目次
第1章 乾製品 第3節 煮干し品

干しあわび

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保存方法

常温保存

キーワード

コラーゲン/中華材料/延喜式/回転型ドラム洗浄機

備考

Hoshi-awabi/伝統的加工品

干しあわびとは

 原料貝から殻を除き、取り出した貝肉を塩漬けしたのち煮熟後、乾燥して作られる。干しあわびにはべっ甲色をした明鮑めいほうと、灰白色をした灰鮑かいほうの二種類がある。灰鮑は乾燥が八分程度進んだ段階でかび付けすることから、製品は暗褐色のアワビの表面を白粉が覆って灰白色を呈している。灰鮑は北海道の一部で製造されているものの、近年は少なくなっており、明鮑の生産が主流となっている。
 古くから干しあわびは中華材料として輸出されているが、保存性が高く、高値で取り引きされることから、昔は「乾貨(カンフォ:乾物)」とも呼ばれ、食材のみならず、貨幣の代わりにもなっていたと言われている。国内製品の評価は高く、中国では「キッピン」(岩手県大船渡市吉浜)、「オオマ」(青森県大間町)などの地名が最上ランクの干しあわびを示す名称としてそのまま使用されており、ブランドが確立している。
(本文末尾のコラム「古来から尊ばれた干しあわび」もご参照ください。)

主な生産地

 国内の小売店などではあまり見かけない食材であり、製品の多くが商社を通じて中華材料として輸出されることから、製造業者の実態把握が難しい。活きの良さが製品の品質に影響することから、アワビの生産地である岩手県、北海道、宮城県、千葉県、三重県、和歌山県、石川県、長崎県、鹿児島県、愛媛県などの沿岸地区で加工が行われているものと思われる。

生産の動向

 各種統計資料において干しあわびの国内生産量を直接示す統計値は見当たらない。アワビの系統販売を取り扱う岩手県漁連が各買受業者から聞き取った情報によると、岩手県産のアワビの7割弱が干しあわびの原料になっていると推定される。製品は中華料理の食材として、輸出が主体となっている。図1に示した貿易統計によると、干しあわびは輸出品目では「あわび調製品」に分類され、香港向けの輸出が高い割合を占める。近年の輸出は過去10年前と比較すると低調であり、2020~2024年の直近5年では輸出量が10トン強、輸出額は概ね10億円前後である。

図1 干しあわび(あわび調製品)の輸出量と輸出額

原料選択のポイント

 エゾアワビ、マダカアワビ,メガイアワビ,クロアワビの4種が原料となる。製品の歩留まりに影響を与えるため、活きの良い原料貝を用いる。漁獲時に用いるかぎや除殻に用いる金属ヘラ(貝起こし)の取扱いの不手際などで身肉が大きく傷つくと、呈味成分を含んだ体液が大量に流出するため、このような身肉は原料には適さない。また、写真1に示すように、肉色が肌色の貝に混じって青みがかった貝が混入している。この青貝から作った製品は黒ずむ可能性が高いとされ、その割合は漁場(生息場所)により異なる。そのため、原料を受入れする際は漁場や受入後の選別に留意する。

写真1 貝肉の色の違い(左:正常 右:青貝) (岩手県水産技術センター撮影)

使用する副原料

 塩漬けの施塩には並塩、煮熟水には真水を用いる。

加工技術

 各製造業者の経営上の理由から、干しあわびは製造法の秘匿性が特に高いことで知られており、加工の作用機序の科学的な解明があまり進んでいない。また、干しあわびの品質の良し悪しを左右する製造条件は、製造時の天候や原料の状態等によって変わるため、作業状況から法則性を推測することが難しいことも、科学的解明が進まない理由に挙げられる。そのため加工方法の解説は断片的にならざるを得ないが、過去に加工現場から得られた情報を記載する。

  • 塩漬け工程における施塩量 
    施塩量は多くても少なくても良好な製品にはならない。施塩量が多いと塩抜きが十分にできず、次の煮熟工程において亀裂が発生しやすくなり、さらにその後の乾燥が進まなくなる。一方施塩量が少ないと、肉面に黒点を生じやすく、身肉が軟化して形状が整わないほか、気温が高い場合には腐敗による臭気が発生する。岩手では漁期が冬季に限られるため、身肉の腐敗が進みにくく施塩量は汚物の除去ができる程度に少なくしているが、他地域での様々な製造条件により施塩量が異なると考えられる。施塩量は加工時の気候以外にも、原料の大きさや年齢等を考慮し判断している。

  • 煮熟から焙乾工程における温度等の制御 
    製造工程での品温管理は製品の品質に大きく影響する因子と言われている。煮熟温度は高過ぎても低過ぎても良くないが、煮熟開始時の初期温度から定めた温度までの到達時間を目安とし、仕掛品の外観と触感を目安に加熱度合いを調整する。煮熟後の放冷作業は良好な型や色調に整えるため、手早く行う。焙乾は乾燥中の身肉の凍結防止を目的に行う工程であり、身肉を蒸篭に並べて下から楢や樫等の堅木を燃やして、適度に配置換えをしながら均一に乾燥させる。

