ぶなざけ魚醤油とは
ぶなざけ魚醤油は、ブナザケ(写真1)の筋肉を有効利用し、それに塩、醤油麹を加えて混合後、発酵・熟成させて製造した魚醤油であり、富山県食品研究所独自の開発製品である。
産卵のために故郷の川に戻ってくるシロサケ(標準和名:サケ、通称:秋サケ、シロサケ等)は、性成熟が進むと、その体表が赤茶色に黒ずみ、その色合いがブナ(広葉樹)の樹皮のまだら模様や、ブナの葉が紅葉した様子に似ることから、ブナザケと呼ばれる。シロサケの産卵時期は秋であり、川の周りにある木々が紅葉するため、自らの体表を周りの景色と擬態することで、クマなどの敵から発見されにくくなると考えられている。
ブナ化が極端に進んだものは加工原料にはほとんど用いられないため、有効利用法が求められている。
(本文末尾のコラム「魚醤油の風味改良 ─麹を使用した魚醤油製造技術の実用化─」もご参照ください。)
写真①.jpg)
主な生産地
富山県
生産の動向
富山県において、ブナザケは10~12月頃にかけて河川に遡上する。河川におけるシロサケ(標準和名:サケ)の捕獲尾数は年変動が大きく、2015年には約14万尾/年が捕獲されていたが、その後、2023年まで減少傾向が著しい(図1)。このため、近年のぶなざけ魚醤油の生産も激減している。

原料選択のポイント
河川に遡上してきたシロサケ(ブナザケ)を使用する。ブナザケは、魚肉中の色素、脂質含量が減少し、特有の臭いを発するなどの理由から加工原料としてはほとんど利用されない。しかし、脂質含量が1.5%前後と少なくタンパク質含量は15~18%と比較的多いことから、魚醤油原料として十分に利用可能である。
使用する副原料
塩、醤油麹
加工技術
いしり、しょっつる、いかなご醤油では原料を全魚体ごと塩漬けした後に発酵・熟成工程(1~2年)に入る。主として内臓に含まれるプロテアーゼの作用を利用し、タンパク質を分解させることで遊離アミノ酸を増加させ、十分な熟成期間を経た後、魚醤油として完成する。
一方、ぶなざけ魚醤油では落とし身を原料とし、塩漬け工程は行わない。プロテアーゼの作用はいしり等に比べ期待できないため、原料混合段階で塩と醤油麹を添加する。麹菌の作用により、糖が分解され、グルコースが生成する。これにより発酵初期から有用細菌が増殖し、タンパク質の分解が促進される。特に耐塩性乳酸菌が速やかに増殖することでpHが低下する。塩濃度の上昇とpH低下により、不要な雑菌の増殖を抑制している。このように、醤油麹を添加することで魚醤油の品質を安定させることができる。また、醤油麹を添加した魚醤油は、添加しない魚醤油と比べて、風味が好まれる。この要因としては、魚醤油に含まれるオリゴペプチド態アミノ酸、遊離アミノ酸、遊離型糖、糖アルコールの組成と含量が異なることや、揮発性の有機酸の種類が少ないこと等が考えられている。
製造工程の概略

加工の実際
- 原料魚 10~12月頃に河川に遡上したシロサケ(ブナザケ)を使用する。
- 採肉 頭部、内臓を除去し、水洗して採肉し、落とし身とする。
- 原料混合 塩、水、醤油麹と混合する。仕込み時に最終濃度で塩濃度が約13~17%、麹が15%となるように混合する。
- 発酵・熟成 室温で6~12ヶ月間、または30℃で2~4ケ月間、発酵・熟成させる。
- 圧搾 圧搾により固形分と液体を分離する。
- 火入れ 発酵の停止と殺菌のため、70℃以上で10分間加熱する。
- 冷却 オリ(火入れによりタンパク質などが凝固した混濁物)が下部に沈降するまで、数時間から数日静置し、濾過操作を容易にする。
- 濾過 遠心濾過または膜濾過を行う。
- 容器詰め ペットボトルまたはビンに詰める。(写真2)
- 製品 常温で流通する。
写真②とイメージ.jpg)
品質管理のポイント
発酵を止めるため、70℃以上で火入れを行う。
製品の形態・保管方法
製品の形態は、ペットボトルが主流であったが、最近の製品は、ビン詰めが多い。常温保存可能である。
調理方法および食べ方
各種料理、焼き肉のタレ、パスタソース等の隠し味として用いられる。
同類製品例
現在、ぶなざけ魚醤油は、原料不足等の影響により生産量は減少している。しかし、ぶなざけ魚醤油の加工技術は、ソウダガツオ等の低利用魚、規格外のニギス、富山県の特産魚であるブリの未利用部位(内臓)やホタルイカを原料とした様々な魚醤油の開発に応用されており、新規製品(写真3~6)が富山県内数社から国内外において上市されている。
写真③-645x1024.jpg)
(㈲カネツル砂子商店提供)
写真④-736x1024.jpg)
(㈱梅かま提供)
写真⑤-565x1024.jpg)
(㈲片口屋提供)
写真⑥-516x1024.jpg)
(㈲片口屋提供)
参考文献
・舩津保浩.醤油麹を用いて製造した魚醤油の風味. 日食科工誌 2002; 49: 1-11.
コラム
「魚醬油の風味改良 ─麹を使用した魚醤油製造技術の実用化─」
産卵のために故郷の川に戻ってくるシロサケは、性成熟に伴い体内の栄養素をほとんど使い果たすため、特に成熟の進行したブナザケの身は脂が少なくパサパサとした食感になることから加工原料には適さず、「鮭とば」の原料となる他はあまり利用されていなかった。その遡上量は、富山県だけでも最大14万尾/年(390t以上)に達し、ほぼ全量が人工ふ化放流事業用に河川において捕獲(写真7)されることから、ブナザケの有効利用は、多くの道県で課題となっていた。
そこで富山県食品研究所では、平成8年度から、ぶなざけ魚醤油の開発に取り組み始めた。日本の三大魚醤油(いしり、しょっつる、いかなご魚醤油)は魚肉の自己消化酵素による自然発酵が主体であるが、ぶなざけ魚醤油は、副原料に醤油麹を使用することで、発酵・熟成の促進や魚醤油特有の不快臭の抑制に成功した。開発当時、実用レベルで醤油麹を使用した魚醤油の製造は国内初であった。
写真⑦.jpg)
(著者:富山県農林水産総合技術センター食品研究所 原田 恭行・
富山県農林水産総合技術センター水産研究所 小善 圭一)
