筋子とは
筋子は、サケ・マスの卵巣(以下、「生筋子」と記載)をそのままの形態で塩漬けしたものである。筋子は、いくらとともに、美味しくかつ栄養価が高い魚卵加工品して古くから親しまれている。平安時代の「延喜式」(927年)に、鮭子(ハララゴ、スズコ)など現在のいくらや筋子に該当する記述が見られ、サケ・マス卵が古くから食用として珍重されていたことが窺える。
主な生産地
秋鮭(シロザケ)の主産地である北海道のほか、三陸地方の各県(青森県、岩手県、宮城県)で生産されている。
生産と消費の動向
いくらや筋子の原料となる秋鮭(シロザケ)の「生筋子」生産量を図1に示す。2014年の1万トン弱から漸減し2019年以降は4千トンから6千トンで推移している。近年はほとんど全量が北海道で主産されている。
秋鮭の生産量を図2に示す。生筋子と秋鮭の生産量には高い相関関係が読み取れる。
この秋鮭生筋子から製造された「筋子」の北海道での生産量(図3)は、2014年の約2,000トンから暫時減少し、2016年以降は500トン~1,500トンで推移している。製品別では、家庭で醤油漬けいくらを作るための原料としての「生鮮品」が80%以上(2022年を除き)を占め、「塩筋子」は50トン程度の生産に留まっている。いくらや筋子の原料として、アメリカ、カナダ、北欧などから輸入される冷凍品も使用されているが、生鮮原料を使用したものに比べて品質や歩留まりが劣るため、その量は少ない。



原料選択のポイント
筋子の原料としては、シロザケやカラフトマスなどの生筋子が用いられる。主要な原料のシロザケの生筋子は、鮮度と成熟度が筋子の品質に影響する重要なポイントである。鮮度は漁獲後数時間以内のものを用い、漁獲当日に加工処理する必要がある。また、成熟度は漁獲時期(北海道全海域で9月~11月)により変化するが、漁期中盤の10月以降で10月中旬のものが最適である。
加工技術
生筋子を洗浄後、そのままの形態あるいは一口サイズにカットして飽和塩水に投入し、撹拌しながら塩漬けする。次に、10℃の熟成庫で5日間、加圧・脱水して、塩の浸透を促進させる。また、卵の色調を鮮明にするために、亜硝酸ナトリウムが用いられる。使用許可量は、食品衛生法の食品、添加物等の規格基準に定められており、残留亜硝酸根で 5ppm以下である。
製造工程の概略

加工の実際
筋子の加工では、原料の鮮度と成熟度のほか、衛生管理が重要であり、効率的かつ衛生的に加工処理するため、従来の手作業から自動機械化が進んでいる。以下、最新の加工処理状況を紹介する。
生筋子をそのままの形態で塩漬けした「筋子」のほか、最近では生筋子を一口サイズに細断してから塩漬けし、食べやすくした「一口筋子」が開発されている。
- 原料 製品の歩留まりと品質の保持には、生筋子の鮮度が重要であり、漁獲したサケを速やかに工場に搬入し(写真1左)、その日のうちに新鮮な生筋子を採取して加工する必要がある。原料のサケを工場外から工場内に搬入するときには、衛生管理を徹底するため、屋外と工場内とを遮断する原料搬入エリアを設けると良い(写真1中、右)。原料搬入エリアでは異物や魚体の傷などを目視観察して適宜選別する。
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- 生筋子採取 生筋子の採取は、手作業あるいは機械で処理する。手作業は、体表が銀白色で品質の高いサケについて、頭付きの荒巻鮭に加工する場合に行う。包丁で腹部を丁寧に切り、内臓(生筋子を含む)を採取する(写真2)。一方、体表に婚姻色が現れたサケは、フィレーや切り身などの加工用として機械で処理する。ヘッドカット(写真3左)後、腹部をカッタで切り、内臓(生筋子を含む)と魚体を分別回収する(写真3右)。採取された内臓から生筋子を分離し(写真4左)、洗浄するエリアにベルトコンベヤで搬送する(写真4中)。生筋子以外の内臓は、魚醤油を製造する原料として使用する。
- 洗浄 2~3%の塩水で血液と異物を洗い流す。特に、製品の生臭さや色調の黒ずみを抑制するには、生筋子の血管にある血液をよく洗い出す。(写真4右)
- 筋子裁断 生筋子を一口サイズに細断する。細断機は佐藤水産(株)の自社開発品である。(写真5))