  • 乾燥方法 
    焙乾後、セイロのまま適度に天日乾燥後、アワビに糸を通し吊るして乾燥させる。このようにすると型が整いやすく、一粒一粒に風が当たり乾燥が早くなる。乾燥は、晴天日に陰干しするのが最も好ましく、天候を考慮し乾燥とあんじょうを繰り返して乾燥させる。

製造工程の概略

加工の実際

  • 原料 エゾアワビ、マダカアワビ,メガイアワビ,クロアワビの4種が原料となる。岩手ではエゾアワビが用いられる。加工バッチの単位でサイズを揃える。(写真2)

  • 脱殻 アワビの前方(口のついている側)付近の肉と殻の間から金属ヘラを挿入して貝の内面に沿って貝柱を切り、内臓を殻に残したまま引き剥がす。(写真3)

写真2 原料(岩手県水産技術センター撮影)
写真3 脱殻(岩手県水産技術センター撮影)

  • 塩漬け アワビの大きさや加工時の天候等で塩漬条件は変わってくるが、冬季に加工を行う岩手では身肉の重量に対して12~14%の並塩を散塩し軽く攪拌後、途中で天地による漬け替えを繰り返しながら1~2日漬けする。(写真4)

  • 洗浄 樽状の容器にアワビを入れて、温湯を適当量加えながら、攪拌してアワビについた黒い汚物(貝肉の表面を覆う「黒垢」と呼ばれる部分)等を除く。一旦、アワビを取り出し回転型ドラム洗浄機で洗ってから、樽状の容器に真水を満たし、再びアワビを入れて水を流しながら塩抜きと洗浄を行う。取り切れない汚物等はタワシやブラシなどで丁寧に除去する。(写真5)

写真4 塩漬け(岩手県水産技術センター撮影)
写真5 洗浄(岩手県水産技術センター撮影)

  • 煮熟  洗浄後、50℃程度に加温した真水にアワビを投入し、攪拌しながら除々に温度を上げて沸騰させないように煮上げる(業者により温度条件は異なる)(写真6)

  • 放冷 煮熟後、蒸篭に身肉を並べてなるべく早く粗熱を除去する(写真7)

写真6 煮熟(岩手県水産技術センター撮影)
写真7 放冷(岩手県水産技術センター撮影)

  • 焙乾 放冷後、大きさにより区分しながらセイロに並べ、場所を入れ替えながら炭火を用いて遠火で焙乾する。焙乾は寒気による乾燥中の凍結防止や艶出しの効果がある。加工時の気温から仕掛品の凍結リスクが少ないと判断される場合には焙乾を省略する企業も多い。(写真8)

  • 乾燥 大きさを揃えた後、岩手ではアワビの長軸方向に糸を通して数珠状にして乾燥させる。その糸通しは大きさを揃えて1 連30~50 粒程度にする。業者によってはセイロ乾燥を組み合わせて、あるいは単独で行う場合がある。天候を考慮し、乾燥とあんじょうを繰り返しながら、乾燥させる。ある程度まで乾燥させたら、糸を抜いてあんじょう後、蒸篭に並べて乾燥させる。製了(製品の完成)まで大型のもので概ね40日、中型のもので30日程度、小型原料で 20 日程度である。また、春季や秋季に加工する場合にはこれよりも1週間程度製造期間が短くなる。完成した製品の水分は22~23%である。(写真9~11)

  • 包装 糸を外した製品を紙袋に入れるか、ダンボールに紙を敷き、約15kg単位で梱包する。

写真8 焙乾(岩手県水産技術センター撮影)
写真9 乾燥(糸通し)(岩手県水産技術センター撮影)
写真10 乾燥(風乾)(岩手県水産技術センター撮影)
写真11 乾燥 (あんじょう)(岩手県水産技術センター撮影)

加工に用いる機器等

  •  回転型ドラム洗浄機 
     身肉を塩漬後、樽容器の中で攪拌し汚物を剥離、除去する工程を自動化した装置である。ステンレス製のドラムと、それを回転させる動力を与えるモーターから構成される装置である。塩漬けした身肉をドラム上端から筒内部に投入し、真水を注水しながらドラムを回転させると、貝肉同士が揉まれることで表面が擦れて付着している汚物が剥離する。ドラムの下部はテーパー状に折り曲げてあり、身肉が容易に落下しない構造としており、洗浄後にドラムの傾斜角度を変えて身肉を回収する装置である。

