目次
第3章 調味加工品 第1節 佃煮

時雨蛤

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主原料

主生産地

保存方法

常温保存

キーワード

桑名/溜まり醤油/ショウガ/水あめ

備考

Shigure-hamaguri /伝統的加工品

時雨蛤とは

 時雨蛤(写真1)は、ハマグリを刻んだショウガとともに特製の溜まり醤油で煮た佃煮で、三重県桑名地域の名物である。
(本文末尾のコラム「その手は桑名の焼き蛤」もご参照ください。)

写真1 時雨蛤(提供:三重県水産研究所)

主な生産地

 三重県(主に北勢地域)

生産の動向

 三重県の桑名地区の沿岸から沖合にかけては、木曽三川の淡水と伊勢湾の海水が混ざり合い、貝類やノリなどの好漁場となっている。三重県におけるハマグリの漁獲量は、1995年には1トンまで減少したが、その後、増加傾向となり、2018年には293トンまで増加した図1。ハマグリ漁獲量の増加の背景には、主要産地である桑名地区での資源管理、種苗放流等の取り組みが寄与した可能性が考えられる。しかし、その後、漁獲量は減少し、2022年には151トンとなっており、三重県が2022年度に行ったハマグリの資源評価では、資源水準は中位、資源動向は減少となっている。
 時雨蛤は、高品質な高級贈答品として用いられるほか、近年は日常の食卓で食べやすい柔らかく薄味の若炊きや小分けされた商品も製造されている。時雨蛤を製造販売する事業者は、三重県桑名市を中心に数多く存在し、その伝統と味を継承している。

図1 三重県におけるハマグリの漁獲量の推移(三重県水産研究所調べ)

原料選択のポイント

 原料とするハマグリは、歴史的には国産のもの(桑名産)が用いられていたが、ハマグリ資源の減少や原料価格の高騰のため1外国産二枚貝(中国、東南アジア産のハマグリ近縁種)のむき身が用いられることも多い。原料のハマグリは、身がふっくらした産卵前のものが最適である。

加工技術

 時雨蛤を煮るたれは、煮熟に使った元溜まりに、新しい溜まり醤油及び水あめを継ぎ足しながら代々使用しており、ハマグリの旨味や香りが凝縮している。製造の際は、たっぷりのたれを沸騰させた中で、ハマグリを浮かせながら煮る「浮かし炊き」を行うことで、ふっくらとした仕上がりになる。時雨蛤が一般的な佃煮の製法と差別化を図っている点は、佃煮では具材を砂糖や味醂等を加えた醤油で味付けながら煮汁が残らない程度まで煮上げるのに対し、時雨蛤では水あめと溜まり醤油だけで落し蓋を使わず短時間で煮上げる点である。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 国産のハマグリ(写真2)の他、外国産(中国、東南アジア)のハマグリ近縁種を使用する。

  • 砂抜き 海水を張った水槽に活ハマグリを収容し、一晩ほどかけて砂抜きを行う。

  • 貝剥き 生のまま、手作業で開殻し貝肉を取り出す。湯煮の前に貝肉を取り出すことで、うま味を逃さないことにつながる。

  • 水洗い 取り出した貝肉を洗い、砂などの異物を丁寧に取り除く。

  • 湯煮 貝肉の表面に熱が通る程度に茹でて、貝肉を固める。

  • 湯切り 茹でた貝肉を取り上げて、湯を切る。(外国産の貝を使用する場合は、ここまでの工程を終えると冷凍保管することがある。冷凍保管した場合は、調味煮熟の前に解凍を行う。)

  • 調味煮熟 時雨蛤を作りながら代々受け継がれている元溜まり(写真3)に、新しい溜まり醤油を加えたたれをハソリ(大鍋)(写真4)に満たし、そこにハマグリと刻んだショウガ(写真5)を風味付けに合わせ入れ、一煮立ちさせる。その後、水あめを加えて、たれを沸騰させながら調味煮熟する(写真6)。煮熟時間はハマグリの大きさや製品の種類によって調整されるが、概ね15~30分間程度である。

写真2 三重県産のハマグリ
(提供:三重県水産研究所)
写真3 代々受け継がれている元溜まり(溜まり醤油)
(提供:三重県水産研究所) 
写真4 時雨蛤を煮るためのハソリ(大鍋)
(提供:三重県水産研究所)
写真5 調味煮熟前のハマグリの身と刻んだショウガ
(提供:三重県水産研究所)
写真6 調味煮熟の工程(提供:三重県水産研究所)
(左:ハマグリとショウガを入れて一煮立ちさせたたれ,中:水あめの添加,右:出来上がった時雨蛤)

  • 放冷・冷却 ハソリ内のたれで煮熟したハマグリをざるで取り上げ、バットに広げ放冷後、さらに冷却機(冷風)により急速冷却する。

  • 真空包装 プラスチック袋に時雨蛤を入れ、真空包装を行う。

  • 殺菌 高温高圧殺菌装置で、レトルト殺菌(95℃、25分間)を行う。

  • 製品 梱包して出荷する(写真7)
写真7 時雨蛤の製品(提供:株式会社総本家新之助貝新)

加工に用いる機器等

 ハソリ(羽反、直径1mほどの大鍋写真4)、真空包装機、高温高圧調理殺菌装置等

品質管理のポイント

 異物(主に砂)の混入を防ぐことが最も重要で、原料段階及び水洗い工程で砂の除去に注意を払う。

製品の形態

 贈答品としても用いられる時雨蛤単品での販売のほか、昨今の消費者のニーズに合わせ、若炊きや減塩タイプ、小分けして他の製品等と詰め合わせた商品も増えている。

包装および保管方法 

 真空包装した後、レトルト殺菌しているため、約4カ月の常温保管が可能である。

調理方法および食べ方 

 米飯とともに食するほか、茶漬けやおにぎりの具とするのが美味しい。新たな食べ方として、イタリアンやフレンチに合わせたレシピも提案されている。

参考文献

・堀田吉雄他.「蛤の話」光出版印刷㈱.1990.
・大川吉崇.桑名の殿様の蛤.「三重県の食生活と食文化」㈱調理栄養教育公社.2008;416-424.
・三重県農林水産部水産資源管理課.三重県沿岸水産資源の資源評価 令和4年度三重県沿岸種資源評価 ハマグリ.https://www.pref.mie.lg.jp/SUIKEIEI/HP/m0115800018.htm.(2024年12月12日参照)

コラム

「その手は桑名の焼き蛤」

 三重県桑名地区は古来よりハマグリの産地であった。桑名産のハマグリは「浜の栗」と呼ばれ、色合いや艶が良く、ふっくらとした大きな身で、江戸時代から「その手は桑名の焼き蛤」等のしゃれ言葉で親しまれるなど、名物として知られてきた。水揚げされるハマグリは、貝全体が無駄なく利用され、貝肉は生鮮で利用されたほか、保存性を高めた土産物として、また貝殻は域外へ輸送され富山では薬入れ、京都では口紅入れに用いられた。江戸時代(1600年代)には、桑名は東海道五十三次42番目の宿場町として栄え、焼き蛤が街道沿いの店で提供され、溜まり醤油で煮たものが土産物となっており、これが時雨蛤の起源といわれる。時雨蛤の名の由来は、秋から冬にかけて降る「時雨」の頃のものが美味しいということから、松尾芭蕉の高弟で十哲の一人である俳人の各務支考かがみしこうによって命名されたとされている(堀田他 1990、大川 2008)。 

(著者:三重県水産研究所 阿部 文彦・竹内 泰介)
(協力:株式会社総本家新之助貝新)