塩蔵くらげとは
塩蔵くらげとは、水産塩蔵品の一種で、食用クラゲを塩とミョウバンで漬け込み、保存性を高めたものである。日本において食用にされるクラゲは主にビゼンクラゲ、ヒゼンクラゲ、エチゼンクラゲの三種で、いずれも鉢虫綱根口クラゲ目に属する。有明海沿岸地域では7~10月頃にビゼンクラゲ(地方名:赤くらげ)及びヒゼンクラゲ(地方名:白くらげ)を、固定式刺し網やすくい網などで漁獲(写真1,2)して塩漬け加工し、食用にする。傘径はビゼンクラゲで最大70cm、ヒゼンクラゲで1mに達し、いずれも数か月間で急速に成長する。
ビゼンクラゲはその名の通り古くから岡山県の児島湾産のものが知られていたが、最近では個体数が減っているようである。一方、有明海では2010年代に入ってからビゼンクラゲが大量に発生し、加工品が主に中国に輸出されている。また、日本海では、2002年以降エチゼンクラゲが大量に発生して定置網に入網するなどし、漁業に被害をもたらしてしばしば問題となったが、近年は少なくなっている。
(本文末尾のコラム「日本におけるクラゲ食文化の歴史」もご参照ください)


(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)
主な生産地
福岡県、佐賀県、熊本県
原料選択のポイント
原料の条件としては、鮮度が良好であることが必須である。また、ビゼンクラゲと比べてヒゼンクラゲは肉質が軟らかいが、同じヒゼンクラゲでも傘の表面に赤い斑点があるものの方が塩蔵したときに硬く締まるため保存性が良く、斑点のないものは溶けて流れやすいと言われる。ただし、この斑点がクラゲのどの器官に相当するかは不明である。
使用する副原料
漬け込みには塩とミョウバンを使用する。
加工技術
クラゲの成分はほとんどが水分であるが、塩漬けすることにより脱水され、また、ミョウバンの収れん作用によりタンパク質凝固が促進され、保存性が高まる。肉質が締まることで食感も向上する。
製造工程の概略

加工の実際
従来、福岡有明地区では、漁業者が漁獲したクラゲを個人で加工、出荷する形態が中心であった。しかし、近年は中国向け輸出用としての加工を専門に行う業者が、漁業者から生のクラゲを買い上げて加工する形態が中心となっている。以下に示した製造工程は標準的なものであり、加工の方法は業者によって異なる。触手除去を省略する場合や、洗浄後に切り分けてから塩蔵する場合もある。また、食塩とミョウバンの混合比も6:4~6:1とさまざまである。
ミョウバンの割合は季節、加工段階、クラゲの種類や大きさによって変えることもあり、ミョウバンが多いほど保存性が高くなるという。漬け込み時間も業者によって差があり、長い場合は全工程で数週間を要するが、各加工処理を1日ずつとする場合もある。クラゲが大きいほど漬け込み時間が長くなる傾向にあるが、特に明確な基準はなく、個々の業者がそれぞれ設定した条件で製造されている。
- 生クラゲ 鮮度が良く、形が崩れていないものを厳選して用いる。(写真3,4)

(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)

(提供:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所)
- 洗浄 漁獲後直ちに船上において傘、口腕とそれ以外に切り分け、海水で洗浄して汚れや粘液を除去する。食用とされるのは傘及び口腕である。陸揚げ後、部位ごとに分けて桶に入れた状態で加工業者に引き渡される。
- 一次加工 一番漬けと称する。部位ごとに分けたクラゲを塩・ミョウバンと混ぜ、コンテナや桶を用いて漬け込む(写真5, 6)。浸出してきた水は捨てる。
- 二次加工 二番漬けと称する。クラゲを塩のみ、もしくは塩・ミョウバンと混ぜ、漬け込む。浸出してきた水は捨てる。一番漬けまたは二番漬けの後出荷する。また、これらを買い取ってさらに高次の加工を行う業者も存在する。
- 三次加工 三番漬けと称する。クラゲを塩のみ、もしくは塩・ミョウバンと混ぜ、漬け込む。浸出してきた水は捨てる。自家消費する場合は、二番または三番漬けの後、冷蔵保存する。


- 製品 市場出荷する場合は、漬け込みを終えたものをそのまま出荷する。一般消費者向けの商品として出荷する場合は、細断の上、パック詰めして出荷する(写真7~10)。




加工に用いる機器等
桶、細断機
品質管理のポイント
クラゲの漁期は夏季であるため、鮮度保持の観点から、速やかに下処理と漬け込みを行うことと、十分な塩濃度で漬け込むことが重要である。
製品の形態
業者によりさまざまである。一般消費者向けの商品の場合は、概ね数十gの製品を水と共に袋詰めしたものが多い。
包装および保管方法
ピロー包装、パウチ包装、トレイ包装などで、冷蔵保存する。
調理方法および食べ方
真水で塩抜きしたのち、そのままもしくはキュウリなどと混ぜ、味付けして食べる(写真11)。かつお節をかけても美味しい。塩抜き時間は短いと塩気とミョウバンの味が残り、長いと水っぽくなる。クラゲ自体には味はほとんどなく、コリコリとした食感を楽しむものであるため、好みによって酢醤油、ポン酢醤油、生姜醤油、ごま醤油などで、さまざまに味付けされる。

参考文献
・藤井直紀.ブームに沸く有明海のビゼンクラゲ漁業.笹川平和財団Ocean Newsletter 第324号.2014.
・農林水産技術会議事務局、独立行政法人水産総合研究センター.エチゼンクラゲの大量発生に関する緊急実態調査報告書.2004
・一般社団法人漁業情報サービスセンター.大型クラゲ出現情報.2024.https://www.jafic.or.jp/kurage/index.html.(2024年12月18日参照)
コラム
「日本におけるクラゲ食文化の歴史」
古事記では、原初の海の様子を「くらげなすただよへる」と表現しており、島国である日本でクラゲの存在自体は早くから認識されていたと考えられる。また、平城京から出土した木簡に、備前産のクラゲについての記述があることから、クラゲの食習慣も古くからのものであることがわかる。記録によると、クラゲは朝廷や幕府への献上品にされており、珍重されていたことが窺える。
有明海沿岸でいつ頃からクラゲが食用とされ始めたかは定かではないが、18世紀の博物誌「和漢三才図会」に肥前国の産物としてクラゲが挙げられていること、19世紀の「有明海漁業実況図」に現在と同じように網でビゼンクラゲを漁獲する様子が描かれていることなどから、少なくとも江戸時代には既に食習慣として定着していたと考えられる。
(著者:福岡県水産海洋技術センター有明海研究所 渕上 哲・内藤 剛)
(協力:株式会社 カネヤス)