品質管理のポイント

 干しあわびは製品格付等の明文化した基準はないが、概ね製品の大きさや厚み、形状のほか、色調や光沢、キズの有無等が製品の良し悪しの判断基準になっていると考えられる。写真12に良品と判断される製品の写真を示した。製造する業者によると、品質に優れた製品は、形状がふっくらと凹凸なく反り返り、色調がべっ甲色で光沢があるとされる。また、これらの品質はアワビの身肉に含まれるコラーゲンやグリコーゲンなどの栄養状態との関連性が推察されている。
 品質が良いアワビは製品とした後、さらに長期間適切な方法で熟成させると、べっ甲色を呈したアワビがより茶色く深みを増し、それに伴って旨味も増すとされる。特に評価が高い国内産地には岩手県吉浜(キッピン)、青森県大間(オオマ)が挙げられ、産地名がそのまま商品名としてブランドが定着している。

写真12  干しあわび良品(左)(岩手県水産技術センター撮影)

健康機能性成分

 生鮮アワビの可食部はコラーゲンを8~31%と豊富に含むと報告されていることから、それを乾燥させた干しあわびでは、水分が除去された分、さらに高い割合で含有していることは自明である。干しあわびは様々な加工を経て、各種成分のなかで相対的に炭水化物が多く含まれることが特徴的である。
 古来、始皇帝が不老不死の妙薬として探していた食材はアワビと推測されている。効能の真偽は別として、アワビは眼病をはじめとする薬に用いられてきている。アワビの多糖類には抗酸化作用が認められ抗ウイルス作用のほかに、癌モデルマウスを用いたアワビ煮汁の制ガン効果について報告されている。

製品の形態

 生産者の段階では糸を外した製品を紙袋に入れるかダンボールに紙を敷き、約15kg単位で梱包する。
 干しあわびの規格サイズは「とう」と呼ばれる単位で、一斤(600g)当たりの干しあわびの個数で表わされる。すなわち、数字が小さいほど大きいサイズの干しあわびであることを示している。

保管方法 

 直射日光を避けて常温で保管する

調理方法および食べ方

 干しあわびは、食するに適した硬さとするため、1~3日間程度水に浸し、時々水換えをしながら十分な時間をかけて、ゆっくりと水戻しする。さらに、短時間茹でたあと、沸騰しない程度に保温し柔らかくする。その後アワビのだし汁や酒、本格的には豚足や鶏肉のだし汁、ハム皮、豚皮等とともに数時間煮込み柔らかくする。これを材料としてスープやうま煮、蒸し物等の料理に用いる。

参考文献

・上田智広.干しあわび.「全国加工品総覧」(福田裕他監修).光琳.2007;88-90.
・Gong F et al. A novel peptide from abalone (Haliotis discus hannai) to suppress metastasis and vasculogenic mimicry of tumor cells and enhance anti-tumor effect in vitro. Mar Drugs. 2019; 17(4): 244.
・Yao T et al. The enhanced immune protection in small abalone Haliotis diversicolor against a secondary infection with vibrio harveyi. Front Immunol. 2021; 12: 685896.
・Gong F et al. Boiled abalone byproduct peptide exhibits anti-tumor activity in HT1080 cells and HUVECs by suppressing the metastasis and angiogenesis in vitro. J. Agric. Food Chem. 2019, 67, 32, 8855–8867.
・奥谷喬司他.アワビの仲間.「食材魚貝大百科Vol.2貝類・魚類」平凡社.1999. 7-11.
・境一郎.「一個52万円のアワビ文化」成山堂書店.2000.
・長山一夫.外房の特大マダカアワビを訪ねて(その2).「第三春美鮨‐仕入れ覚書.
https://www.daisan-harumi.tokyo/index.html.(2025年7月1日参照)
・財務省.「貿易統計」;https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=77&P=0(2025年7月1日参照)
・文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会. 「日本食品標準成分表2015版(七訂)」.2015.

コラム

「古来から尊ばれた干しあわび」

 干しあわびは江戸時代中期にあたる元禄時代には、既に中国向けの主要な輸出品となっていた。江戸幕府の命を受けた仙台藩が三陸のアワビを集めて、当時唯一の貿易港であった長崎に送り、俵に詰めて輸出していたことから「長崎俵物」と呼ばれ、貴重な輸出品であった。
 かつてアワビの乾製品は、本稿に示した加工品以外にも多様に存在していたことが、関連する古書から推察される。古来よりアワビは神饌として、大嘗祭だいじょうさいなどの神事に捧げられている。三重県鳥羽市では、二千年ほど前から伊勢神宮に奉納する熨斗鰒のしあわびが例年作られており、平安中期の書物「延喜式」には、様々な食材があるなかで、アワビの乾製品が貢納品として多く登場している。熨斗鰒はアワビから脱殻した貝肉を包丁で薄く桂剥きし、その後竹で均一に伸ばした後に形を整えて短冊状にした乾製品であり、現代では贈答品に添える包紙などに印刷や装飾に施されている熨斗のしの原型である。
 また、生後百日目あたりに行う「お食い初め」と併せて行う儀式に「歯固め石」の儀式がある。「丈夫な歯が生えますように」と願って行うこの儀式に、岩手県釜石市では干しあわびをしゃぶらせる習俗がある。

(著者:岩手県水産技術センター 上田 智広)