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- 塩水漬け 生筋子の大小、鮮度により塩漬け時間が異なるので、原料の品質をある程度揃えて処理する。飽和食塩水400ℓに生筋子60kgを入れ、15~30分撹拌塩漬けを行う。卵の色調を鮮明にするために亜硝酸ナトリウムを添加する。添加量はその後の貯蔵日数等により異なるが100~200ppm程度が目安となる。また、食塩の飽和度を保たせるため、5~10%程度の補塩をする。撹拌はゆっくり行い、卵粒の分離を防ぐ。食塩が浸透するに従い卵は脱水されて徐々に締まる(写真6)。
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①撹拌タンクに飽和塩水調製
②生筋子投入、撹拌塩漬け
③一口サイズにカットした生筋子投入、撹拌塩漬け
- 塩水切り 塩水漬けした筋子をザルに揚げて水切りする。
- 箱詰め 筋子を底面に水切り穴があるプラスティック容器にきっちり詰めて密封をする(写真7)。
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①棒筋子の計量 ②一口筋子の計量 ③包装(密封前) ④包装(密封後)
- 加圧脱水 プラスティック容器を積み上げ、重しを掛けて、10℃の熟成庫で5日間、加圧脱水する。(写真8)
- 異物検査 製造工程での異物混入を確認するため、金属探知機で検査する。
- 冷凍・保管 -40℃のエアブラスト凍結にて急速凍結後、製品出荷まで-20℃以下の冷凍庫で保管する。
- 製品 賞味期限の設定は、流通段階(メーカーから卸業者)の業務用製品(5kg/パック)では-18℃以下で1年半から2年、業務用製品を小分けにした末端店舗用の小売り製品では-18℃以下で60日程度が主流である。(写真9, 10)
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加工に用いる機器等
各製造工程は、効率的かつ衛生的に行うとともに、人手不足や省力化に対応するため、従来の手作業から自動機械化が進んでいる。
頭部及び内臓除去処理機 サケを一定方向に並べて自動で頭部を切断後、魚体腹部を自動で切り、内臓(生筋子を含む)と魚体を分別回収する(写真5)。
品質管理のポイント
品質の良い筋子を製造するには、原料の鮮度や卵の成熟度の吟味が大切である。鮮度低下した原料を用いると、卵膜が破れて液状になるなど品質低下を生じやすい。各工程で用いる食塩水は10℃以下に冷却するなど、低温管理に十分注意する。真水への接触を避け、直射日光に当てないことも重要である。また、十分に水切りを行い、ドリップの生成を防ぐ必要がある。筋子の塩分は4~6%程度であり、長期間保存する場合には冷凍保管が必要である。筋子は原料の血抜きが不十分な場合や空気に長時間接触することで、表面が硬くなり、色調が紅赤色から暗赤色に変化する。筋子では、冷凍保管温度が高く、包装が不完全な場合には、脂質の酸化が生じやすいので注意を要する。
製品の形態
筋子は、流通段階の業務用製品で5kg/ケースを冷凍保管し、これを解凍して1本ずつ計量して包装する。一口サイズに細断した筋子は、業務用製品の5kg/ケースを冷凍保管し、これを解凍してプラスティック容器に100g程度リパックして小売りする。
包装および保管方法
筋子は、冷蔵では賞味期限が7日間程度であり、長期保管には冷凍が必須である。冷凍保管時の包装材料は、脂質の酸化による品質劣化を防ぎ、長期保管を可能にするため、ポリプロピレンなどを基材とした包材を用い、脱酸素剤を封入するなどの工夫がなされている。
調理方法および食べ方
ご飯のおかずやおにぎりの具材として主に用いられている。
参考文献
・三輪勝利.佃煮.「水産加工品総覧」(三輪勝利監修)光琳.1983;105-108.
・阪本正博.いくら、筋子.「全国水産加工品総覧」(福田 裕, 山澤正勝, 岡﨑惠美子監修)光琳.2005;578-581.
・佐々木政則.すじこ製造の現状と課題.食の科学1994; 5: 28-37.
・山本愛子.イクラとスジコの料理.食の科学1994; 4: 32-37.
(著者:北海道立総合研究機構・水産研究本部・中央水産試験場 武田 忠明)
(執筆協力者:佐藤水産 株式会社 佐藤 公彦)
