 これらの工程は、上記①醤油いくらと同様に行う。

写真18 撹拌タンクに投入、撹拌塩漬け
(佐藤水産(株)提供)
写真19 塩水切り(佐藤水産(株)提供)
写真20 所定量を計量 (佐藤水産(株)提供)
写真21 脱酸素剤封入、包装機でトップシール
(佐藤水産(株)提供)

  • 製品 賞味期限の設定は、流通段階(メーカーから卸業者)の業務用製品(500g~2kg/パック)では-18℃以下で1年半から2年、業務用製品を小分けにした末端店舗用の小売製品(100g~200g)では-18℃以下で60日程度が主流である。(写真22)

写真22 製品・塩いくら(佐藤水産(株)提供)

加工に用いる機器等

 各製造工程は、効率的かつ衛生的に行うとともに、人手不足や省力化に対応するため、従来の手作業から自動機械化が進んでいる。以下に主なものを紹介する。

  • 頭部及び内臓除去処理機 サケを一定方向に並べて自動で頭部を切断後、魚体腹部を自動で切り、内臓(生筋子を含む)と魚体を分別回収する(写真3)
  • 卵粒分離機 生筋子の卵膜が裂けた方を下にして開き、ローラーで網目に押し当てることで卵粒と卵膜を自動で分離する(写真9)
  • 卵粒洗浄・水切り機 分離した卵粒をベルトコンベヤで送りながら、洗浄と水切りを連続して行う(写真10, 11)

品質管理のポイント

 品質の良いいくらを製造するには、原料の鮮度や卵の成熟度の吟味が大切である。鮮度低下した原料を用いると、卵粒がつぶれやすく、粘り気が多くなるなど品質低下を生じやすい。各工程で用いる食塩水は10℃以下に冷却するなど、低温管理に十分注意する。真水への接触を避け、直射日光に当てないことも重要である。また、十分に水切りを行い、ドリップの生成を防ぐ必要がある。いくら(塩・醤油漬け)の塩分は2~3%程度、長期間保存する場合には冷凍保管が必要である。冷凍保管温度が高く、包装が不完全な場合には、脂質の酸化が生じやすいので注意を要する。

製品の形態

 いくらは、流通段階の業務用製品で1~2kg/ケースで冷凍保管し、これを解凍してビンやプラスティック容器に100g程度リパックして小売りする。

包装および保管方法 

 冷蔵では賞味期限が7日間程度であり、長期保管には冷凍が必須である。冷凍保管時の包装材料は、脂質の酸化による品質劣化を防ぎ、長期保管を可能にするため、ポリプロピレンなどを基材とした包材を用い、脱酸素剤を封入するなどの工夫がなされている。

調理方法および食べ方 

 いくら(塩・醤油漬け)は、にぎり寿司や海鮮丼(写真23)のネタとして人気が高い。また、サラダやなますなどに色彩や風味を添える具材としても用いられる。

写真23 いくらの調理例(佐藤水産(株)提供)

参考文献

・三輪勝利.佃煮.「水産加工品総覧」(三輪勝利監修)光琳.1983;105-108.
・阪本正博.いくら、筋子.「全国水産加工品総覧」(福田 裕, 山澤正勝, 岡﨑惠美子監修)光琳.2005;578-581.
・佐々木政則.いくらの製造と品質.食の科学1994; 5: 20-27.
・佐々木政則.すじこ製造の現状と課題.食の科学1994; 5: 28-37.
・山本愛子.イクラとスジコの料理.食の科学1994; 4: 32-37.

(著者:北海道立総合研究機構・水産研究本部・中央水産試験場 武田 忠明)
   (執筆協力者:佐藤水産 株式会社 佐藤 公彦)